第15話 密会
「——さて、アレンが去ったことだし、話し合おうか、お前たち」
アレンが去り、女子だけが取り残されたロビーの小さな一室に低くクールな声が響く。
『氷神の
青の瞳に映るのは、固まってしまっているアンナ、エクレシア、レインの三人である。
「はぁ。私の"オーラ"で畏怖し、話せないのは仕方ないが……別に怒りはしないから、口を開いてくれ。てか開いてくれないと困る」
「………ル、ルクシアさん」
「ア、アレンと仲が良かったなんて……」
「あ、あのひと何よ。なんか、強者感が凄いんだけど」
ルクシアの声音が柔らかいものに変わったことで肩の力を下ろし、それぞれの反応を見せる三人。誰もが驚きの表情を浮かべていた。
「ア、アレンとどういう関係……?」
「それはこっちが聞きたいところだが? 獣人族Bランクのレイン」
「…………えっ。どうして?」
「Bランク上位以上の冒険者は全てチェックしているからな、だから知ってる」
「……なるほど」
レインは落ち着いた雰囲気を醸しながらも、千種色の眼を逸らした。それは、ルクシアの"オーラ"にレインがまだ慣れていないから。
だが、この場にいる全員がきっとそうに違いなかった。彼女——ルクシアからは、殺気じみたものが身を纏っており、殺し屋の"オーラ"を放つ彼女を直視することは中々に厳しいものがあるのだ。
レインがルクシアに話かけたことで、場の空気が和らいだのだろう。エクレシアは、豪奢の赤髪を揺らしてレインに続く。
「ちょっと、そ、そこの獣人の質問に答えてないじゃない……。ア、アレンとはど、どんな関係なのよ!」
「アレンの口からあった通り、仲間な訳だが……その話は今すべきではなかろう」
興奮するエクレシアを前に冷静に大人の意見を伝えるルクシア。エクレシアにとって、ルクシアは受付嬢アンナに続いての強力な"恋のライバル"と目に映っている。そのため、興奮してしまうのは仕方がなかっのだ。
ルクシアに諭されたことで、『むぅ』と頬をエクレシアは膨らませる。
「で、でしたら……ルクシアさんの仰る話し合いって何ですか?」
遠慮がちにエクレシアに続いたアンナである。この中では、唯一"ルクシア"に対してそれなりに適性がある彼女だが、小さな拳をきゅっと作っており、緊張の面持ちをしているのだ。
「話が早くて助かる。受付嬢」
「いえいえ……」
「ここにいる者たちとアレンの関係は後から聞くとして———"本題に入ろう"か」
少しだけ声を張って注目を集めさせるルクシア。細められた
アンナ、レイン、エクレシアの三人が彼女の話を聞き込む態度を見せたところで、ルクシアは口を開いた。
「まずここの全員が、アレンに冒険者を辞めて欲しくないはずだ、そうだろ?」
—————コクコク。
全員が一斉に首を縦に振る。アレンが冒険者を辞める以上、彼と離れ離れになる可能性がでてくるため、アレンを色目に見ている彼女たちがそれを嫌がるのは必然であるのだ。
それを、分かりきった上で確認したルクシアは口角を上げた。
「私もアレンに冒険者を辞められたら困る身だ。なら、どうすればいいか」
ルクシアは一白置いて続ける。
「この場にいる全員"ストライキ"すればいい。アレンが冒険者を辞めたら困る状況を作ればいいのさ」
自身の桜色の唇を舌で舐めずって、嗜虐的な笑みをルクシアは浮かべる。
彼女の提案する"ストライキ"には、かなりの効力が見込まれることは違いなかった。
当然だろう。特に、ルクシアが『アレンが冒険者辞めるなら私も辞める』と言ってしまえばギルドにとっては痛手でしかないため、アレンには冒険者を続けてもらう手をとるしかないのだ。
「……で、でも……アレン真剣そうだった。迷惑だけはかけたくない」
遠慮がちにレインはふさふさとした耳と尻尾を揺らすも、ルクシアは『その言葉を待ってました』と言わんばかりに封殺するのだ。
「アレンがそもそも何故冒険者を辞めたいのか、そこを考えればいいんだ」
「ど、どういうこと?」
「つまり、だ。アレンはCランク冒険者で一部の者からは……まぁ腹立たしいが、最弱と揶揄され馬鹿にされている。そして、奴は金もきっとそんなにもってない。金も地位も確立できない——だから、アレンは冒険者を辞めたいのだろう」
「………むっ、それがどうしたというの?」
「そ、そうよ……それとストライキって特に関係が……」
「ア、アレンさんにはそこまで迷惑を……」
三人とも口では否定しているものの、アレンにどうしても冒険者を辞めて欲しくないのだろう。満更でもない様子である。
「————要はな。アレンの地位を上げ、アレンが金を稼げる様にすればいいのだ。つまり、ギルド内でアレンの評価を爆上がりさせればいい」
「そ、それって……」
「……ど、どういうことですか?」
「ど、どうすればいいの?」
三人ともルクシアの提案には乗り気になった様子。勝ちを確信したルクシアはひっそりと口角を釣り上げて自身の提案の詳細を述べるのだ。
「それはな————」
♦︎♢♦︎
ルクシアによる女子たちの密会が開かれていた頃———アレンは。
「な、なんか猛烈に嫌な予感がしてきたなぁ」
一人、不安な気持ちを胸中で抱えているのであった。
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