起点-2
「この大馬鹿者っ!!!」
七部署に捜査一課長 大藤
「すいません!!!!!!!」
翔は、怒号に負けない声で深々と頭を下げ謝る。
翔が課長の説教を受けているのを他所に寅三郎は我関せずで、応接ソファーに座り珈琲を飲んでいる。
「全く、あれ程忠告したじゃない。
あいつは、何するか分からないからちゃんと見張ってろって。」
「すいません!!!!!!!」再び、頭を下げ謝る翔。
「なんで、犯人捕まえるのに銃を使用するの?
ドラマじゃないんだからぁ~」頭を抱える大藤課長。
「銃って、おもちゃだし。撃った弾だって、只の鳥モチだっての」
珈琲に口をつけながら茶々を入れる寅三郎。
課長の怒りは収まるどころか、むしろヒートアップしていく。
「それに市民のバイク奪って、犯人追跡したって!
何を考えとるんだ!」
「すいません!!!!!!!」
三度、翔は頭下げる。
「まあまあ、課長さん。それ以上怒ると血圧が・・・・・」
寅三郎は、見かねて翔に助け舟を出す。
「血圧を上げさせているのは、お前だよ!
ああっ」
立ち眩みを起こし、椅子にへたり込む。
「課長! 大丈夫ですか?」
翔の問いかけに課長は、ペケのポーズで意思表示する。
そして、ジェスチャーで翔に何かを伝えようとする。
翔もそのジェスチャーを読み解こうと課長に近づき解読しようとする。
動きを目で追いながら通訳を始める翔。
「寅、今回はよくやった?」
課長はすぐさま、首を振り否定しもう一度同じジェスチャーをする。
「寅、今回の報酬は無し」笑顔で頷く課長。
「はあ!?」
その一言で、寅三郎は慌ててソファーから立ち上がり翔と課長のもとへ駆け寄る。
「当分・・・・・・」翔は、続きのジェスチャーを目で追い解読する。
「当分・・・・・・・・・・・・」復唱する寅三郎。
「た・だ・働き・だ!!!」
「ちょっとぉ! そりゃあないでしょう! 課長さん!!」
課長の机をバンっと叩き抗議する。
落ち着きを取り戻したのか、課長は口を開く。
「それは、こっちの台詞!お前さんとこの所長にも伝えておくから」
課長は通訳に徹していた翔に頷き、手を払うジェスチャーをする。
翔は、課長に一礼して逮捕した保力の取り調べへと向かう。
「そ、そんなぁ~」
机にしがみつき天を仰ぐ寅三郎であった。
「この大馬鹿者っ!!!」
スマホのスピーカーからの怒号が七部署の屋上に響く。
寅三郎は、耳を離しておいて良かったと思う。
再びスマホを耳に当てると「って、課長に言われた?」電話の向こうの女性が尋ねてくる。
「俺にじゃないですけど、ご名答です」
因みに俺が今、話している女性は・・・・・・
“はぁぁぁぁぁぁい!二度目のナレーションば~い!!!
