5の9

私達は何とも言えない気持ちだった。

やっぱり、正当防衛とは言え、怪我をさせるような人。

そういう目で見る人もいるかもしれない。


「沙希ちゃん。」


桜井君が声をかけてくれた。


「ん?」


「堺君も高橋君も、自分から人を殴るような人じゃないよね?」


「うん。」


「じゃあ、沙希ちゃんを信じたいな。」


桜井君の言葉が温かく感じた。


「ってか、ナイフ持って、うろつく奴を止めようとするの、勇気いるんじゃねぇの?」


佐々木君が言った。


「僕なら逃げちゃうね。」


園田君が言った。


「じゃあ、堺君カッコいいじゃん。」


そう真奈が言うと、皆が頷く。


「普段の堺君を見てたら、どっちかと言うと、喧嘩とか面倒くさそうな気がする……。」


そう私が言ったら、皆が笑い始めた。


「喧嘩してる暇があったら寝ていたそうだよね。」


真奈が笑いながら言う。

すると、担任が、


「堺君の事なんだけどね……。

ここだけの話って事で、本人が話すまで知らん顔してて欲しいけど……。」


ボソっと話し始める。




ーーー担任から聞いた話……。


堺君は親に高校進学を反対されていた。

でも自分で働いて通うと言って、了承してもらった。

そして、学校にも届けを出して働いている。

眠そうにしているのは、そのせいだろうと。


「親兄弟がヤンキーで、堺君も日々喧嘩や夜遊びを当たり前のようにしていた。

喧嘩強いだけでステータスと教育されたけど、それが通用しないと気付いたんだって。

大切な人を力以外でも守れるようになりたいと言ってたよ。」


担任はそう言いながら、泣くのをこらえている。


「先生、大丈夫?」


桜井君が言うと、


「先生もさ、元々ヤンキーなんだよ。」


担任が爆弾発言をした。


「実は、堺君の両親もよく知っているよ。

悪い人では無いんだ。

でも勉強が苦手でバカにされて、力だけでも勝ちたいと思ってたようでね。

強いからって、バカにされなくなって、何かステータスとか勘違いしたみたい。」


担任は悲しそうに笑った。


「先生は何で教師に?」


桜井君は不思議そうに聞く。


「まぁ、中学でヤンチャしてて、勉強とかよく分からないまま、通信高校行って、大学に入ったわけだけど。」


「何で高校に?」


「中3の時の担任が、ちゃんと話をしようって、しつこくて。」


「そうなんだ?」


「力では負けないと思ってたけど、担任が凄い強かった。

別にヤンチャしてたわけでもないけど、運動神経良すぎて、殴ろうとしても避ける。」


「殴ろうとしたんだ?」


「ハハハ……そうだね。

それで、腕力では勝てないから、仕方なく話す事になって。

凄い親身になって、未来を考えてくれた。」


「……。」


「気付いたら、先生みたいになりたいと思ってたね。」


担任の過去なんて興味無かった。

でも知れて良かった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る