橘守とヒナタ

「……ハッ!?」


 体を起こし、回りを見渡すと俺の部屋だった。


(どういうことだ……?)


 黒コートさんと名乗る人物と、あの摩訶不思議な光景は夢だった?

 しかし、あれを夢と語るには心が、この体の痛みが否定してくる。


「てか、なんでこんなに痛いんだよ……!」


 その原因を探ろうとした瞬間、様々な情報が頭に刷り込まれる感じがした。

 それは、能力についてや能力の使い方、そして、裏と表の世界の事だった。

 理解しがたく、でも理解してしまう。

 今までの自分が居なくなるような感覚に嫌悪する。

 そして、見たモノの中に雨宮が目の前で殺される場面があった。


「なんだこれ……?なんなんだ?」


 どうしようもなく、何とも言えない恐怖に襲われる。


「ああ……!!あああ……!!」


 (なんで!なんで!なんで!!!!!!)

 

 なぜ、俺はこのような目にあっているのだろう?

 自問自答し続ける。

 いつまでこうしていたのだろう?

 段々とよくわからなくなっていく。


 部屋の中で自分が裏側に一人沈んていくような……。

 その瞬間。


「なにしてるの……?」

「え?」


 顔を上げると、そこに雨宮がいた。


「そんなに泣いて……」


 俺に近寄ってくる雨宮。

 だけど、手で振り払ってしまう。


「ち、ちが……!?」


 なんで俺は拒絶した!?どうして!?

 でも、雨宮は気にせず近づいてくる。


「来るな……!」


 違う!


「来るなぁ!」


 雨宮を壁に叩きつける。


「え……」


 違う!違う!違う!

 俺は一体なんでそんなことをした!?

 

 俺の心とは別に、体が雨宮を拒絶する。

 それでも、雨宮は立ち上がってこちらに来る。

 その足どりは不安定で、立っていられるのが不思議に感じる。

 そして……。

 

「全く……世話が焼けるね……。ふふっ……」

「あ……」


 暖かい......。


 雨宮は俺を抱きしめた。

 その時、俺を襲っていた恐怖はどこかに消え、ぬくもりだけが残った。


「あまみや……ごめん……」

「いいよ。少しねんねしよ?」

「うん…………」



 

 

 あれ?俺は何を……?


「もう……」


 なんか頭なでられてる?えーっと?

 

「あまみや」

「なに……?」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 ふと、時計を見ると夜中の10時を示していた。


「あれ?今日は……?」

「平日だよ……?」

「学校やすんだのか俺」

「気になって来たらびっくり」


 無表情で、驚いたしぐさをする。

 シュールだ。

 

「なあ、雨宮」

「ん?」

「話……聞いてくれないか?」

「いいよ……いっぱい聞かせて?」


 ゆっくりと、少しづつ話してみる。

 そして、全てを話した時には俺の体は軽くなった気がした。


「な……?おかしな話だろ……?」

「別に?」

「え?」


 てっきり笑われるかと思った俺は、少し変な声がでた。


「橘君は苦しかったんだよね?」

「ああ」

「怖かったんだよね?」

「……ああ」

「それが分かったから」

「……そっか」

「大丈夫。おれは橘君の味方だよ」


 そう言いながら、俺をまた抱きしめてくれる。

 でも今は気持ちが落ち着いたからか、甘い香りとやわらかい感触を意識してしまった。

 申し訳なさと、心地よさが同時に来る。


 少し経って、雨宮はそっと離れた。

 

「そろそろ帰るね?」

「迎えは呼んだのか?」

「まだ外で待ってる」

「見送るよ」

「ん。ありがと」


 玄関のドアを開けると、むすっとした顔のメイドがいた。

 

「いつまで待たせるのですか?」

「ごめんなさい……」

「あ!俺が悪いんだ!だから、雨宮を怒らないでくれませんか?」

「……まあ、いいでしょう。ですが、ヒナタ様には罰として私もなでなでしてもらいます」

「いいよ」

「なら、今回の、私をほったらかしにして男の子と逢引した件は不問にしましょう」

「うん」


 逢引って言い方悪くない?

 そして、このメイドは何さらっと変なこと要求してるんだよ。

 でも、俺が悪いから何もいえない。


「では、お乗りください」

「橘君。またね」

「またな」


 おなかが空いてキッチンに行くと、おいしそうな料理と俺がいるというメモがおいてあった。

 料理はとても優しい味がした。

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TS美少女の甘くて優しい生活 うさぎのしゅごしん @USAGI_NO_SYUGOSHIN

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