起点-10

捜査4日目

 七部署の資料室に寅三郎と翔はいた。

「寅さん。これが加藤さんの両親が殺害された事件です」

 翔は、当時の捜査資料を見せる。

「あんがとさん」

 受け取り資料に目を通し始める寅三郎。

「急にどうしたんですか?」

「ん?ああ、この前さ加藤の両親は10年前に死んでいるって言ったじゃん。

最初、事故かと思ったんだけどここに来る前に、新人君に聞いたら殺害されたって教えてくれたじゃない。

もしかして、自分で犯人を見つけて敵討ちで返り討ちにあって殺されたのかな、なんて」

「それ言います?だって現に僕達、族から襲撃に遭ったじゃないですか!?」

 突然の寅三郎の推理に戸惑う翔。

「そうだね。でも、この資料を読んでいる限り俺達の事件と関係ないとは思えないけど」

“ど~も、また出番を頂けたナレーションば~い。

じゃあ、加藤夫妻強盗殺人事件について説明するばい。

事件は、2011年11月21日から22日の深夜にかけて起きた。

深夜に強盗が入り、家に居た加藤夫妻が犠牲になった。

犯人は、グループでの犯行とみられ加藤家から騒音での通報で事件が発覚。

家の中は壁には大きなが無数にあけられ、家具もひっくり返され滅茶苦茶に荒らされていた。

そして、家具には家族以外の指紋が無数に付いていた。

だが、前科者リストに該当する指紋はなかった。

夫婦の遺体は刺傷や打撲痕が体中にあり、原形をとどめない無惨なものになっていた。

被害額は想定15万円程度。

息子の清に連絡を取るも連絡がつかなかった。

捜査本部は、海外の強盗団の仕業とし捜査を進めるが進展がないまま10年の時が流れた。

そして、迷宮入りの事件の仲間入りを果たす。

私の標準語のナレは、どうやったろか?

まあ、胸糞悪い事件やね。

では、私は引っ込みま~す。”

「どういうことですか?」

 翔は寅三郎に聞き返す。

「まず、グループの犯行でしょ。グループと言えば族の人達。

ここにも書いてあるけど息子・清に連絡するが連絡つかなかった。

つまりは、この時点で殺されていた可能性が高いんじゃない」

「仮に寅さんの言うとおりだとして、裏切者を殺してなお家族まで御礼参りすると思いますか?」

「家族に捜索願を出させないようにするためだったら」

「それだと、被害者の彼女さんについて説明が付きません」

「新人君、一番大事なことを忘れてない。

あいつらが、仲間思いだって事。

いくら、裏切者の彼女でも仲間だったら殺したりはしないし、彼女まで殺したら加藤に近い人が相次いで亡くなる事になって、御礼参りしていることが露見しやすくなる。

でも、この状況なら真っ先に疑われるのは、行方不明になっている加藤とその仲間だと思うけど。

疑わなかったみたいだね、当時の捜査員は」

「成程。ですが、彼女にはどうやって加藤さんが居なくった事を誤魔化したんでしょう」

「それをこれから聞きに行くんでしょう。新人君」

 寅三郎が壁掛けの時計を見ると、アポを取っている時間に間に合う時刻を示していた。


 昼下がりの公園で被害者の加藤の元恋人桂田 麻衣に聞き込みをしていた。

「あいつ、死んでいたらしいですね」

 麻衣は、公園のベンチに座ると同時にぽつりと話しかけてきた。

「ええ、残念なお話ですが・・・・」翔は申し訳なそうに答える。

「ざまあみろって感じです」

 そう言う麻衣の目に涙が薄っすら浮かぶのを寅三郎は、見逃さなかった。

 なんと返していいのか分からなかった翔は、誤魔化すように質問し始める。

「加藤さんと最後にお会いになったのはいつ頃ですか?」

「忘れもしません。11月21日です。

彼に大事な話があるって呼ばれて」

「そうですか」メモを取りながら、加藤の両親の殺された前日だと翔は思う。

「その時、何かおかしなことはありませんでした?」翔は質問を続ける。

「いえ、特に」そう言って、俯く麻衣。

「そう言えば・・・・・・」何かを思い出したらしく顔を上げる麻衣。

「何でしょうか?」

「彼、話している途中で電話に出てその後に私に言ったんです。

「これから、ケリつけてくる」って。

何の事だったのか分かりませんでしたけど」

「他には?」

「それ以外は特に」

「あの不躾な質問で申し訳ないのですが、加藤さんとの大事な話って何だったんでしょうか?」

 今度は、寅三郎が質問する。

「プロポーズでした」

「お受けになったんですか?」

「はい、でもあいつはそれから何の連絡も寄越さなかった。」

 神妙な顔で頷く寅三郎は質問を続ける。

「これまた失礼ですが、ご結婚は?」

「いいえ。未婚の母として息子を育てます」

「そうでしたか。プライベートなことに答えてもらいありがとうございます。

後、もう一点質問宜しいですか?」

「はい」

「加藤さんが居なくなって、捜索願を出そうとはなさらなかったのですか?」

「出そうとしましたよ。彼の両親もあんな事になってしまって。

私が変わりにと思ってでも、止められたんです」

『止められた?』聞き手の二人の声がハモる。

「ええ、彼の族仲間の屋垣君に。

「俺達が責任を持って奴を見つける」って」

「でも、見つからなかった」

 翔の一言に頷く。

「その時、彼は何か言ってませんでしたか?」翔が麻衣に聞く。

「あいつは置手紙を残してたといって、渡されたんですけど。

どう見ても、筆記体が違うので彼が書いた物じゃないことが一発で分かりました。

彼、字が下手糞だったから」

「つまりは、仲間の誰かが書いたと」

「多分そうだと思います」

 翔の問いに答える麻衣。

「それで私、彼らが何かを隠していると思って、彼らと距離をおきました」

「そうだったんですね」

 翔の中でイエローリボンのメンバーへの疑念が高まっていく。

 麻衣は、スマホで時間を確認すると休憩時間が終えようとしていた。

「すいません。これからまた仕事に戻らないといけないので」

「お忙しい中、ありがとうございました」と翔。

「失礼します。」

 麻衣は、寅三郎と翔に頭を下げて公園を去るのだった。


 七部署へ帰る車内は重い空気に包まれていた。

 イエローリボンの疑惑が確信へと変わり、寅三郎と翔は互いにどのように犯人達を追い詰めるかそれだけを考えていた。

『あの』二人の会話が被る。

「寅さんからどうぞ」翔は、発言権を譲る。

「じゃあ、お言葉に甘えて。

現状、加藤殺しの物的証拠は何一つないわけじゃない。」

「そうですね」

「だから、一番証拠が残っている加藤の両親殺害事件で追い込んでみようかと思っているんだけど」

「僕もそれが固いかなと思っています」

「お互いの考えが一致したな。

署に帰って、もう一度事件を洗い直そう」

「はい」

 寅三郎のスマホに所長から着信が入る。

「もしもし、寅です」

「Very Niceなニュースよ。

うちの事務所襲撃した奴とっ捕まえたから今すぐ戻ってきて」

「了解」

 通話を切る寅三郎。

「新人君、予定変更。

今すぐうちの事務所に向かって」

「どうしたんですか。また何かあったんですか?」

「それは、付いてからのお楽しみ」

 寅三郎は翔にウインクするが運転に集中している翔はガン無視するのだった。

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