寅三郎君が電話しているお相手は、彼の雇用主で老舗探偵社所長 鳴本
で、手元の情報によるとあらぁ彼女。元警察官で、ある事件をきっかけに警察を辞めて今の老舗探偵社を開いたんやって。
なんか、あるあるな感じの設定やねぇ。
あ、後ね大藤課長の元部下でもあるみたい。
ナレーションの所にはこの位しか情報が来ちょらんので、本編に戻りまぁす。
どうぞぉ~”
・・・・・・・・・・という関係だ。
「あらぁ。新人君も大変ね」
「全くです」頷く寅三郎。
「で、報酬は?」
ドキッとする寅三郎。
「その事なんですがぁ~」
寅三郎は、保力逮捕劇が原因で大藤課長を怒らせ報酬カットになった事を伝えた。
「そうかぁ~仕方ないね」
「仕方ないって・・・・・・・・・
ただでさえ少ない報酬がカットされたんすよ!」
「まあまあ。払ってもらえるように私から課長に頼んどくからぁ」
寅三郎は、所長の能天気気質がまた出たと思う。
本当に内の所長は、慈善家だ。
警察からの報酬は雀の涙しか貰えない。
その為、探偵社の経営は常に火の車状態なのだ。
実際、通常の探偵業務の代表格・浮気調査やペット探しの方が金になるし儲かる。
それなのに、引き受ける仕事は警察の下請けばかりで・・・・・・・・・・
「所長、もうすこぉぉぉしだけお金にシビアになりません?」
「充分、シビアよ!」
そこで、電話が切れた。
「はぁ~」どうしたものかと溜息をつく寅三郎。
「ああ、ここに居たんですか。寅さん!」
振り向くと翔が、吉報だと言わんばかりに駆け寄ってくる。
「新人君か。どうしたの?」
「今さっき、保力が盗んだ金の在処を吐きまして」
「そうか。」覇気のない返事をする寅三郎を翔は見逃さなかった。
「ん? なんか元気ないですね。女にでも振られたんですか?」
ニヤニヤしながら寅三郎に聞く。
「ああ、飛び切りいい女にな。で、在処がどうしたの?」
「いや、その盗んだ金を捜索する為に手を貸せと課長が・・・・・」
「報酬は無しな上に、只働きしろってか」
「すいません」翔は平謝りする。
「良いさ、やるよ。お前さんたちより早く見つければ良いだけの事だからさ」
翔の肩をポンポンと叩くと寅三郎は、屋上を後にする。
それに続き、翔もまた屋上を後にした。
翌朝、登山ウェアを身に纏った寅三郎と翔は行方不明の金を探しに奥多摩の山の中に居た。
「それにしても、新人君。捜索隊が二人だけっておかしくない?」
「仕方ないですよ。皆さん、家政婦をみた殺人事件の捜査で忙しいですから」
「どんな事件だよ」
「まあ、盗まれた額も額ですから」
「聞いてなかったけど。幾等なの?」
「一千万です」
「一千万!? 銀行強盗にしては少なくない?」
「確かに。でも普通、支店の金庫に億なんて置いてませんから」
「そりゃあな。いや下調べしていくでしょ。保管している額が多いときとかにさ」
「僕にそんな事言われても・・・・・・」
「一千万あれば、うちの事務所も少しは安泰か」翔に聞こえないぐらいの声で呟く寅三郎。
「なんか、言いました?」
「いいえ、マリモ」
そんな下らない話をしながら二人は、険しい山道を昇っていく。
「供述通りだとあそこらへんですね」
翔はスマホの納めている供述書を読みながら、木々が開けた場所を指さす。
「何処らへんに埋めたか分かるの?」
「そこまでは憶えていないそうです。
ですから、手当たり次第に掘るしかないですね」
「OK!! 新人君は右から攻めて。俺も右から攻めるから」
「それじゃ、同じです。左から攻めてください」
「お、そうだな」
二人は、二手に分かれ持参したスコップで穴を掘り始める。
5時間後
二人は開けた場所に無数の穴を作ったが、一向に行方不明の金は出てこない。
「ねえ、本当にあるの?」寅三郎は、一休みし腰を叩きながら翔に尋ねる。
「多分、ないですね。これ」
そんな返しが来るとは思わずスコップで殴って野郎かそんな事を思いながら再び掘り進めてた矢先、スコップの先端に何かが当たる。
寅三郎は、翔に見つからないように当たった物体に被っている土を払う。
すると背後から「ありました!寅さん!発見しました!!!」と翔の喜びの声が聞こえる。
翔は反応がない寅三郎を見ると微動だにせず固まっている。
「寅さん?どうしたんですか?」
寅三郎の元へ様子を見に行く。
「なあ、新人君。これはなんだろうね」
寅三郎と翔の視線の先には、こちらを見る頭蓋骨があった。
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