橘守と田中さん

さて、どんな部活を作ろうか……。

橘守は帰り道を歩きながら悩んでいた。すると、ぶるるとスマホが振動した。

送り主は


「なんだ?雨宮から……?なんか嫌な予感が……」


気なる内容はこうだ。


『部員、好きな人誘っていいから』


スマホを思わず地面に叩きつけそうになる。


「要するに部員集めてこいって意味だろこれ!!!」


なんともわがままな姫様である。

モ〇ハンのわがまま第三王女かってぐらいわがままである。

たとえが分かりにくいのはご愛敬。


またスマホが振動する。


「今度はなんだよ……」


『ご褒美あげるから』の文章と共に、雨宮がドエロい服装をした写真が送られてきた。


「ぶふぉ!!!???」


思わず吹き出す。


「何やってんだあいつ!?」


すぐに写真を消す。こんなもの残すとゆすりのネタにされる。絶対に。

といいつつ、バックアップはとっておいた。


「完全にアダルトサイトのそれだったよな……あれ……」


健全な男子たるもの、そういうサイトは一度や二度、開けたことがあるし、じっくり見た。

しかし、同級生から、しかも美少女からそういう写真が送られてくるとは思いもしなかった。


「雨宮の親はどういう教育してんだ……?」


会ったこともない雨宮の両親に若干の不信感を抱く。


「どうすっかなあ……」


またとぼとぼと歩き始める。

三十分も歩きながら考えたが、今一ついい案が思いつかない。


「なにかネタは、助っ人はいないのか……?」


すると、同じ学校の制服を着た少女がちょうどよくいた。

しかも、よく目を凝らすと……。


「田中さん……?」


雰囲気がそうだ。

俺は近づいて、話しかけてみる。


「田中さん?」

「ん?おや君は橘守君ではないか。奇遇だな」


物静かにしゃべると思っていた俺は、話し方のギャップに思わず。


「え……?だれ?」

「失礼だね君は。私が誰かわからないのか?

そうだな、学校では私はおとなしく読書をし、周りの観察をしている。

だが、君とは一言二言話しをした。ただそれだけだが、私は君の事を覚えている。

なのに、君は私の事を忘れてしまったのか?

