【愛】より【恋】を求める俺は運命を信じず恐怖を信じる

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【愛】より【恋】を求める俺は運命を信じず恐怖を信じる

 春風がクラスを吹き抜け、欠伸を何十回も秒単位で決め込む俺は思う。愛とは言葉のいらない関係だと。どういうことか、それは結婚した夫婦を想像してほしい。夫が何かアクションを起こそうとしたタイミングで、妻がそれを理解する阿吽の呼吸で居られる関係がまさに言葉のいらない関係だ。


 そして愛に似た言葉といえば恋。恋は俺たち学生が行う、ドキドキハラハラの恋心を中心に繰り広げられる好意を抱く人同士の心理戦を楽しむ関係だと思う。


 こんな、人間誰しも持つ好意というものに、深くも広くもない考えを持つ俺は高校2年生のどこにでも居る学生だ。校則破って呼び出しされる生徒でも無ければ、テストで高得点を取って頭が良いねとしか言われない平凡な生徒。


 そんな俺だが、好意についてはちょっと特別な感情というか、考え方、価値観を持っている。


 俺は愛より恋を求めているのだ。


 先に話した通り、愛は言葉のいらない関係。そう思う俺には愛というのが、どうも重すぎるのだ。まだ学生であり成人でない、精神的にも卓越してるわけでもない俺は歳相応の考えを持っていると思うが、実際他人の意見なんて聞いたこともないからどうかは知らない。


 ただ1つ、俺は誰に何と言われようと愛を求めることはない。学生としてドキドキハラハラの恋を楽しみたいとそう思うのだ。


 でもその中で俺は恋について絶対に否定することがある。


 それが運命だ。


 学校で女子の話を耳にすればたまに、何々くんと目が合った!これって運命かも!?と、絶対に運命ではないし、そんなちっぽけなことが運命でたまるか!とツッコミを入れている。


 高校生にもなれば異性に興味が湧き好意を抱きやすくなる年頃、俺はまさに今その場に仁王立ちしている。ならば運命というものを信じそうなものだが、俺は信じない。


 だって運命は、その人の気持ちを大きく変化させてくれることを言い、学生でそんな大きな変化を齎すことは皆無に等しいのだから。


 目が合うぐらいで気持ちは大きく変化するか?いや、しない。多少しても人生が左右されるようなことはない。結局は運命に浸りたいだけの偽運命だ。


 ――そんな俺だが、俺は今、恋をしている。


 相手はクラスメートの七草。スポーツ万能、容姿端麗の美少女と言われる存在の七草だが、唯一の欠点として賢くないというところがある。


 そんな七草のギャップに、素直に可愛いと思い、これが第一印象となった。それからというもの、たまたま隣の席である七草と話す機会が増え、ついに俺は七草に恋心を抱いてしまったのだ。


 ありきたりな話だが、それが学生というもの。俺は恋心に気付いたその日から、ドキドキハラハラする学校生活を送れることに満足していた。


 そして今も――。


 「旭くん、今日も勉強を教えてもらっていいかな?」


 「もちろん良いよ」


 今はテスト期間。たまに授業がテスト勉強の時間に割り振られ、それが今の数学の時間である。


 机は離れていても、勉強を教えるのならそれだけで机と机をくっつける理由にはなる。だから俺は内心ガッツポーズを決め、ガタンと机を移動させた。


 「今日はどこを?」


 「ごめん、勉強教えてもらうって言ったけど、その前に1つ聞きたいことがあるんだけどさ」


 俺の表情を伺うように上目遣いで見てくる七草。グッと胸の奥に響く可愛さが俺に幸せを与えてくれる。


 「いいぞ、なんでも聞いてくれ」


 「ありがとう!じゃ――旭くんは、その……運命って信じる?」


 元気な感謝から一変、モジモジと指を交差させ愛らしさを感じさせるように弱々しく吐いた言葉は、七草からは想像し難いものだった。


 「運命?」


 1度聞き返す。その運命が指す主語はなんなのか知るためだ。好意なら一瞬で信じないと答えるし、それ以外なら考えることが必要だ。


 「う、うん。ある人とある人が出会って、そこから偶然が何回も重なって最終的にはお互い結ばれるっていう……運命なんだけど……」


 「それなら信じないな」


 きっぱり答える。色恋には興味のなさそうな七草からこんなことを聞かれるとは思っていなかったものの、答えやすい質問で良かったと思う。


 七草は俺の返答にどこか悲しそうな目でしょんぼりしている。間違えた答えを返したのかもしれない。が、嘘を付いたら後々良くないことが起こるかもしれないので、俺のしたことは正しかったはずだ。


 しかし、好きな人の悲しそうな目というのはさっきとは違う意味でグッと来るものがある。


 「そっか……ありがと、教えてくれて!」


 「あ、ああ」


 考え事を終えたのか、顎につけられた人差し指はペンを握ることに使われた。


 「ねぇ、良かったらこの後一緒に帰らない?」


 「え?い、一緒に?」


 「ダメ……?」


 垂れ目でおっとりした雰囲気を醸し出して言われる七草に嫌だって言えるわけない。まったく……今日も今日とて可愛いな。


 「良いよ」


 好きな人に帰ろうと言われることに動揺しない男は居ない。言葉に詰まったが、愛おしい七草を見れたのなら何回でも言葉に詰まりたいものだ。


 珍しいお誘いもあるらしく、今日は七草と2人で帰ることになった。何日ぶりだろう、結構前に帰ったきり2人で帰ることはなかった。つまり、それほど先なら好意に気付いてからは今日が初めてとなる。


