5の5

テントに戻ったら、真奈と二人きり。


「大丈夫?」


なんて、堺君は心配してくれたけど。

大丈夫じゃないなんて言ってられない。


「あのさ……。」


真奈から話しかけて来た。


「ん?」


いつも通り返事をするのさえ緊張する。


「ごめん。」


真奈が大きな声でそう言うから、ビクッとした。


「こ、こっちこそ、ごめん。」


言い方、これでいいのかな……。

そう思いながらも謝った。


「沙希と話せないの、思ったより辛かったよ。」


真奈がちょっと泣きそうな声を出すから、私まで泣きそうになる。


「私も。」


呟くように言うだけで精一杯の私。


「沙希~!」


そう言いながら、真奈が抱きついてきた。

こんなふうに友達とベタベタするとか、あんまり無いけど……。

嫌じゃない。


「本当にビックリしたんだからね!」


「え?」


真奈の声が明るくなる。

何か嬉しい。

ちゃんと話せそう。


「だからさ、急に付き合うとか言うし!」


「言わされたと言うか……。」


「え?

弱みでも握られてる?」


「それに近いけど、違うかな。」


「どういう事?」


説明が難しいけど言わないといけない……。


「もし付き合わないなら、距離をおきたいみたいな……。」


「え?

友達のままでいようとかじゃなくて?」


「好きな子にフラれたら、一緒にいるの辛いって。」


「うん、それはそうだね。

でも今までも付き合えないのに一緒にいたじゃん?」


そう聞かれて当たり前だなって思う。


「高橋君は何で急にそんなふうに言い出したんだろう?」


「もしかして……。」


「もしかして?」


「私が、ずっと好きだった人の恋を応援出来てるから……。」


「イトコさん?」


「うん。」


「それと……。」


「それと?」


「クラスが離れたからかも?」


「なるほど……。

こんな美人、クラスの男子がほっとかないもんね。」


「美人じゃないけど……。」


環境が変わって、お互いに何かが変わったかもしれない。


「堺君もいるから、心配いらないって思ってたけど……。」


「思ってたけど?」


「何か距離が違うと言うか……。」


「え?」


「堺君は彼女いるし、お互いに踏み込めない距離を感じると言うか。」


「あぁ、確かに堺君ってそういうの感じさせるかも?」


「そうだよね!」


堺君は見た目と違って、凄く真面目で紳士というヤツだと思う。


「あぁ……私は私で彼氏出来たから、彼のそういう他の女子への対応が気になってくるのかな?」


真奈がボヤいている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る