第26話 エクレシアのターン②
小二時間ほどすれば、アレンの自宅はそれなりに綺麗になった。エクレシアの手際の良さ、それからアレン達の住むアパートが狭いことも影響してか、日が暮れる前に無事掃除を終えることができた様である。
貴重な時間をこんな自分の部屋掃除に付き合わせたことに対して悪いと思って、アレンは頭を下げるとエクレシアはニッコリと口角を釣り上げた。
「まぁ……当初の予定とはずれちゃったけど、今からご飯を作るから。それで、その後は一緒に外へ出かける、いい?」
綺麗になった部屋を見渡すと、このままエクレシアにご飯を作ってもらうのは気がひけるアレン。見た感じいつも通り元気そうだが、掃除した分、疲労していることは容易に推測ができた。
「いや、流石にそこまでしてもらうのは悪いから」
「いいの、私がしたくてやってるんだもの。その代わり、一緒に外には出てもらうから」
淡々と述べてエクレシアは台所の方へと向かっていく。正直な話、家でごろごろしたい気分のアレンであるが、ここまで尽くされてはエクレシアの提案を無視することはできなかった。
彼女には無駄働きをさせてしまっているのだ。一緒に外に出ることくらい、お安い御用と思わなければならないだろう。
内心では、渋りながらもアレンは首を縦に振った。
「よし、それじゃあ私の得意な料理を——っと」
台所でアレンの自宅にある食材を確認していくエクレシア。アレンは基本的に簡単な料理なら問題なく作れるが、凝った料理に関しては点で出来ない。
それに加え、自分で作った料理は『美味しい』というよりも、どちらかと言えば『腹を満たすためのもの』といった感じに近いため、ここ最近は自炊を全く持ってしないでいたのだ。
そのため、現役で酒場で働くエクレシアの手料理に対して期待してしまっている。
(……エクレシアの手料理か。一体どんな料理を作るんだろう)
アレンとエクレシアは『お隣さん』という関係であるがこれまでおすそ分けといったことをしてこなかった。アレンもエクレシアも仲は良好であるけれども。
「……って、全然食材がないじゃない!! もう〜ちょっと待ってなさいよ!」
ビシッと人差し指をつきつけてきては、エクレシアは玄関の方へと歩いていく。
そういえばそうだった。最近、自炊していないのだからまともに食材が揃っているはずもない。
「ごめんな……」
「ホント仕方ないんだから」
文句を言いつつも、エクレシアの機嫌は良好そうだった。アレンは申し訳ない、と思いつつもエクレシアの帰宅を待つことにした。
しばらく時間が経つと、エクレシアはバッグに食材を持ち込んで部屋に戻ってきた。
「私の部屋から取ってきたわ。これだけあれば、作れそうね」
「え、わざわざ自分の分の食材を!?」
「いいのいいの。お金も払わなくていいから。代わりに一緒に外出はしてもらうけど」
長い耳をピクピクと動かして、エクレシアはそう言った。申し訳なさそうにしていると、『二十分くらい待って』と続けられる。手伝おうかと思ったが、かえって迷惑になる自信しかなかったのでアレンは黙って料理が出来るのを待った。
三十分ほどすれば、料理が出来上がったのか美味そうな匂いが鼻を刺激してくる。
「よし、これで完成っと」
「めちゃくちゃ美味しそうだな」
「これでも料理には自信あるからね」
アレンの眼前には、まるでお手本かの様な一汁三菜の品々が広がっている。食べ物の宝庫であった。
「さっ、熱いうちに食べてアレン」
まるで子犬がしっぽを振るかの様に、エクレシアは両耳を揺らした。どうやら早く感想が聞きたい様である。
アレンは『いただきます』と挨拶をしてからエクレシアの手料理を口にした。
「………お、美味しい」
思わずぽつりとそう声が漏れると、エクレシアは目をぱちと見開いた。
「いや……アレンがまさか素直に言ってくれるのが驚きで」
なるほど。確かに普段、ツンケンしてくるエクレシアにはアレンとしても天邪鬼な反応をすることはややあった。そのため、エクレシアは素直な感想を聞けると思っていなかったのだろう。頬を僅かに赤らめ手癖で髪をいじっている。
「いや、美味しい物は美味しいから。そこに嘘ついたりはしない」
「………そ、そっか」
普段、口数の多いエクレシアだがアレンが料理を食べている時には自然と口数が減るエクレシア。
(……案外、褒め慣れられていないのかもな)
彼女の職業柄、耐性はあるだろうに、とは思いながらも意外な一面に思わずアレンは苦笑するのだった。
ダンジョン攻略を辞めたい男(21歳)、なぜか美少女達から攻略対象とされてしまう 脇岡こなつ(旧)ダブリューオーシー @djmghbvt
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