起点-9

捜査3日目

 アナウンサー中田 滝美は能面のような表情を浮かべる。

 それは、何故か。

 先日、奥多摩で見つかった白骨遺体の取材の際、ナンパしてきた変な男が目の前にいるからだった。

「いやぁ~これも何かの縁ですかね。またお会いできるとは」寅三郎が言う。

「そうですね」作り笑顔で受け答えする滝美。

 寅三郎と翔は黒道から紹介された被害者・加藤の彼女の女友達・中田 滝美を訪ねテレビ局の喫茶店で聞き込みを行っていた。

「俺のこと、覚えてます?」自分の顔を指しながら質問する寅三郎。

「ええ、小便の寅でしたっけ?」

「違います。Showyの寅!です」愛称を名乗りながら、ポーズを取る寅三郎。

「そうでしたね」

「でも、驚きましたよ。まさか、イエローリボンの一味だったとは」

「一味というのは、あまり好きではありませんね。

若気の至りですから」

「そうですよ。寅さん。もうその位で」翔が窘める。

「んだよ」拗ねる寅三郎。

「あの中田さん。もう知っておられると思いますがあの白骨遺体の身元が昔の仲間の加藤さんでして。

加藤さんには、近しい親族がいないもので遺骨の引き取りもかねて加藤さんの彼女さんの連絡先を教えて頂きたいのですが」翔は滝美に今回訪ねた理由を伝える。

「そうだったんですか。分かりました」

 滝美は、スマホの連絡先から加藤の彼女・桂田 麻衣かつらだ まいの情報を出し、翔に見せる。

「ありがとうございます。」

 翔はそう言って、スマホのメモ帳に電話番号等を控える。

「後、二三お聞きしたい事があるのですが?」翔は質問を続ける。

「何でしょう」

「被害者の加藤さんとは面識はおありですか?」

「二回くらいしかあったことありません」

「最後に遭ったのはいつですか?」

「あれは確かぁ、麻衣が私に妊娠したことを打ち明けてくれた時です」

「妊娠ですか?お答えいただけるならで構いませんが。

加藤さんとの子供ですか?」

「はい。麻衣からはそう聞いています」

「因みになんですが、桂田さんは今回の事件を知っているのでしょうか?」

「ええ。でも、遺骨は引き取らないと思いますよ」

「それは何故?」

「加藤が居なくなってからずーっと一人で、かい君の事を苦労して育ててますから。

あ、魁君っていうのは彼女の子供です」

「加藤さんとは、結婚はされてなかったんですか?」

「してないと思います。彼に打ち明けようか悩んでいる時に、居なくなったって言いました」

「そうでしたか」

 桂田という女性はこの10年間どういう思いで過ごし、子供を育てているのかそんな事を考える翔。

「あのもういいですか?これから番組の打ち合わせなので」

「すいません。忙しい中、ありがとうございました」礼を言う翔。

「では」伝票を持って席を立つ滝美。

「ああ、それは僕がお支払いします」

 滝美が持つ伝票を取り上げる寅三郎。

「でもぉ~」

「お忙しい中こんなむさいおっさん二人に付き合って頂いたんです。

お気になさらず」

「そうですか。すいません。失礼します」

 喫茶店を出る滝美に手を振りながら見送る寅三郎。

 滝美が居なくなるのを確認すると、伝票を翔に渡す。

「え?寅さんが払うんじゃないんですか」

「いやいや、安い報酬で雇われている貧乏探偵にお代払える能力あるわけないじゃない」

「全く」

 翔は伝票を持って代金を支払いそのままテレビ局を後にし、襲撃に遭い聞き込みできなかった相手、屋垣 清の勤める会社へと向かった。

 屋垣の勤め先は横浜のランドマークタワーのタワー棟に入っている商社だった。

 黒道と同じように、会社の玄関で屋垣もまた待っていた。

「警察の方ですね。どうぞ、こちらへ」

 そのまま応接室に通される。

 席に着くと翔が話を始める。

「私が伺ったのは」

「黒道から聞いております。加藤の件ですよね」

「はい」

「黒道と一緒ですよ。私がお答えることが出来るのは」

「そうですか。」

「では、事件前に加藤さんに変わったことはありませんでしたか?」

「いや~チームを抜けたがっていたこと以外は特に。

あの私からも一つ良いですか?」

「何でしょう。」

「凶器は発見されたりしたのでしょうか?」

「いえ、見つかっていないので犯人に繋がるような物は・・・・・・」

「そうですか。あれでも、黒道が言ってましたよ。

保力が犯人だって」屋垣もまた黒道のように涙ぐみ始める。

「その可能性が高いだけです。

これ以上は、捜査に関わることなので」

「どうもすいませんでした。

只、仲間が殺されたのに何もできない自分が歯がゆくて。」

 ついには、大粒の涙を流す。

「仲間思いなんですね」

「自分はそう思ってないんですけどね。

周りからも良く言われるんですよ。

お前は、仲間を自分と同様いやそれ以上に大切にする奴だって」

 ハンカチで涙を拭い、はにかんで気丈なふるまいを見せる屋垣。

「そんな事はないんじゃないですか。

僕は、素敵だと思いすよ」

 翔は、率直に思ったことを伝える。

「ありがとうございます。刑事さん」

「今日はどうも、ありがとうございました」

「こちらこそ、お役に立てなくて申し訳ありません。

何か思い出したら連絡したいので、連絡先を教えて頂けますか?」

「はい」

 翔と屋垣は連絡先を交換し、翔は屋垣のオフィスを出た。

 ランドマークタワーの地下駐車場に行くとかっちりとスーツを着込んだ寅三郎がエレベーターホールで待っていた。

「あら、早かったじゃない」

「寅さんの方こそ、何かいい情報を得られましたか?」

 翔が屋垣に聞きこみを行っている間、寅三郎は翔とは別に会社での屋垣の身辺調査を行っていた。

「んにゃあ」寅三郎は、首を横に振る。

「一旦、帰りましょう」

「そうだな」

 この日の捜査を終える。

“ナレーションば~い(小声)

捜査終了まで残り四日。

こんなスローペースで彼らは、事件解決できるのか?

心配っちゃね。

皆、応援よろしくぅ~

って、何を応援することがあるんやろ。”

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