起点-5

捜査2日目

 寅三郎と翔は、イエローリボンのリーダー黒道にアポイントメントが取れ早速、聞き込みをしに六本木ヒルズへと来ていた。

 現在の黒道は、IT企業の社長になっていた。

 黒道の会社が入っているフロアにつくと黒道が二人を待っていた。

「どうも、警察の方ですね。どうぞ、こちらへ」

 二人は、そのままガラス張りの会議室に通される。

「どうぞ、お掛け下さい」

『失礼します』

 二人は同時に言い、椅子に腰を降ろす。

 寅三郎は回転椅子を黒道とは反対の方向に回すと、ガラスの向こうに居る女性社員に笑顔で手を振るが、目の前の視界がホワイトアウトした。

 黒道が、外から見えないようにしたのだ。

「チっ!」舌打ちすると寅三郎は、黒道の座る方へと椅子を戻す。

「確か、カットの事でしたね」黒道が二人に質問する。

「カット?」翔は、首を傾げる。

「加藤さんの事ですよね?」

「ええ」寅三郎の一言に頷く黒道。

「ああ」そこで被害者の加藤のあだ名と理解する翔。

「全く、お前は。どうもすいません」

 寅三郎は、黒道に謝ると首を振り翔に質問を続けるよう促す。

「早速ですが、加藤さんが白骨遺体となって発見された事はご存じですよね」

「ニュースを観てびっくりしました。この10年、どこにいるのかと思ったら・・・・・・」

 黒道が涙ぐむのを見て、翔は本当に仲間思いの人なんだと痛感する。

「加藤さんと最後にお会いしたのは何時ですか?」

 黒道は、聞き込みに来た刑事が若くて良かったと思う。

 こちらのペースに乗せられると。

「10年前の今頃でしたね」

「具体的な日付とか覚えてませんよね?」

「すいません」頭を下げて謝る黒道。

「いえ、頭をあげて下さい。」

「私、いや私達があの時もう少し探しておけば。カットはこんな事に・・・・・・」

 黒道は言葉を詰まらせ、溢れ出た涙をハンカチで拭う。

 居た堪れない気持ちになる翔とは対照的に寅三郎は、黒道若しくはイエローリボンメンバーが犯人だと確信するのだった。

「あの一つ宜しいですか」人差し指を立てた寅三郎が質問を始める。

「探したとおっしゃっていましたが、何か行方不明になるきっかけでもおありになったのですか?」

 その一言に一瞬、黒道は眉間にしわを寄せる。

「ええ。チーム解散の話が挙がった時にちょっとありまして」

「加藤さんはチームを抜けたがっていると被疑者の保力が供述していますが。

その点は?」翔が言う。

「犯人捕まってるんですか?」黒道の声色が高揚する。

「はい。今、証拠集めでこうしてお話を疑っている所でして。」

「ゴホッゴホッ、ゴッホ」

 如何にもわざとらしい咳き込みで翔に喋りすぎの忠告する寅三郎。

「犯人は、保力なんですか?」

「私達はそう思っています。本人は否認していますが」

「喋りすぎ」寅三郎が今度は口で忠告する。

「今のは、忘れて下さい」翔は、慌てて口止めする。

「分かりました」黒道は、優しい笑顔で頷く。

「すいません、僕の質問に答えて頂きません?

チーム解散の際に、何があったのか」

「この刑事さんがおしゃっていたように、カットはチームを抜けたがっていました。

なので、チームを解散する話が出た時カットは賛成しました。

でも・・・・・・」

「でも?」

「チームは解散するけど、これからも関係は続けて行こうそんな話になりまして」

「それに反対したのが、カットさん」

「はい」

「で、殺したと」

「何が、言いたいんです?」ムッとする黒道。

「冗談ですよ。刑事ドラマとかだとすぐこう言う台詞になるじゃないですか」

 まさか、黒道が怒るとは思わず寅三郎は何とか誤魔化そうとする。

「あまり、面白くない冗談ですね」

「そうですよ。寅さん、謝って下さい」翔は寅三郎に謝罪するよう要求する。

「どうも、すんませんでした」軽く頭を下げて謝る寅三郎。

「続きなんですが、その後の関係で揉めたとのことですが。

喧嘩に発展したとかそういった感じですか?」

 翔の質問に首を横に振り否定する黒道。

「喧嘩はしてませんが、そこからぷっつりと姿を消して連絡も取れなくなって。

彼女の麻衣まいちゃんも心配していたので。

それで、俺達で捜索を」

「警察に捜索願は、出さなかったのですか?」

「しましたよ。でも、取り合ってくれなかった」

「そうだったんですか」

 当時の警察は、何をしていたんだと憤る翔。

「家族の方には、聞かなかったのですか?」寅三郎が聞く。

「カットの家族を知らなかったので。」

「彼女さんのその後とかって分かります?」

「いやぁ、あ」

 何かを思い出したのか黒道は会議室を出て、一枚の名刺を持って戻ってきた。

「彼女なら知っているかもです。」

 翔は黒道から名刺を受け取ると、寅三郎が名前を確認しようとする前に胸ポケットにしまう。

「この名刺、預かっても?」翔が尋ねる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」礼を言う翔。

「多分、会ったら驚かれるだろうなぁ。」黒道は嬉しそうに言う。

 すると、黒道のスマホから通知音が鳴り、確認する黒道。

「すいません。これから取引先との会食が」

「長々とすいません。今日はありがとうございました」

 翔は椅子から立ち上がると、一礼し会議室を出ようとする。

 それに続く寅三郎。

「あ、刑事さん。もしよろしければ、連絡先を教えて下さい。

何かを思い出すかもしれないので」

「いいですよ」

 翔よりも先に返事する寅三郎は、黒道に自分の名刺を渡す。

「風車さんですね。ん?貴方、刑事じゃないんですか?」

 寅三郎の名刺には、探偵の文字が記載されていたからだ。

「昨今、人手不足の警察の下請けみたいなことをしていましてね。

この新米刑事のお守りを仰せつかっているので」

 どうりで刑事らしくなかったわけだと思う黒道。

「成程、大変ですね」

「本当です。

それと、浮気調査等のご依頼があるのでしたら通常料金から割り引きますから。

いつでも来てください」

「はあ」

「では、失礼します。

行くぞ、新人君」

 寅三郎は翔を連れて、黒道の会社が入っているフロアを出ていく。

 エレベーターホールでエレベーターを待っている間、寅三郎と翔は黒道について話す。

「なあ、あいつの話聞いてどう思った?」寅三郎が最初に切り出す。

「嘘を付いているようには感じませんでしたけど」

「やっぱり新人君は、まだ保力を犯人だと考えてるんだ」

「奴が犯人です。なんで、奴を庇うんですか?」

「庇ってないよ。只、黒道と話してみて胡散臭ぇって感じしたな。

こいつ、何かを知っているなぁって思わなかった?」

「思わなかったですし、どこが胡散臭いんですか?」

 エレベーターが来たので乗る二人は話を続ける。

「いやいくら、昔の仲間が死んだからって涙流すとか気持ち悪くない?」

「そんな事を言う寅さんの方が、気持ち悪いです」

「なんでぇ。昔の仲間と関係を絶とうしてる奴を引き留めるって、ほっときゃあいいのに」

「それだけ仲間との絆を大切にする人なんです」

「そんなものかねぇ~」

 寅三郎は、関係を絶とうとするにはよっぽどの理由があるだろうにと思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る