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弓弦と手を繋いで歩く。

そして、この街はやっぱり狭いのかって思う事が起きる。


「あれ?

沙希ちゃん!」


このタイミングで拓哉君が歩いて来るとは。


「……。」


何て言えば良いか分からない。

困ってしまったけど、弓弦の手をギュッと握っている自分がいる。

手を離さないのは、やっぱり弓弦が大切だから……かな?


「拓哉さん!」


弓弦が話しかけた。


「あっ、はい。」


拓哉君はビックリしているみたいだ。


「俺、沙希と付き合う事になりました。」


「あっ、そうなんだね。

沙希ちゃんの事、宜しくね。」


「はい。」


弓弦がハッキリ言ってくれたけど、何か恥ずかしい。


「沙希ちゃん。」


拓哉君が私に話しかける。


「ん?」


「彼はずっと沙希ちゃんを好きだったから、俺は安心したよ。」


「え?」


「大切な妹分だもん、中途半端なヤツと付き合って欲しくないよ。」


「……。」


「まぁ、結構俺に喧嘩ふっかけるような事して来たし、クソガキって思った事はあるけどさ。」


「拓哉君……根に持ってるの?」


「ハハハ、持ってないよ。

でも真剣だっていうのわかったからさ、その場で言い返すとかしたくなかったんだ。」


「ごめん。」


「ううん。

そのくらいの方が、沙希ちゃんを守ってくれるでしょ?」


「うん。」


拓哉君が優しく笑ってくれる。

やっぱり、この人は好き。

でも恋愛じゃなくて、大好きなお兄ちゃん。


「その節はつっかかったりして、すみませんでした。」


弓弦が拓哉君に謝った。


「いいよ、もう。

沙希ちゃんを大切にしてくれたら良いからね。」


拓哉君は笑っている。


「必ず幸せにします!」


弓弦はそう言った。


「俺も、このくらいハッキリしてたら遠回りしなかったんだろうな……。」


拓哉君は切なく笑う。


「もう遠回りしないでよ?」


私が拓哉君に言う。


「俺も彼女、一筋なんだよ?

知ってるでしょ?」


拓哉君はそう言って笑った。


「あっ、そうだ。

俺、コンビニ行くんだった。」


拓哉君は突然何かを思い出したかのように慌てる。


「ごめん、引きとめちゃって。」


そう私が言うと、


「話しかけたの俺だからね?

とりあえず、急いで行ってくるわ。」


そう言って、拓哉君が去っていく。

私は拓哉君に手を振りながら、見送った。


「沙希。」


弓弦が呟くように言う。


「何?」


「根に持たれてるとか最悪だな?」


「しょうがないじゃん、弓弦のせいだもん。」


「そうだけどさ。」


「でも、好きだからね。」


「え?」


「さて、家に帰ろう。」


好きだからって無意識に口走ってしまった。


「沙希、もう一回言って。」


「やだよ、帰るよ!」


「マジかよ……。」


弓弦が少し照れくさそうにしているのが分かった。

ちょっと恥ずかしいなと思いながら歩いていたら、あっと言う間に私の家の前に着いていた。




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