ヒナタとひなた

 この心地よい世界。おれは好き。ぷかぷかと浮かんでいる様な、はたまた沈んでいる様な。


 こんな世界がオレは好き。ずっと、ここに居たいな……。

 

 おれのところに1人の少女が来た。

 

「あれ、暫く来られないって言ってなかった?」

「私とあなたの同期が終わったから」

「ああ、そういうこと」

「これからは、いつでも話せるし、ヒナタも権能を使える」

「そうなんだ」


 今日から脳内がうるさくなるんだ。変な事されないかな、と心配していると急に顔を近づけて話しかけられた。

 

「ねぇヒナタ?世界は楽しい?」

「楽しい。ひなたは来ないの?おればかりこの世界で遊んでる」

「いいの。私はあなただから。あなたが楽しいなら私も楽しいの」

「そっか。ひなたも楽しめるような事をする」

「ありがとう」

「でも、おれの使ってる体はひなたの物。だからいつでも返す」

「大丈夫。いざとなったら権能で体くらい作れる」

「そうだよね。だって……」


 そして、おれたちは言う。

 

「あの世界はわたしのモノだから」


 と。


 ◇


 ピピピ……ピピピ……。


 めざまし時計の音が聞こえ目を開ける。この音はいつ聞いても不快だ。おれの心地よい空間を消してくるから。でも、起きるおれはえらいのだ。

 なんて、変なことを考えてしまう。今日は久しくあの夢を見たから嬉しい。あの子と会ったのは転生してからのみだったから1か月ぶりだ。

 まあ、そんなことを考えていても仕方ない。それに、今日から権能を使わせてくれるらしいからテンションが上がってる。


 この世界はファンタジーに溢れているそうだ。どんなファンタジーが広がっているのかは、楽しみが減るからと内緒らしい。


 なんて事を考えていたら、いつの間にか学校についていた。


「雨宮さんおはよー」

「おはよ」

「雨宮さんが話す度に息切れしてない……!?」

「ぶい」

「頑張ったんだねぇ」


 なんか中野さんがしみじみした感じ出してくるんだけど。


「あれ。橘君は?」

「あー。なんか今日いないね。どしたんだろ?」


 心配だ。それにおれのツッコミ役が居なくなるとボケづらい。ひなたなんか知らない?


(私はネット検索じゃない。あ、橘君、裏側に連れ込まれてる)


 裏側って?


(この世界には表と裏がある。表はここ。裏にはいろんなのがいる。危ないヤツとか危ない人とか)


 ヤバいじゃん。大丈夫なの?


(だいじょばない。強制的に能力を覚醒させられてる。このままじゃ裏側に落ちる)


 裏側に落ちるとどうなるの?


(怪物みたいになる)


 ダメじゃん!どうにかならないの?


(なる。方法は今から橘君の元に行く)


 それだけ?なら行く。


「あ!雨宮さんどこ行くの!?もうチャイムなるよ!」

「サボりたい欲望にあらがえない」

「さぼらないで!って、足はや!」


 タッタッタと走りながら、思う。どこに行けばいいのかと。


(裏側の入り口は自分で作れる)


 どうやって?


(呪文があるけど、私達なら命令すれば開く)


 それを聞いて、開けと命令する。すると、変な空間が目の前に現れた。おれはその中に躊躇なく入る。


(橘君の場所は自分が世界に命令オーダーすれば道がつながる)


 また、命令する。すると、目の前に橘君と変な人たちがいた。

 そして、橘君は血まみれだった。


「雨宮ヒナタ!?なぜここにいる!?」

「まずいですね。我々を見られましたか」

「ねえ、なにをしてるの?」


 尋ねると、目の前の2人は膝まづいた。


「答えて」


 すると、黒スーツの男は口を開く。

 

「橘守を……無、理や、り……覚、醒させました……」

「そう」


 どうやったら橘君治せる?


(命令すれば。この世界は私たちのもの。命令すれば自分の好きな様に出来る)


命令オーダー。橘君を治して」


 すると、橘君は元通りに治る。


「権能……!?」

「これは……」

「もういいよ」


 そう言うと、目の前の二人はこの場から一瞬で消えた。


(逃げた)


 逃げたんだ。まあいいや。


命令オーダー。橘君の家まで」


 そして、橘君の家に着く。家の鍵を開け、橘君をベッドで寝かせる。橘君を見ながら、ひなたに話しかける。


 あの人たちはなに?


(あれは、裏側の能力者。)


 ああいう人たちが多いの?


(別に。あれが特別変。裏側ノモノを狩ってる狩人が多い)


 へえ。裏側ノモノって?


(能力者が能力に飲み込まれたモノと、能力そのものが化け物になったモノがいる。大体は後者)


 橘君は大丈夫なの?


(大丈夫。私たちがいるから)


 そうなんだ。あ、橘君にご飯作ってあげよ。

 そう思いキッチンに向かった。

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