それはとても残念なことであり、悲しいことだ。

ここでは、会話をしにくい。近くに公園がある。そこで座って話そうではないか」

「え?あ、うん」


俺は田中さんと思われる人物の後ろを歩く。

それから、これは誰かと考える。いや、わかっているが本当に自分が思っている人物と同一なのか。

それをまず確かめなければならない。

少しして、公園につきベンチに座る。

そして、疑問を問いかける。


「田中さん……だよな?」

「おや、覚えてくれてるではないか。そうだ。私は田中美月だ。

なぜ誰?などと、そのような疑問を問いかけてきたのかは私には理解ができないが。

私はほっとしたよ。私の事を忘れたのかと一瞬でも思ってしまったではないか」

「やっぱり?だよな?田中さんってそんなしゃべんの?田中さんってしゃべるんだ…」


学校でのもの静かな、誰とも会話をしない姿と現在のめちゃくちゃ話す姿が余りにも違うので、驚きを隠せない。

そんな俺の様子を見た田中さんは


「そんなに驚くかね?私も会話ぐらいはするぞ。確かに、学校で私は会話という会話をしたことはないが……。

友人もいない。それでもやはり、その、傷つくではないか」


田中さんは少し落ち込んだ様子を見せる。

それを見た俺は焦って


「いや!あの!学校では落ち着いた感じを見せてるからさ!そのギャップを感じたんだよ」

「そうか。私は人と会話するのが苦手でね……。こうして一気に話してしまう。」

「そうなのか」

「うん?それだけなのかい?」

「え?それだけだけど?」


田中さんはぽかんとする。そして、頷き。


「少しいいかね?」

「なんだ?」

「私の悩みを聞いてくれないか?人気者の君にしか相談できないことなんだ」


田中さんは深刻そうな顔をする。橘は思わずごくりと飲み込む

そして、内容は


「私に友達の作り方を教えてほしい!」


その内容に今度は俺がぽかんとする。

そんなのお構い無しに田中さんは続ける。


「これは私にとって重大なことなのだよ。私は高校生でびゅーというものをしたくてね。

だが、どうすればいいのかわからなくてね……。

初日から友人を多く作った君なら、なにかいいアドバイスをくれると思ってね。

その……だめか?」

「別にいいぞ。と言ってもなあ~」


俺は考える。


「やはり話し方を変えた方がいいかね?」

「いや、そのままでいい」

「それはなぜだね?」

「田中さんのその話し方は一つの個性だ。それを失うのは惜しい」

「そう……なのかね?私はこの話し方のせいで友人が離れていったのだが……」


田中さんは少し暗い表情をみせる。


「いや、その離れていった友人ってやつがおかしい。

友人というならその友人の個性を認めるべきだ。

別に田中さんが気にすることではないぞ?」


俺は真剣な顔で言う。それを聞いて田中さんは嬉しそうに笑う。


「そうか……ありがとう……。……では、どうすればいいのだね?」

「見た目だな」

「見た目?」

「田中さんの見た目は全体的に暗い。それを直すだけで十分だ。ついてきて」


そして、ついた先は美容院であった。


「ども、シンさん」

「いらっしゃい、今日はどうしたの?」


彼女は鳩部シン。とある理由で知り合った。

シンさんはその理由ですごく信頼していくれている。

それはさておき。


「今日は、この子を綺麗にしてほしいんだ」

「……彼女?」

「ち、違う!とりあえずよろしく!」

「まあ、いいわ。ほら、こっちに来て。私が貴女を変えてあげる」


そして、三時間後。その宣言通りに田中さんは変わった。

それは誰もが見惚れ、振り返るほどに。


「やっぱり、下地がいいわね。そのおかげでほとんど変えずに済んだわ」

「にしては時間かかったな……」


俺はぐったりする。そんな俺の様子を見てシンさんは


「女の子のお手入れは時間がかかるの!わかった!?」

「は、はい!わかりました!」

「よろしい。美月ちゃんだっけ?どう?」

「これが私なのか?まるで別人ではないか…」

「美月ちゃんは可愛いのだからもっと自信をもって!ね?」

「おう、可愛いぜ?それに、綺麗だ」

「やめてくれないかね!?恥ずかしいではないか!」


そして、美容院を後にしたふたり。そして、帰りを歩いていた。


「ありがとう橘君。私の為にここまでしてくれて…」

「いいってことよ」


すると、田中さんは急に立ち止まる。そして、橘の方を向く。


「君は、なぜここまで私に良くしてくれたのだね?こんな、私に……」

「え?まあ普通に?」

「少し、話を聞いてくれないか?」

「いいけど」

「私は怖かったのだよ。初めてできた友人は直ぐに離れてしまった……。

理由はこの話し方が鼻につくからだったよ。だけど、また友人は作れると私は楽観していた。

だが、現実は皆、私から離れて行くばかりだった…。

嫌われていくだけだった……」

「………」

「どうしてと思った。そして、友達を作るのを諦めようと思った。

でも、最後だとと思って、友達を作ろうとした。

でも、どうやってもわからなくて、勇気がわかなくて。

だから、君に話しかけられた時に思わず助けを求めてしまったよ。

断られたら私はもう戻れないというのに……」


だけどと田中さんは続ける


「君は悩みを聞いてくれて、助けてくれた。

思えば私の一方通行だったね……。

やはり、こんなわがままな私を嫌うかい?」


そんな寂しそうな顔をむけられる。震えた子犬のように。

だが、俺は


「嫌うとかそんなわけないだろ?それに、そんなことわがままには入らないさ」

「え?」

「嫌な奴なら、俺も嫌う。だけど、田中さんは良い人だってわかる。

俺には人を見る目があると自負している。

ほら、俺の事を少し挨拶しただけで覚えてくれているだろ?」


それを、聞いた田中さんはくすりと笑い


「それは君もだろう?」


少し間が空く。

そして、意を決したように田中さんは口を開く。


「橘君。頼みたいことがあるのだが……」

「なんだ?」

「その……私と友達になってくれないか?」


俺は少しため息をつく。


「何を言っているんだ?田中さんは友達に友達になってほしいってお願いするのか?

変わってるな?」


と俺はこたえた。


「そうか………。そうだな、私たちは友達だったな……」

「田中さん!?なんで泣いてんだ!?え?あっと……」


田中さんの目から涙がこぼれる。

俺はあわててしまう。そんな俺の様子を見て田中さんは涙を拭い、そしてくすりと笑う。


「ありがとう。私の初めての友人よ」

「ん?田中さん、なにか言ったか?ごめん、もう一度言ってくれるか?」


田中さんは首を振り


「なんでもない。あと、私の事は美月と呼びたまえ。私は守と呼ぶ」

「そうか。じゃあ、これからもよろしく。美月さん」

「こちらこそよろしく頼むよ、守君」


駅に着くが、あ!っと思い出したかのように橘は声を出す。


「そういえば部活の内容どうすっかなあ……。美月さんは何か案はある?」

「そうだねぇ……」


美月さんは長考して。

ぽんと手を叩く。


「そうだ。お悩み解決部なんてどうだい?私の悩みを解決したんだ。きっと他の人の悩みを解決出来ると思うよ。

守君にふさわしいだろう?」

「そうか!ありがとう!あ、美月も入るか?

てか、入ってくれ!今回の代金ってことで!」

「是非とも」

「ありがとう!じゃあな」


そう言い残して、俺はこの場から走り去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る