起点-3
白骨した遺体を見つけたことで、静寂に包まれていた奥多摩の山中は騒がしくなっていた。
警察関係者だけでなくマスコミもかけつけ大々的なニュースとして取り上げられるようだ。
「どうです?
翔は遺骨の鑑識を行っている坊ちゃん刈りで変なゴーグルをかけているAI搭載型アンドロイドに聞く。
“ナレーションばぁ~い!
今さらっと出てきたAI搭載型アンドロイドについて、説明するけん。
警察も人手不足の時代に登場した画期的なアンドロイドそれがぁ~
ロボコッメ。通称・米さん。
この米さんの主な仕事は鑑識の業務。
米さん一人で鑑識作業の全てを行える機能を有しているから凄いっちゃろぉ。
因みに事務仕事には、事務仕事用のロボが居るからねぇ~
では、本編に戻りまぁ~す”
「証拠と呼べるものはこの骨ぐらいしかないですね。
それと身元が判るような物は何一つありませんでした」
「そうですか。現状で分かったことは?」
「これを見てください」
米さんは、頭蓋骨を手に取ると翔に割れかけている後頭部を見せる。
「これが死因でしょうな」
「撲殺ですか」
「恐らくは。詳しいことは監察結果でお伝えします」
「分かりました。ありがとうございます」
「お役に立てて何よりです、では私は続きを」
そう二人に告げると米さんは、自分の仕事に戻る。
翔は遺骨に手を合わせると、姿が見えなくなった寅三郎を探す。
一方、寅三郎は規制線の外側でカメラを構えている報道陣の中にいた。
そして、リポートに来ていた売れっ子アナウンサー中田
「毎朝、観てますよ。HIP」
「あ、ありがとうございます」
突然、声をかけられ戸惑いながら滝美は、礼を言う。
「いやぁ、TVで見るよりも美しい」
「ええ」変なのに絡まれてしまったと思い、戸惑う滝美。
カメラマンやディレクターは何処に行ったのか?早く助けに来てくれと切に願う滝美を他所に寅三郎は話を続ける。
「実はね、僕が見つけたんですよ。あの白骨死体」
「へぇ~そうなんですか。え?」
滝美は、目を合わせないよう下を向いていた顔を上げ寅三郎を見る。
「いやぁ、盗まれた一千万探していたら、骨を見つけちゃいましてね」
「盗まれた一千万って?」
「ああ、そうでした。実はかくかくしかじか」
寅三郎は指名手配犯の保力を逮捕しその供述から盗んだ金の在り方がこの場所であったことを伝えた。
「だとしたら、こんな所で油売っていて良いんですか?」滝美は当然の疑問を寅三郎にぶつける。
「油、売ってても良いんです!クゥゥゥゥゥゥゥゥ!(川平 慈英風)俺、警察じゃないんで」
「警察じゃない? すいません。ご職業は?」
「探偵です。その界隈では、Showyの寅で通っています」
すると、寅三郎はターンをして一本の薔薇を滝美に差し出す。
「ど、どうも」そう言いながら薔薇を受け取る。
「今回の事件について詳しくお話しても良いですよ。但し」
「但し?」
「一緒にお食事をして頂くという条件ですが」
変な要求じゃなく内心ほっとする滝美。
「分かりました。但し、こちらも条件があります」
「条件?」まさか、滝美からそんな言葉が出てくるとは思わずびっくりする寅三郎。
「スタッフ同席でお願いします」
まあ、その後に二人きりで夜の街へと繰り出せばいいのだと考えその条件を呑むことにした。
「良いでしょう。では、連絡先を」
スマホを取り出し、通話アプリHERONを開きQRコードを出して滝美に見せようとしたその時、翔が声をかけてきた。
「寅さん! 何しているんですか!」
「新人君、良いタイミングでぇ」
「油売ってないで行きますよ。」
翔はそのまま寅三郎の登山ウェアのフードを引っ張り滝美から引き離し連れて行く。
「おい、離せ! もう少しで我らが滝ちゃんの連絡先が!」
ジタバタして抵抗を試みるが翔は手を離す気配が一向にない。
「バカなこと言っていないで、署に戻って課長に報告しますよ。」
