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「あの……。」


誰かに、いきなり声をかけられて、


「うわっ!」


真奈が叫んだ。


「ごめんなさい……驚かせて。」


振り返ったら、咲ちゃんが立っていた。


「こんな時間に一人で危ないよ?」


私がそう言うと、


「謝りたくて……。」


申し訳なさそうに咲ちゃんが言った。


「アナタ、何もしてないでしょ?

謝る必要ある?」


真奈がちょっとイラッとしながら言った。

咲ちゃんは何も言い返さずに、うつむいてしまった。


「とりあえず、中に入ろうよ。」


私がそう言うと、真奈が先にテントに入った。


「早く入って。」


私が咲ちゃんに言うと、咲ちゃんが無言でテントに入った。


「何か喉渇いたね。」


真奈がそう言いながら水筒を出した。

真奈は水筒をキレイに洗って、夕食の時にあったお茶を水筒にいれてたのを思い出した。

目の前でお茶をゴクゴク飲む真奈を、ボーッと見ていたら、


「ちょっと、見すぎ!」


って、真奈に怒られた。


「ごめん。」


私が謝ると真奈は笑っていた。

真奈も私も咲ちゃんにかける言葉が見つからない。


「あの……。

迷惑かけてごめんなさい。」


咲ちゃんが土下座をしている。


「いやいや、そこまでしなくていいからね?

ほら、頭をあげて!」


私は慌てて、咲ちゃんに触れた。

でも怒られなかった。


「だからさぁ、アナタは何もしてないでしょうが!」


真奈が少し大きめの声で言う。


「私、アイツに余計な事言った。」


咲ちゃんが話し始める。


「アイツって?」


真奈が聞く。

このまま、真奈と咲ちゃんに話をさせてみよう。


「さっきナイフ持って暴れた子。」


「ふーん。」


「アイツに、弓弦と付き合えないなら、弓弦を殺しちゃうかも?って言った。」


「え?」


「その時はそう思ってたんだってば。」


「……。」


「それで、アイツが、弓弦が誰かと付き合ったら、俺が殺してやるって。」


「……。」


「結構前の話だったから、もう忘れてると思ったの。」


「アイツが忘れてなかったんだ?」


「うん。

でも、しばらく話してなくて、ついさっきまで、アイツと話した内容も忘れてた。」


「そっか。」


真奈が何とも言えない表情をしている。


「私はもう弓弦に嫌われるくらいなら、仲良しのイトコとして付き合えたらいいの。」


「うん。

でも仲良くしすぎよ?」


「そうかな?」


「距離近すぎ。

もう高橋君、彼女いるんだから、ベタベタくっつくのやめたら?」


真奈が私の言いたい事を言ってくれた。

私もベタベタくっつくのやめて欲しい。


「だって、ずっとそうして来たんだもん。」


「でも、ついさっきから彼女出来たの!

状況が変わったのよ。」


「……。」


「まぁ、私が言わなくても高橋君に言われるでしょうけどね?」


「……。」


咲ちゃんは悲しそうだ。

でも私も自由にしていいとは言えないよ。


「弓弦と堺君に申し訳ない……。」


咲ちゃんがシクシクと泣き出した。


「それは本人に言った方がいいでしょ。」


私が言うと、咲ちゃんは何も言い返さなかった。


「ねぇ、アナタはさ、出来たばかりの彼氏が病院に運ばれたら、どうするのよ?」


真奈が咲ちゃんに言うと、咲ちゃんは激しく泣き出した。








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