起点-4
大藤捜査一課長に報酬をUPの交渉を終えた寅三郎と翔は、七部署の鑑識課に来ていた。
米さんから被害者の顔を複顔法で復元させることに成功し、身元が判明したとの連絡を受けたのだ。
“どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
なんか出番の多い、ナレーションばぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!
今、出た複顔法っていうのは、白骨化した遺体に粘土を用いてその人がどんな顔をしていたのかを復元する鑑定方法になるみたいやね。
はいたぁ~今はねCGでも復元できるらしいけん。
時代は進歩するものやねぇ~
では、本編にどうぞぉ~”
「で、米さん。身元は?」翔が口火を切る。
「はい、この加藤 一輝という男性です。因みにマエがありました。」
米さんは、翔にCGで復元した顔のモンタージュと被害者加藤の顔写真を渡す。
「マエ?」寅三郎が尋ねる。
「これを見てください」
二人に前科者照合ベースのデータを見せる。
そこには、前科一犯・傷害との記載がある。
「傷害か」寅三郎は、ぼそっと呟く。
「ええ、それも13年前ですが」米さんが補足する。
「当時の年齢は、17歳。所謂、不良ですね」翔は寅三郎を見る。
「翔君、若くして傷害事件を起こしたからったって不良と決めつけるのは早急じゃない?」
「寅さん、ここを観てください」
翔が指さす所属欄に不良グループ・イエローリボンの文字があった。
「こりゃ、失敬。にしても、イエローリボンかぁ。懐かしいな」
「寅さん、知っているんですか?」
「ああ、俺らの世代じゃあ有名だよ。イエローリボン。
といっても俺らの代で伝説の扱いだったから、新人君が知るはずもないか・・・・・」
「ふ~ん」あまり、ピンと来てない翔。
「あのもう宜しいでしょうか?
家政婦をみた殺人事件の捜査会議に行かないと行けない時間なので」
米さんが、二人の会話に割って入る。
『どうぞ』二人は返事をする。
「では、失礼します」
米さんはそう言って、鑑識課を出ていく。
そして、取調室に場所を移した寅三郎と翔は、保力の事情聴取を行う。
「この男性、知っているか?」
翔は加藤の写真を保力に見せる。
「加藤だ。懐かしいな。こいつがどうしたんだ?
こいつは、銀行強盗には関わってねぇぞ」ふてぶてしい態度の保力。
「そんな事は知っている。実はこの加藤さん、白骨遺体で見つかった。
それも、お前が金を隠した場所のすぐ近くでな」
「つまり、俺が殺したって言いたいのか?
はっ、あり得ない。そいつとは、11年前に遭ったきりだ」
「良く覚えてるな。11年前とか。」それまで黙っていた寅三郎が口を開く。
「そりゃあ、こいつのおかげで目障りだったイエローリボンの奴らを潰せたんだから。」
保力もまた、暴走族・
「ほぉ」保力の一言に感嘆な声を出す寅三郎。
「加藤さんとはどういう関係だ?」翔は、聞く。
「どういうって、奴は族を抜けたがっていた。
それを手助けしてやったまで」
「どうやって? どうやって?」寅三郎は興味津々で質問する。
そんな寅三郎を観てちょっと嬉しくなったのか保力は饒舌に喋り始めた。
「まず、加藤の方から接触してきたんだよ。本当だ。
最初は、喧嘩を売りに来たのかって思ったんだが違ってな。
よくよく話を聞いていると、自分のチームを抜け出したいって言うんだ。
でも、あいつのチームは抜けようと思ったら簡単に抜けられるんだよ。
変だよなと思いながら俺、聞いたんだよ。なんで、俺達に頼るんだって。
そしたらあいつ「今までの関係を綺麗に清算させたいから。」なんてこと言いやがって。
俺達も敵対するチームを潰せるのに越したことないしそれに・・・・・・」
「それに」ウキウキ顔で復唱する寅三郎。
「それに、イエローリボン総長の黒道が気に入らなかった。というより、他のチームの奴らも同じだと思うぜ。
俺達、ヤンキーだからさ。喧嘩なんてしょっちゅうじゃん。
