第4話 エルフの少女——エクレシア
そのあとのこと。焼き鳥を食べ終え獣人族レインのもとを去ったアレンは自身の受付嬢アンナに会うことはせずに帰路を辿っていた。今現在は、お腹をさすっているアレンである。それは一見、焼き鳥にあたったからの様に思えるがそうではない。
ギルド内最強パーティの一つ、『氷神の
うん。ホントに胃が痛い。タイミングが悪すぎるだろ……。遭遇したのが、リーダーである【氷姫】ルクシアであればまだ助かったのだが、他のメンバーだったからな。彼女とは交流があったからいいものの、他のメンバーはもう……。
Sランクの男達からのゴミを見るかの様なあの視線。思わずギルドから逃げだしたアレンである。胃が痛みで受け付けない俺はひたすら自宅を目指して雑踏を駆けていた。
(まぁ、冒険者を辞めることは、いつでも出来ることだし。今急いですることでもないな)
そう自分に言い聞かせながら、細い裏道を通っては曲がり角を曲がっていく。
多種多様な種族で溢れるこの都市は喧騒が多いため、人通りの少ない道を選ぶのが欠かせないのだ。
賑わう声が落ち着き始めた頃、俺は目的地にたどり着いた。
「……………」
目の前には寂れたボロいアパートが建っている。我が自宅ながらひどい有り様であった。
外見からも分かるくらいには、アレンの家はボロボロである。安い家賃に見合うくらいには古びたアパートだ。
「よいしょっと」
錆びついた鍵穴に鍵は中々入り込まず、いつものことながら少し苦戦した。
————ガチャ、ガチャガチャッ。
ようやく鍵が開いたと思ったそのときである。
「あ、アレンじゃないの。ダンジョン、今日も潜ってきたの?」
俺の家の扉が開くのと同じタイミングで隣室の扉も開いたのだ。
「うーん……まぁそんなとこかな」
「なにか曖昧な言い方ね。もしかして女? 女じゃないでしょうね?」
外へと出てきて、俺の胸ぐらを掴みかかる勢いで迫ってくる彼女。
「い、いや違うって……」
「そ、そう。ならいいのよ」
「大体、俺がモテるわけないだろ?」
「………そっ。そうね、あんたみたいな男。好きになる方が物好きだわ」
そう言い『ふふっ』と微笑んで俺に笑みを向けてくるこの女性はエルフ族のエクレシアだ。
エルフ族は、元来、美の象徴と謳われており、外見的特徴としては長い耳を保持している。また長寿ともされており他の種族よりも老いが遅いとされている。そのためもあってか、エルフ族には美人が多く、目の前のエクレシアもエルフの容貌を色濃く反映しており美人であるのだ。
エクレシアは
「そっちは今から仕事か?」
「ええ、ばっちり今日も稼いでくるから」
大したこともない力こぶを作って見せてはドヤ顔を決め込むエクレシア。
彼女の職業は、"酒場のメイド"だそうだ。
それなりに名が通っている店に勤務しているみたいだが、俺は行ったことがないため詳しいことは知らない。
「もしよかったら、アレンも来る? 私の職場」
……うん、行きません。下手に酒場なんて行けばレインに遭遇する可能性だってあるからな。
うっ……想像しただけで頭が痛い。
「いや遠慮しとく」
「そう? あんまり生活感をアレンから感じないから。あんた困ってるんじゃないかなって思ったんだけど」
「まぁ節約してるからな。サービスとか……うん、色んな意味で怖いから遠慮する」
「なによ。失礼ね! これでも私、この前のランキングで一位取ったんだから」
どうやら"酒場のメイド"にはランキング制度があるらしく、エクレシアは一番を獲得したらしい。誇らしげに『ふふん』と胸を張っている。
「そんなに凄いならこんなボロアパート、すぐに引っ越せばいいのに。なんで、引っ越そうとしないんだ?」
純粋な疑問だった。俺は節約に徹しているため引っ越すほどの余裕がなかったが、エクレシアならば引っ越すほどの余裕はあるはず。俺よりも収入多いはずだしな。
「まぁ色々理由はあるんだけど。なんでだと思う?」
うっすらと頬を赤らめて上目遣いになるエクレシア。
……はぁ。アンナさんの時もそうだが、俺は引っかからないし騙されないのに、エクレシアも物好きなやつだ。
反応すれば、エクレシアが揶揄ってくるのが目に見えたため俺は妖艶な雰囲気を醸し出す彼女を無視して、自宅へ戻ろうとドアノブをひねる。
「あっ、えっ………む、無視!?」
側からそんな声が聞こえたが、当然俺は無視。エクレシアの揶揄い癖に付き合ってる元気は今は残っていなかった。
「む………無視とか信じらんないわ!」
俺の家の扉の前でそう溢すのが耳に届いたが、俺はそんなこと気にも留めなかった。
(あっ、でもまぁ、冒険者辞めることになれば、ゆくゆくは引っ越すことになるから、エクレシアにもそのこと伝えとかないとな……)
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