第2話 第2話 Ryugasaki and the formation of a siege against Chiba~龍ヶ崎市、そして、対千葉包囲網の形成~

1936年5月1日の正午、茨城県竜ヶ崎市根町にある般若院の本堂で二人の男が御本尊に向かって座禅を組んで座っていた

一人の男は、どっしりとどこか余裕そうに座禅を組んでいるのに対し、もう一人の男は落ち着かないのか何回も姿勢を変えてはまた変えるということを繰り返している

不意に、どっしりと座禅を組んでいる男が、

「茨城県の竜ヶ崎市を、我々千葉県にくれません?」

と、呟くと、もう一人の男は思わず立ち上がり、

「冗談じゃない!!

竜ヶ崎を割譲する道理はないぞ!!」

と叫んだ

しかし、男は動じる様子もなく、むしろ一層冷たい落ち着きを孕んだ声で、

「今は、座禅の修行中ですよ?茨城県知事の橋本昌知事

そして、今のお互いの軍事力の差を考えたらここで断り侵攻されるリスクと、大人しく竜ヶ崎市を我々に割譲するのとでは、どちらが賢いか、流石の彼方でも理解るでしょう?」

と橋本知事に話しかける

橋本知事は、脂汗をポツポツと滴らせながらゆっくりと座り、ポツリと呟いた

「それは、脅迫というものに他ならないじゃないか

しかも、竜ケ崎市をここで割譲したところで、あんたらがこの先要求してくることがないと、どう証明する?」

これに、男は、応えることなく立ち上がり本堂を出て行く

本堂を閉めながら、男は、

「私は先に、本堂の裏手にある枝垂桜のところで会見の準備をしてますから、くれぐれも間違った答えを導き出さないように願ってますよ

彼方も、500年の歴史のある枝垂桜を失いたくはないでしょう?」

そういうと、男は、本堂の扉を閉め行ってしまった

残った橋本知事は、足元に溜まっていく自分の脂汗をぼんやりと見つめることしかできなかった


その日の夕方、群馬県庁県知事室で太西京一郎千葉県知事と橋本茨城県知事による枝垂桜の下で行われた記者会見を見ていたにとりは、

「茨城県は、ここで譲ってしまったのも分かるけれど、多分、どんどん千葉県の要求は吊り上がっていって、時期に食われてしまうわね」

と一太に言う

一太は、

「一度、強者によって敗北を味わらされると、この前のグンマーの連中のようになるのは弱肉強食のこの世界では、分かりきっている

かといって、茨城県と千葉県が遣り合えば確実に茨城県に勝機は無い

延命治療しただけだな」

と事も無げに言う

にとりは、一太の真正面に座り直し、

「やっぱり茨城県を助けてあげてくれないかしら

茨城県の油田は、保護する理由になると思うのだけれど

仮に、千葉県が茨城県をどんな形であれ支配下に置いてしまえば、もし、千葉県と敵対関係になった時、石油の供給減が一つ減ることを意味するでしょ?」

と一太の目を見て真剣に話した

一太は、面白そうに笑みを浮かべながら、

「へぇ

君が、初めて私にそんな風に接してくれたね

分かった

じゃあ、君がそんな風になってくれたお礼に今回は、茨城県をどうにかできるように動いてみようか」

とにとりに言った

にとりは、嬉しそうな顔をして、

「ありがとう!!」

と、一太に礼を言った


そして、にとりを見送った一太は、にとりを見ながら

「まあ、茨城県を「助ける」なんて一言も言ってないけどね」

と、暗く冷たい笑みを浮かべるのであった

そして、その笑みをすぐに消して、一言叫んだ

「あ!!

今回こそは行けそうだったのに、ディナー誘うの忘れてた!!」


1936年9月上旬

栃木県足利市迫間町の7あしかがフラワーパークに設けられた東屋にて、一太は、

「橋本知事、やはり、我が群馬県と同盟を組んで千葉県に対して逆に征服する形にしませんか?

このままだと、失礼ながら勝機は無いでしょう?」

と尋ねると、橋本知事は、水を得た魚のように首を上下に振り、

「是非是非、よろしくお願いしますよ」

と、嬉しそうに言っていた

その様子を、若干、小馬鹿にしたように見ている男は、

(此奴は、なんで気づかないんだろう

群馬県のやつ、千葉県に渡したくないがために同盟を組まそうとしているのは、見え見えなのに…

どうせ豊かな資源、専ら、石油資源だろうが、それが目的なんだろうな…)

そんな男の様子を知ってか知らずか、一太は、男に言う

「折角、場所も提供していただいたことですし、何なら栃木県も同盟に入りませんか?

それこそ、北関東の三県が集まって北関東の平和を作り出すという、意識のもとにね

如何です?栃木県知事の福田富一知事」

福田は、暫く瞑目沈思めいもくちんしした後で、大きくため息を一つつき、

「是非、参加させていただこうかな」

と、半ば諦めた様に答えた

福田は、心中では、

(所詮、断れば侵攻の恐れがある

つまり、最初から選択権が無かったということだ…)

と、諦観で物事を考えていた

会談の終わり際、福田が一太にだけ聞こえるようにひっそりと、

「私も彼方に操られただけでしたね」

というと、一太は、口の端を僅かに歪ませた

それは、浮かれている橋本は勿論、反対側にいる福田にも見えることは遂に無かった


1936年9月15日

茨城県古河市仁連の燦SUN館の前で、群馬県知事山本一太と茨城県橋本昌、そして、栃木県知事福田富一の三人が記者会見を開き、以上のことを会見で話した

①群馬県・茨城県・栃木県の三県で、同盟を組むこと

②同盟名は、北関東の平和を願う意味から北関東平和同盟と名付ける

③どんな理由があろうとも、北関東平和同盟の締結県に宣戦布告や各種の制裁を科すことは、その他の締結県に同様の宣戦布告や各種制裁を科すことと同義である

④茨城県の竜ヶ崎市を不当に占拠している千葉県には、即座に返還を要求すると共に断れば武力制裁を辞さない構えである

⑤同盟内の行き来は、自由でありその中にはは軍隊の行き来も含まれる

この内容は、明確に対千葉県を意識して作られたものは明確であり、平和を基にした同盟であることから宮城県や東京都は口を出すことはなかった。それどころか、平和の為に北関東をまとめた一太に対し、感謝の念すらあった

一方で、いままで、茨城県を楽に征服できると考えていた千葉県は、今回の同盟により立場が逆転してしまったことに、焦りを感じていた

竜ヶ崎を返還しようにも、それは自ら進んで負けを認めてしまうことであり、それは、どうしても避けなければいけなかった

つまり、千葉県は、自ら火中の栗を拾う羽目になったのであった

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