チーム抜きにして個人間で揉めたら普通、個人どうしでタイマンはってどっちかが勝ったら後腐れなくそれで終わり。
だけど、あいつら自分のチームの奴が個人どうしの喧嘩で負けるとチーム総出で御礼参り。
それが黒道の方針でさ。
ついでに、仲間をやられたっていう大義名分もあるから相手チームを潰す始末だったのよ」
「本当なんですか?」翔は、寅三郎に聞く。
「いや、俺が聞いていたのは仲間の為なら体張って強大なチームに立ち向かって勝利するみたいな青春ストーリーだったから」
「そういう風になっているんだ。下の世代には」あきれ顔の保力。
「続けて」翔は、保力に促す。
「で、加藤の誘いに乗って忘れもしない11年前の冬、あいつらが集会している所に乗り込んでいってな。
俺達も関東最大のチームだったから全支部集めて潰したわけ。
あの時ほど、スカッとしたことはないな」保力は遠い目をする。
「へぇ~そんな事が・・・・・」寅三郎は感慨深げに首を縦に振る。
感心している寅三郎を無視し、翔は本題に入る。
「その時若しくはその後に、加藤さんを殺してあの場所に埋めたのか?」
「はぁ?そんなわけないだろう。
あいつと最後に会ったのは、イエローリボンに襲撃かける前の晩。
それ以降、会ってないし死体になっていたってあんたに聞いて初めて知ったよ!」
保力は、加藤殺害を否認する。
「白を切るな。
実際、お前が金を隠した場所の近くで加藤さんの遺体が発見された。
お前以外考えられないだろう」強気の翔。
「それは、偶々だ!」語気を強めて反論する保力。
「何が偶々だ! 早く吐けっ!」翔は、机を思いっきり叩く。
「まあまあ、新人君。落ち着いて」寅三郎は胸をさすりながら宥める。
「全く。警察はいつも横暴だな!!!」保力は翔に悪態をつく。
「なにぃ~! 人一人殺してなんだその態度はぁ!?」
翔は保力に掴みかかろうとするが、寅三郎が止める。
「離してください!寅さん!」
「落ち着けって。殴ったら、始末書じゃ済まないよ」
「ですが!?」食い下がる翔。
「このクズ殴ったからって、事件が解決するわけじゃないから」
その一言で、翔は我に返り保力を睨みながら座っていた椅子に着く。
「なあ、あんた。なんであそこに金を隠したんだ?」
今度は、寅三郎が保力に質問する。
「元々あそこは俺達がチームを組んでいる時に、他のチームとチーム存続をかけて戦う決闘場として使っていた場所だ。
あの場所は俺達の代しか使っていないし、普段あそこに立ち入る奴なんて一人もいない」
「成程」
一理あると思う寅三郎と違い、そんなはずはないと思う翔。
「分かった。じゃあここにさ、あんたが知っている当時のイエローリボンのメンバーの名前を書いて」
寅三郎は自分のジャケットからメモ帳を取り出し、切り取った紙とペンを保力に渡す。
保力は、紙に名前を書き始める。
「ちょっと」
寅三郎は翔を連れて取調室横の部屋に連れて行く。
「新人君は、保力が本当に犯人だと思っているの?」
寅三郎は、部屋に入るや否や翔に質問する。
「思っています。それに状況が物語っているじゃありませんか。」
「ふっ、状況ね」
「寅さんは違うんですか?」
「ああ、違うね」
「じゃあ、加藤さん殺害犯は誰です?」
「知らないよ。そんな事」
マジックミラーの向こうにいる保力が書き終えるのを眺める寅三郎。
「寅さん!ふざけないでくださいっていつも言ってますよね!」
「ふざけてないさ。先入観は捨てたほうが良いよ。新人君」
寅三郎は翔を部屋に残るよう指示すると、再び取調室に戻る。
「書き終った?」
保力は寅三郎の問いに無言で頷く。
寅三郎は机の上のメモをとるとそこには、被害者の加藤を含めた四人の名前が書いてあった。
黒道
優
屋垣
加藤
「意外と少ないな」あまりの少なさに驚く寅三郎。
「有名どころしか知らないからな」
「ふ~ん、殺された加藤って人は有名な人なの?」
「まあな、No.3ぐらいのポジションじゃなかったかな」
「優っていうのはどういう奴?」
「ゆうじゃない、まさるだ」寅三郎の読み違いを、保力は訂正する。
