第17話 迷宮祭?

「ど、どうにかならないんですか?」

「現状だと厳しいな……申し訳ないが」


 昼下がりの時間帯。

 ギルドマスターは罰が悪そうに、アレンの冒険者辞退の申し入れを断っていた。

 これで、冒険者辞退を断られること三回。

 冒険者を辞めたいアレンにとっては、絶望的な状況である。


(………ルクシアめ。ルクシアに任せたことが間違いだったんだ)


 後悔するも、時はすでに遅し。内心では頭を抱え込むアレンだが、あまりに悲嘆に暮れている彼を見てギルドマスターも申し訳なく思ったのだろう。顎髭をさすって、とある言葉を漏らすのだ。


「そう悲嘆に暮れんでも……。そうだな、"迷宮祭"にでれば、冒険者を辞めても問題ないって……ルクシア達が言ってたぞ」

「え、そ、それって本当ですか!?」

「あ、あぁ」


 食い入る様な勢いで目を輝かせると、ギルドマスターは呆気にとられたのか、呆けた声を漏らした。と知ったアレンにとって、この知らせは朗報である。


(とはいえ、"迷宮祭"か……。これまで全くイベント行事には興味がなかったからな。どんな内容なのかも全く分からない)


 ギルドマスターの溢した"迷宮祭"。

 ここ迷宮都市クラシスに二年前にやってきたアレンであるが実態は全く知らない様である。

 名前だけ聞いたことがある、それ位の認識だった。


「アレンさん、私も"迷宮祭"に出てくださるのなら喜んでアレンさんの冒険者辞退には同意します」


 アレンが"迷宮祭"について考え込んでいたとき。横から様子を伺っていたアンナさんが口を挟んできた。表情はどこか愉快そうで、白い頬を僅かに紅潮させている。


(アンナさんにも聞きたいことは山ほどあるけど……ルクシアのやつが戦犯に決まっているからな……)


 今にもルクシアの女王様顔が浮かんでくるアレンである。拳をぎゅっと握り込んでは変な笑いが込み上げてきた。


「まぁ……本当に冒険者辞退をどうしてもしたいなら、"迷宮祭"に出ることだな」


 話を切り上げる様にギルドマスターが続く。

 どうにもこのギルドマスター、アレンの冒険者辞退には反対気味な様子。口には出さないものの『やめたほうがいいぞ』と言っている様である。だが、どうしても冒険者を辞めたいアレンにはそんなことは関係ないのだ。


「"迷宮祭"の詳細を教えていただけないですか? 俺、冒険者辞めたいんです」


「………はぁ。端的に言えば、ダンジョンに潜って———」

「ア、アレンさん! 祭りなんですから、知らない方がきっと楽しめますよ!!」


 ギルドマスターが後頭部をポリポリとかいて、説明しようとしたところで受付嬢のアンナが慌てて口を挟んだ。まるで、説明されたら困るみたいな態度を彼女から受け取るが、アレンはアンナの発言に一理あると感じた。


(……まぁ祭りって言っている位だし、そんなにまずいことはないよなぁ)


 自身の育った土地でも祭り事は基本楽しむものだった。そのため、"迷宮祭"も似たような物だと勝手に解釈をするアレン。


「たしかに、アンナさんの言い分も一理ありますし、ギルドマスター、俺、迷宮祭に出ようと思います」

「………わかった。それじゃあ日程だけど——」


 ギルドマスターが、渋々気味に"迷宮祭"の日付を言おうとしたところで———


(……おいおい、まじかよ。なんでこのタイミングでまた見かけちまうんだよ)


 アレンの瞳が写す視線の先。

 『氷神の槍弓ヒンメル』の男メンバー達が視界に映った。もはや、アレンにとって彼らは天敵の様な者であるため、逃げ出す体勢に自然と入ってしまうのだ。


「すみません、ギルドマスター。また伺いますので、それではっ!」

「お、おいちょっ———」


 『氷神の槍弓ヒンメル』の男メンバーから逃げることの方が優先事項なのだろう。

 アレンは足早と、【冒険者ギルド】を後にしようとする。


(い、今は逃げることの方が……さ、最優先だ。うっ……胃が痛くなってきた)






あとがき


 バイトでメンタルやられてて、更新遅くなりました。すみません!

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