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キャンプファイア中に、弓弦が私を『彼女』と言ったせいで……。

その噂が一気に広がった。

そして、あちこちから、すすり泣く声がする。


「キャンプファイアどころじゃねぇな……。」


堺君は呟いた。


「おい、沙希!」


咲真が走って来た。


「咲真、どうしたの?」


「どうしたの?って、こっちの台詞!

弓弦とヤってたんだって?」


「え?

何を?」


「それは……セが付くアレだよ。」


「……。」


「ヤったのか?」


「接吻?」


「もっと深いって言うか……。」


「え?」


「子供作るのにする、アレだよ!」


「へっ?」


「していたって噂が……。」


「してないでしょ。」


「え?」


咲真がキョトンとしている。


「じゃあ、付き合ってるって言うのは?」


「それはどういう付き合いの……。」


「彼と彼女だよ。」


「彼と彼女……みたいです。」


「へっ?」


咲真が首を傾げている。


「えっと、イトコは……。」


「憧れてた。」


「えっと、過去形?」


「うん。」


「弓弦は?」


「彼氏みたいな……。」


「ハッキリしない言い方だな。」


「だって、ついさっき……。」


「ついさっき?」


「本当に、ついさっき彼になったみたいな。」


自分でも分かっている。

ハッキリ言えてないって事を。

どうしたらいいか分からない。


「恋人同士って事でいいの?

YESかNOで答えて。」


「……。」


「黙るのかよ……。」


「何か恥ずかしい……。」


「え?」


「友達に報告するの恥ずかしい。」


「大事な事と思って、言ってくれ。」


咲真が真剣に言ってる事も分かる。

でも、これは大事な事……。

言わなきゃって思ったら、ちょっと手足が震える。


「い……YES……。」


「そうか……。」


「うん。」


「あのさ。」


「ん?」


「おめでとうで、いいんだよな?」


「一応……。」


おめでとうを言われるのも照れくさい。


「それで……失恋しちゃった沢山の女子がいるのだけど。」


すすり泣く声と……。

号泣する声も混ざってきた。


「弓弦は一応、好きな子がいるからって言っていたんだけどね。」


「……。」


「その子が彼女になるって、皆は思ってなかったみたいで。」


「……。」


「沙希、これから大丈夫?」


「分からない……。」


「嫌がらせあるかもしれないよな。」


咲真が困ったような表情をしている。


「俺が見ててやるよ。」


ボソっと聞こえたのは、堺君の声だった。


「私も。」


真奈が堺君の隣でそう言った。


「弓弦は同じクラスじゃないんだから、こういう時はどうするか考えていたんじゃないのかよ?」


堺君が小さな声で言う。


「あぁ、それ考えていたと思うよ。」


真奈が言うと、


「あぁ、そうか!」


咲真が納得したような表情になる。


「どういう事?」


思わず私が聞くと、


「沙希がいない時に、皆に言った事があって……。」


真奈がそう言う。

何があったんだろう?




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