「じゃあ、ま・さ・るは、どういう奴なの?」寅三郎は、再び尋ねる。
「そいつは、狂犬だ。キレたら何するか分からない。
取り敢えず、喧嘩が強い。
だから、加藤を殺した犯人はそいつだろうな」
被疑者なくせに寅三郎に推理を披露する保力。
「優は、加藤殺害の容疑が濃い人物ね。
じゃあ、この屋垣は?」
「そいつが一番、分からん。
喧嘩も対して強くないし、こう言っちゃなんだがヤンキーの恰好をした一般生徒って感じの奴だ。
なのに、いつもリーダーの黒道と一緒にいる。変な奴だった」
「変な奴かぁ~。分かった。ありがとう」
取調室を後にしようとする寅三郎に保力が呼び止める。
「おいあんた、俺を疑わないのか?さっきの新人刑事みたいに」
保力は自分を疑っていないような寅三郎を不思議がる。
「いや、お前が犯人だとこの話、ここで終わっちゃうから」
「は?」何を言っているのか理解できない保力。
「まあ、これから楽しい刑務所Lifeを送るこったな」
取調室後にしようとするがドアの前で何かを思い出した寅三郎は、保力の方を向く。
「そういや、背中と足。大丈夫か?」
「あんたか! 俺を撃ったのは。
背中は、まだ少し痛むよ」
保力は、顔を歪ませながら背中を擦る。
「そうか。じゃあな」
寅三郎は取調室を出ると、そのまま頭の中を整理する為に屋上に向かった。
数十分後
屋上で寅三郎が黄昏ている所に、翔が缶コーヒーを持って来て差し出す。
「ありがとう」寅三郎は礼を言うと、缶コーヒーを受け取る。
「寅さん、これからどうします?」プルタブを開けコーヒーを飲む翔。
「そうだなぁ。イエローリボン軍の主要メンバーに武勇伝でも聞きに行こうかな」
「武勇伝ですか? 被害者の事じゃなくて?」
「分かってないなぁ。武勇伝を聞いていれば否応なくNo.3だった被害者の名前は出てくるだろう」
「そうですが・・・・・」
「まだ、不服な訳?保力が犯人じゃない事が」
「そうです。先程も言いましたが、状況証拠は揃っています。
後は、自白が取れれば」
「新人君さぁ、取調室で連想する食べ物は何?」
「いきなり、何ですか。」
突然の問いに戸惑う翔。
「良いから答えて」
「カツ丼」
「じゃあ、張り込みだったら?」
「アンパンと牛乳ですかね」
「やっぱりな」
「何ですか?」
「そう言う先入観が往々にして捜査を狂わせるんですよ。肝に銘じておいてください。(杉下 右京風)って、一向に定年の気配を見せない右京さんが言っていたぞ」
「はあ」
「つまり、一辺倒で考えちゃダメなのよ。
確かに新人君の言うとおり、状況証拠だけでは保力は黒に近いよ。
でも、こうも考えられない?
イエローリボンの誰かが裏切者・加藤を殺したって」
黙って聞く翔を他所に話を続ける寅三郎。
「動機に関しては、こちらの方が無理はないと思うし、保力も言っていたじゃない。
死体が見つかった場所はチーム抗争の決闘場だった。
だから、色んなチームが出入りしていたわけじゃん。
充分、イエローリボン軍を疑う余地は出てくるけど」
「ですが、保力が加藤と揉めたという可能性もあります」
「揉めるねぇ。どういう理由で?」
「それはぁ、金。ですかね」
「金かぁ~安直な先入観に囚われすぎ。
俺だったら、幹部にそれも保力よりもうえの地位に就かせろとか。
保力が幹部から降格してそのポジションに就くそんな理由で殺すな」
「じゃあ、その理由で殺したんです」
翔のその一言を聞き、寅三郎はこういう奴が冤罪を生むのかと思う。
「ま、兎にも角にもイエローリボン軍の皆様にお会いして話を聞いてから判断しようや」
「分かりました。では、リーダーの黒道から行きましょう」
「いやいや、今から行くの?」
「はい」まさか、止められると思わずキョトンとする翔。
「いや、ちゃんと相手にアポ取ってから行こう。
解決期限まで、6日あるんだし。
保力の言う通り、横暴だぞ。新人君!」
「すいません」
翔は、確かに性急過ぎたと反省するのだった。
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