起点-7

 会食を終えた黒道は会社に戻り、事務仕事をしていると優から着信が入る。

「もしもし?黒ちゃんか?」

 電話に出ると気を落としたような声で喋る優。

「どうした?何があった?」

「失敗した」

 聞き込みに来た若い刑事と変な探偵に、襲撃をかけた件だろうと思う黒道。

「そうか」

「そうかって。何のんきなことを言っているんだよ!」優は、声を荒げる。

「落ち着け。誰も殺せとは言ってないし。

俺達から目を背けるようにしろ。そう言っただろ」

「警告がてらパトカー小突いたら、銃を撃ってきたんだよ」

「そんな奴らには見えなかったがな」

「まあ、怪我をしたくらいで何とか帰ってきたのが二人だけだったが」

「分かった。後で金を割り増しで振り込んでおくから。

帰ってきた奴に渡してくれ」

「ありがとう。いつも、悪いな」

「こちらこそ。

それより、奴らはあの後、どこに向かってたんだ?」

「命からがら帰ってきた奴曰く、横浜らしい」

「清のとこか」

「多分な」

「当分は、大人しくしとけ」

「大人しくって。襲撃かけて大人しくはないだろう」

「これ以上、事を荒立てても仕方ないだろう」

「もう遅い。お前が教えてくれた探偵事務所にカチコミをかけさせたぞ」

「はぁ。それで終わりにしろよ。しつこくやると無駄に疑われることになるかもだぞ」

「安心しろ。全部は保力の仲間がやったことだ」

「お前、賢くなったな」

「うるせぇ」

「なんにせよ。あの刑事には感謝しないとな」

「全くだ」

 黒道と優は、昔の話に花を咲かせるのだった。


 神奈川県警に犯人達の身柄を預けたその帰り道、再び首都高湾岸線を走っていた。

「良かったな。神奈川県警の人が親切で」

 寅三郎は、高速道路から見えるフジテレビを眺めながら翔に話しかける。

「そうですね」適当に相槌を打つ翔。

「ああ、新人君にいいこと教えてあげる」

「何ですか?」

「神奈川県警からさ、またバイク付いてきてるよ」

 翔は、バックミラーで後方を確認する。

「うっそー。はい、引っかかったぁ~」

「寅さん。」寅三郎を睨みつける翔。

「怖い顔するなよ。レディが寄ってこないぞ」

「ご心配なく。寅さんよりは、モテます」

「言ってくれるねぇ~今度、勝負するか?」

「良いですよ。というより、こんな会話している場合ではないと思うんですけど」

「いやいや、ずっと事件のこと考えている方が気疲れするよ」

「被害者のためにはそんな事言ってられません!」

「本当に真面目だね。君は」

「けなされているようにしか感じませんけどね」

「怒っちゃや~よ」

「怒ってません!」

「いやいや、怒っているから」

 そこから暫く無言に包まれる車内。

「寅さん」翔は」から話しかける。

「何?」

「あいつらが言っていた事、本当でしょうか?」

 あいつらと言うのは、大黒埠頭での大捕り物して捕まえた6人の男達の事だ。

 軽傷だった奴はそのまま最寄りの警察署に連行され取り調べが行われた。

 そいつの言い分では、保力の知り合いから頼まれたというのだ。

 保力の敵討ちを依頼され、俺達を襲って返り討ちに遭ったというわけだ。

「イエローリボンの奴らに決まっているでしょう」

「なんでですか?」

「おい、マジかよ」

 ムッとする翔。

「良いか?新人君。

保力の知り合いから依頼されるって何?

いくら知り合いとて、俺達が捕まえたことは警察関係者しか分からいないわけだ」

「でも、保力が面会人に喋ったとか。知り合いが逮捕劇を目撃していたとか考えられるじゃありませんか」

 翔のその一言に、寅三郎は大笑いする。

「何が可笑しいんです!?」

「すまない。すまない」寅三郎は、笑い涙を拭いて謝る。

「不愉快です」

「じゃあ、親切に教えてあげよう。良いか。

俺達が七部署から出て来た時からあのバイク集団が尾行していたなら警察関係者や保力の知り合い、保力の面会人を疑うのは分かる。

でも、奴らが尾行してきたのは六本木ヒルズから。本人達もそう供述してたしな。

一番大事なのは、新人君が黒道に保力が犯人だ! って言ったのが効いたんだろうな。

つまりは、俺達がエレベーターで降りている間に黒道があの男達に指示を出したのだろう。

捕まっても、保力の知り合いからの指示です。で、通せってな」

「それはぁ・・・・・・」翔は、言葉に詰まる。

「これだけ、材料揃ってるし。

そもそも保力の知り合いでごまかせると思っているあいつらは、マヌケだ」

 その時、寅三郎のスマホが鳴る。

 着信相手は、鳴本所長からだった。

「もすもす、寅だす」場の空気を和ませようと寅三郎は出る。

「何がもすもすよ!」

「あ、何かありました?」

「今、事務所に帰ったら窓が全部割れてたの!

あんた、何かしたんじゃないでしょうね。」

「あ~元暴走族に絡まれるような事をしておりましてぇ~」

「ああ、そう。今すぐ帰ってきて報告しなさい!」

 通話が切れた。

 寅三郎は深いため息をつく。

「あのぉ~新人君。」

「何でしょう。」

「今ね、内の所長からブチ切れられてね。

あいつら、うちの事務所に投石してくたんだよね」

「えっ、一大事じゃないですか!

今すぐ向かいましょう」

「宜しくお願い致します」

 頭を下げお願いする寅三郎。

 二人を乗せたパトカーは寅三郎の事務所がある五反田に向けて走る。

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