「それは、お前さんの仕事!! 俺の仕事はぁ~」
「はいはい。」聞く耳を持たない翔。
「新人君!絶対、後悔するからな! 離すなら今だぞ!」
滝美は喚き散らしながら引きずられて連れられて行く寅三郎を呆気にとられながら見送ると、戻ってきたスタッフと共に局へと帰るのだった。
翌朝、奥多摩の山中で白骨遺体が発見されたニュースがTVで大々的に放映された。
そのニュースを観た一人の男、黒道
「おい、ニュースを観たか?」
「ああ。なんで見つかるんだ!?」電話の向こうの
「そんな事分かるか!」黒道は、声を荒げる。
「怒るなよ」優は黒道を宥める。
「すまない」謝まる黒道。
「取り敢えず、清に連絡付けとくから」
清、本名・#屋垣
優ともその頃からの付き合いだ。
清か、まさか仲の悪かった優の口からあいつの名前が出るとは・・・
そんな事を考えていると「また、連絡する。」その一言を言い通話が切れた。
黒道はいずれやってくるであろう警察の対処について、頭の中を張り巡らせるのだった。
「え?捜査本部立たないんですか!?」
翔は課長に尋ねる。
「そりゃあ、立たせたいよ。人手が全部、家政婦をみた殺人事件に持ってかれちゃってるから。
もう少しで解決できそうなのよ」
「それじゃあ、犯人に逃げられてしまいます!」
「死体は白骨しているんだから、もう逃げてるでしょ。
というより一番、黒に近い保力を捕まえているじゃない」
「それは、そうですが・・・・・・」不服そうな翔。
「翔さぁ、捜査本部が立たないだけで捜査しないとは言ってないでしょう」
課長はそう言うと湯呑みに入っているお茶に口をつける。
「捜査って誰がやるんですか!?」
課長は翔を指さす。
「僕だけですか!?」
「うん。と言いたいところだけどそれじゃあ心細いので」
応接ソファーに座り珈琲を飲んでいる寅三郎を課長は、手招きして自分のデスクの前にい翔の横に立たせる。
「寅と一緒に」
「え?課長。いくら何でもそれは・・・・・・」
翔は、寅三郎に聞こえないよう課長の耳元に顔を近づけて話を続ける。
「課長。いくら僕が新人とはいえ、警察関係者ではない寅さんを使うのは如何なものでしょう。
この前みたいになるかもですよ」
「そうならないようにするのが、翔。君の仕事。
寅は昔から捜査応援で捜査に加わった事あるし、うちの捜査方針も熟知しているから。
それに犯人であろう保力の裏を固めるだけの要因だから」
課長は、寅三郎にも聞こえるトーンで喋る。
「課長ぉ~」翔はつい情けない声を出してしまう。
「新人君の不満はごもっともです。課長! 無給の状態では、私も身が入りません!」
寅三郎の一言に、そこじゃないだろうと思う翔。
「それは、お前が悪いんだろう。寅。
言っとくけどね、僕は頑固者だから報酬カットは撤回しないよ!」腕を組む課長。
「そう言うと思ってました。ですから、こちらからも提案があります」
『提案?』課長と翔の声が被る。
寅三郎は気を付けのポーズを取り喋り始めた。
「はい! 今回の事件、彼と一週間で片を付けます。
仮に保力が犯人だとしても、確実に起訴まで持っていける証拠を見つけ出します!
それがうまくいったら報酬カットを撤回して頂き、これからの報酬を倍いや五倍払って頂きます!!!」
「もし、出来なかった場合は?」課長が聞く。
「出来なかった場合、これから一年間無償でどんなご依頼でもお引き受け致します。
どうでしょう! 課長!」
課長は天井を見上げ、少しの間沈黙した後、口を開く。
「乗った。但し、この前の様な無茶苦茶なことをすればそこで一年無償労働!
良いね!」
「ありがとうございます!!!!」
寅三郎は、深々と大藤課長にお辞儀をする。
横で突っ立ている翔にも頭を下げるよう寅三郎はジェスチャーで促す。
渋々、翔も頭を下げるのであった。
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