第16話 冒険者は辞められない
(やっと……辞められるぞ。ククク、嫌な予感がしなくもないが、冒険者を!)
女子の密会があってから、二日後。自宅にある鏡の前でアレンは歓喜に打ち震えていた。
「いやぁ……ホント長かった、これまで」
お菓子と酒で散らかった部屋を見やって、一人感傷に浸る。
(……一人"冒険者お疲れ様会"よくやったよなぁ)
ここ二日間のこと。自宅でひっそりとパーティを開いていたアレン。これまでの冒険者活動を思い出しながら、自身を労っていたのである。
(片付けは後に回すとして、ククク。うん、今から楽しみすぎる……。冒険者ギルドに向かうのがな)
口角を上げて時刻を確認すると、時計の針は12時を示していた。
昼時なので今は多くの冒険者達がダンジョンに潜っているはず。あまり騒ぎを起こさずに、冒険者を辞めるにはちょうどいい頃合いだった。
(ふっ……じゃあ、そろそろ向かおうか。冒険者ギルドに! そして、冒険者を辞めれたらひっそりと商人でもやって暮らしていこう、うん)
今後の展望を膨らませて、アレンは外に出る。ちなみにだが、アレンの現在の服装はスーツ姿。二日前の一件から、味を占めていたアレンである。
(スーツは、どうにも"真面目さ"が出るからな。冒険者を辞める発言には説得力が増されるわけだ。現に一昨日も効力があったしな……)
『スーツって偉大』
そんなことを思いながら、アレンは冒険者ギルドへと足を駆け出したのだった。
♦︎♢♦︎
「————すまないねぇ。Cランク冒険者のアレンくん、君の冒険者辞退はその、認められない」
冒険者ギルドにて、辞退の紙を記入し提出したところで、アレンはなぜか断られていた。困った様に頭を掻きながら、謝るギルドマスターを前にアレンはぽかんと呆けた表情を浮かべる。
「え??」
「君に辞められたら、その困るんだよ」
『はぁ』と怠そうにため息をついてから、ギルドマスターは小冊子を見つめる。
「だから、その冒険者を辞めるのは諦めてくれないかな?」
そう頼み込んでは首をぽきぽきとならすギルドマスター。ちなみに、ギルドマスターというのは、冒険者ギルドの管理の総括人、つまり一番偉い人のこと。
………こうなった事の経緯はこうだった。
なぜか満遍の笑みを浮かべるアンナさんに、冒険者ギルド辞退の紙を提出したところ、ギルドマスターが現れて、断りを入れられるというもの。
たかが、一Cランク冒険者の自分が辞めるからという理由でギルドマスターが現れるなど違和感しかない状況である。
「あの、どういうことですか? なぜ、俺は冒険者を辞められないんですか?」
焦って少し声が上ずるアレン。薄々どこかで感じていた嫌な予感が脳裏をよぎっていた。
それは、ルクシアの女王様顔。
意地悪で、S気質の彼女ならしても可笑しくないことだったからだ。
(くっ……ルクシアを信じたのが間違いだったのか? いやでも、あのときは真面目な顔をしていたし……)
なんて困惑していると、ギルドマスターは顎髭をさすってから困った様に返答した。
「君が辞めるなら、ルクシアも冒険者を辞めるって言ってるんだ。それに加えて、Bランク冒険者のレインがな、こう言ったんだ。『アレンが冒険者を辞めないことを条件に、私は必ずAランクに上がってみせます』とな。それに、酒場の人気No.1のあのエルフの子もな。君が冒険者を辞めるなら、酒場のメイドを辞めると言い出してるらしい」
『だから君が冒険者を辞めると、困るんだよ』
と、ギルドマスターは付け加えた。
「………………え?」
困惑するしかない数々の情報に大きく目を見開いて固まるしかないアレン。
(え? ど、どういうこと!? ル、ルクシアもレインも……エクレシアも……え、ま、まさかアンナさんも!?)
そうして、アレンは気づかされるのだ。
自身がこっそりパーティを開いていた二日の間。じわじわと外堀が埋められていたことに。
(………ど、どうしてだ。どうしてこうなるんだ!?)
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