 それから、俺は午後のテスト勉強を難なく終え、机を戻すのを名残惜しむことで今日の全日程を終了した。


 ――「それで、なんで俺と帰る気になったんだ?」


 校門を出てすぐ、同じ方向に帰りながら俺は問う。ホントはもっと早く、下足箱に居るときから聞きたかったが、流石に周りに人が多く、視線を集める七草に気を使い辞めておいた。


 「さっきの話の続きになっちゃうんだけど」


 「あの、運命云々のか?」


 「うん」


 小さく頷き話を続ける。


 「単刀直入に言うとね……その……私と旭くんが運命なんじゃないかなって……思ってて……」


 「……え?」


 この子は何を言っているのだろう。運命よりも私と運命という言葉のせいで本題に意識が付いていけない。


 「ど、どういうことか詳しく教えてもらっても?」


 「最近気付いたんだけど、私と旭くんには運命としか言いようがないことばかりが起こってる気がするんだよね」


 「は、はぁ、例えばどういうこと?」


 「この高校に入学してから月1の席替えで旭くんと隣じゃない月が無かったこと」


 「……そうかもな」


 思い出せるだけ出してみると、なんとその通りで席替えなんて無く、卒業まで同じ席だということをいつの間にか当たり前だと思っていたようだ。


 「でもそれは偶然が重なっただけで運命とまでは……」


 認めない俺に関係なく、ありったけの運命と思える俺との関係を次から次に喋り始めた。だから俺も何を言われようと頑なに否定すると決めた。


 「毎週月曜日、学校の玄関に着く時間が同じ」


 「……それは癖ついてるだけだから運命とは言えないだろ」


 「好きな食べ物と嫌いな食べ物が同じ」


 「……好き嫌いが同じになることは学校全体で見ると珍しくないぞ」


 「身長差が丁度20cmで抱きしめやすい」


 「……それは確率がたまたま合っただけだろ」


 ちなみに俺は177cmで七草は157cmだ。


 それに抱きしめやすいではなく、キスしやすいなら話は全然変わるしな。


 「後は、旭くんは国語が苦手で数学得意、私は国語が得意で数学苦手。ほら、教え合うようになってるんだよ」


 「いや、それなら俺は物理も得意だが七草も得意だろ?なら運命じゃない」


 「……さ、最近私は物理苦手になってきたんだ……よね……」


 上の空で口笛を吹きそうな知らんぷりをする。


 「……もしかして、無理矢理運命付けてないか?」


 「……なんの……ことやら」


 先程から違和感はあった。何故こんなにも俺に詳しいのか。俺が七草に言ったことのないことを同じと言い切られるのだから自然と不思議に思うことはある。


 「それじゃ、今度は俺から聞いていいか?」


 「え?なんで?」


 「俺のことどれだけ知ってるのか気になったから」


 「分かった」


 「俺の身長を正確に知ってるか?」


 「177.6cm」


 即答だった。なんの躊躇いも思考時間もなく一瞬。


 「体重は?」


 「66.2kg」


 これも即答。だんだん俺は恐怖を感じ始める。


 「最後に――俺の好きな人は?」


 「私!絶対に私。私以外あり得ない。もし違うなら今すぐにでも私を好きって言わせる」


 「…………」


 俺はこの時確信した。この女の子は危ない側の人間だと。


 「なぁ、七草は俺のこと好きなのか?」


 「もちろん好きだよ。だって運命だもん!」


 「いや七草が無理矢理運命にしたんだろ。だから運命じゃないって……」


 「私は何もしてない。運命だから!絶対に運命だから!!」


 もしかしてこれが世間一般で言われる地雷女というやつか?


 「分かった、とりあえず運命って事にして。なんでそんなに俺のこと知ってるんだよ」


 「好きな人のことならなんでも知りたいと思うのが普通でしょ?だから旭くんを1週間ずっと見て、その内2日は24時間ずっと見てた。そしたら詳しいことまで知れたって感じ」


 「いやいや…………それストーカーじゃねーか!!」


 「違うもん!!」


 俺のツッコミにも即座に対応する。この女、出来る!


 「とりあえず、もう24時間監視は辞めてください。もう監視しなくても俺がちゃんと七草の側にいるので……」


 「ホントに?」


 「傾きはあるが両思いだしな、付き合うなら側に居ることは出来るだろ」


 「やった!」


 恐怖だろ。なんにも気付かなかったが、誰だって気付かないと思うわ!誰がこんな美少女で人気がある子がストーカーするって思うんだよ!


 だんだんと七草のやっていることのヤバさを実感し始める。


 やはり運命は偽運命で信じられない。


 確かに席替えは運命と信じるにはあり得たが、今思えば美少女特権で無理矢理席を固定していたかもしれないので、詳細は不明だ。


 だが、恐怖は本物だ。


 運命と偽るために無理矢理運命を作ろとする。これが恐怖に変わり、より信じられるものとなった。


 「まじで絶対に運命だけは信じないからな……今日から恐怖を信じてやる……」


 覚悟を決めた俺は、その日の夜に風呂場を外から覗かれていたことにしっかりと

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