第13話 最悪の邂逅
『冒険者を辞める』と、アレンが啖呵を切った矢先———。
室内は静寂に包まれ、時が止まったかの様に彼女たちは身体を硬直させていた。
(……ふっ。言ってやった。スーツ姿で、しかも
拳をぎゅっと握りこんで、密かに口角をつり上げる。アンナさんやレインあたりは、茶化してきそうだと思ったが、沈黙を貫いているあたり俺の本気度が伝わったようだ。
昨日とは違うアンナさんとレインの反応に手応えを覚えるアレン。
「そういうことなので、手続きの方をお願いします」
真剣な眼差しをアンナさんへと向けて、催促をする。そして、自身の受付嬢にこれまでの感謝を伝えようとした——その時である。
ぽかんと呆けていたエクレシアが声高に述べたのだ。
「……………辞めるですって? ど、どういうことよ! アレン!!」
「どういうことも何も、そのままの意味だけど」
「そのままの意味って……。冒険者辞めたらアレン、どうするの!」
「こじんまりと商人でもやるかなぁって感じ」
具体的には決めていなかった。ただ冒険者から転職したいというだけで……。
「……っ。それって、クラシスから離れるってこと?」
「ゆくゆくはそうなるかもな」
【迷宮都市クラシス】は、血気盛んな街であるのと同時に物価もそれなりに高い。
様々なトラブルを避けるためにも将来的にはクラシスを離れる可能性は充分に考えられた。
「「「………っ」」」
アレンがエクレシアの問いに返答すると、彼女たちは息を呑むのと同時に瞳を見開かせる。
「……アレン、昨日言ってたこと嘘じゃなかったの?」
「レイン、ごめん。冒険者辞めるつもりなんだ俺」
「…………………」
獣人族特有の耳と尻尾を萎れさせるレインである。白大理石の床に緑の瞳を向けながら、しょんぼりとしてみせた。
(奢ってもらう相手はルキスあたりにしておいてくれ……。俺は金欠で厳しいんだ……)
自分を奢ってもらう相手としてみなしているからだろう。アレンは胸中で残念がるレインに訴えたようだ。
「アレンさん………本気なんですね」
「はい。実力が伴っていないですし、転職したいので」
「………っ。そ、そうですか」
アレンの受付嬢アンナは紫紺の瞳を揺らして深いため息をついた。アンナさんの態度からは昨日とは違い、雰囲気が異なっているのが目にとれる。
……良い手応えだとアレンは感じていた。
狼狽えるエクレシアに、寂しげなレインに、悲しげなアンナさん。
この場にいる全員、アレンの冒険者辞退には良い反応を示さないが、アレンは堂々と振る舞う。それは、そうでもしないと冒険者は辞められないと彼自身が感じていたからである。
本気の態度を取らなければ、アンナさんに茶化されてしまう。昨日の出来事から学びを得ていたアレン。
『今までありがとうございました———』とアンナさんに、いや全員に伝えようとした時。
—————ガチャッ。
外からひっそりと会話を聞いていたのか、絶妙なタイミングで扉が開かれたのである。
「ほう? いい話をしているじゃないか。私にも是非聞かせてもらおう」
まず目に映るのは華奢ながらもフードで身を包む女性の姿。容姿は確認できないものの、凛とした声から正体が分かってしまうのだ。
(おいおい………う、嘘だろ。いやなんで、なんでこのタイミングで………)
アレンはタイミングの悪さを呪う。
それは今、一番会いたくない人物に出会ってしまったから。
彼女は、フードを脱ぎ払い、嗜虐的に瞳を細めながらこう言うのだ。
「アレン、私も混ぜろ。いいだろ?」
「………は、はは」
光沢のある青髪に、綺麗で透き通った
……間違い様がなかった。姿を現したのは『氷神の
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