第19話 レインのターン②
レインに手を引かれてからのこと。彼女のエスコートにより連れてこられたのは、【商人の街】として名高い屋台の店々。
以前、エクレシアときた商店街通りにアレンとレインはたどり着いていた。
レインは、漂ってくる数々の美味しそうな匂いに目を輝かせながらぐいぐい手を引っ張ってくる。
「……アレン、あれも、これも、すっごく美味しそう」
「あ、あぁ……そうだな」
「……でも、今日は私が誘ったんだし、私がエスコートする、エスコート」
プルプルと頭を振って自身に言い聞かせようとしているレイン。普段、アレンに甘えてばかりの彼女だが今日はいつもとは違うようである。
「アレン、何か食べたい物ある?」
「……そうだな」
実際のところ、お腹はそこまで空いていなかった。暑さの影響からか、どちらかと言えば冷たい物が欲しいアレン。
(……というより、レインのやつ。周りの視線を気にしないの、ホントに凄いよなぁ)
先程からチクリチクリと刺す様な視線を浴びていたアレンとレイン。それは、一見リア充を羨む者たちからの視線に思えるがそうではない。
以前のエクレシアの時もそうであったが、今はエルフから嫌悪の視線を浴びせられているのだ。そんなことはどうでもいいのか、レインは一切気にする素振りは見せない。
「で、何が食べたい?」
「……あ、あぁ。スイーツなら基本何でもいいかな」
「むぅ……抽象的で分かりにくい」
「ごめん、ごめん。氷菓子とか冷たい物がいいな」
「そ。了解」
レインは握る力を少し強くして満足そうに微笑む。アレンが食べたい物を限定させたことで行き先が明確に決まったのだろう。
尻尾をふりふりと揺らしながら、歩みを早めていった。
「———っ。ちょ、ちょっとごめん、アレン」
そうして、目的地へと彼女がアレンの手を引きながら駆けていた最中———。
ピタリ、とレインの足が止まる。
千種色の瞳をある店舗へと向け、固まるレイン。尻尾と耳を激しく揺らしているあたり、どうにも食べたいものがあったようだ。
「……アレン、ちょっとあれだけ食べたい」
申し訳なさそうに瞳を揺らして、彼女が指を指して言ってみせた場所。それは、りんご飴のお店だった。それも以前、エクレシアがりんご飴を食べたところと全く一緒のお店。
仲が悪そうだったのに、趣向は一緒なのかと思わず笑ってしまう。
「なに、アレン? そんなに笑い出して」
「いやいや、何でもない」
「そんなに笑っておいて何でもないことないはず。むぅ……りんご飴とか子供っぽいって思ったんでしょ?」
白い頬を膨らませ、そっぽを向くレイン。
(りんご飴に限らず……基本、レインは子供っぽいよなぁ)
無我夢中で食に関心を持ったり。
なにか食べれば、必ず頬にソースやらをつけたり———。
なんてそんなことを思うが、きっとレインにそのことを伝えればもっと不機嫌になるはずだ、とアレンは判断する。
「いや、エクレシアもそのりんご飴欲しがってこの間、食べてたからさ。それ思い出してちょっとな」
「………え、どういうこと? アレン」
「あっ……え、えーと」
間違いなく確信する。自身の出した話題が悪手だったことを。
「あのエルフとりんご飴食べにでてたの? それっていつ? 教えて……アレン」
(なんか……目力が凄いのと、手が……先程から手が痛いんだけど)
すべすべで滑らかに感じていたはずのレインの手が今は狂気にしか感じられない。千種色の瞳がじっと自分を離さずに睨み続けられる。
有無を言わさぬ圧力であった。
「ついこの間のことだな……」
「………あのエルフ、そんなに距離を詰めていたなんて」
「あ、はは。あの……ちょっとレインさん。手、手が痛いんだけど」
「知らない……」
クールな声音のまま、ぎゅぅっと力強く手を握り込んで、彼女は歩みを進め出した。どうやら、その様子からりんご飴を食べたい気分ではなくなったようだ。
「……あの、レイン。レインさん怒ってる?」
「エスコートは続けるけど、アレンは私の機嫌を直せる様に何か考えなきゃダメ」
(完全に怒ってるよなぁ……なんでかはよく分からないけど)
ピンと張った耳を見てアレンは確信した。彼女はいつも以上に怒っていると。
普段、怒っているときのレインは耳が張るのである。
(………なにか、レインが喜びそうなこと考えないと、こりゃまた凄く奢らされるかもな)
レインに手を引かれながら、悩み種が一つできたのだった。
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