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「沙希、そろそろ戻らないとキャンプファイア終わっちゃうよ?」


「……。」


「離れたくないの分かったけど、そろそろ離れようか?

俺、めっちゃ汗かいて来た。」


「あっ、ゴメン……。」


弓弦に抱きしめられてたはずが、いつの間にか、しっかりと抱きついていた。

その手を離すと、急に恥ずかしくなって来た。


「お願いあるんだけど。」


弓弦が言う。


「なぁに?」


「目を閉じて。」


「分かった。」


私は目を閉じる意味が分かってなかった。

弓弦の手が私に触れて、それから唇が重なる。

すぐに唇が離れると思ったら……。


「んんっ!」


口を塞がれて、何も言えない。

逃げようとしても力で負ける。

もう、なるようになれ……と諦めた。

集会場に響くキスの音が、凄く恥ずかしい。


「ゴメン、何か嬉しくて……やり過ぎた……。」


弓弦が我に返ったかのように私から離れた。


「ゆ、弓弦……。」


「ん?」


「何か力が入らない……。」


「ゴメン……俺に掴まって!」


弓弦に支えてもらわないと、立っていられない。

フラっとする……。

どうしちゃったの、私?!


「大丈夫?」


弓弦が耳元で囁くように言う。

ゾクっとする。


「だ、大丈夫じゃない……。」


「マジでゴメン……。」


「何で謝るの……。」


「俺、やり過ぎた……。」


「……。」


私は……。

大丈夫じゃないけど、嫌じゃない。


「ちょ……ちょっと、沙希?」


「ん?」


「そんな目で見ないで……。」


「え?」


「めっちゃ色っぽい……。」


「え?」


「ドキドキするんだってば!」


「……。」


その時、外でドーンという音が聞こえる。


「ヤバい、これキャンプファイアの終わりの方だ!」


「え?」


「花火の後に皆で歌を歌って終わる。」


「そうなの?」


「走って戻れば平気だろ。

走れるか?」


「うん。」


「じゃあ、行こう!」


私達は手を繋いで走った。


「高橋君いた!

もう、何やってるのよ!」


弓弦を探しに来た女子達が、ぶつぶつ言っている。


「ゴメン、ちょっと彼女がフラッとしちゃって。」


「あぁ、お友達の!」


「友達じゃなくて、彼女だよ。」


「え?」


女子達が石化したかのように動かない……。


「沙希、早くクラスの方戻って!

あそこに、いるだろ?」


「あっ、堺君いる!」


「もう、あいつと話してもヤキモチやかないからな!」


「え?

ヤキモチやいてた?」


「気付いてないのか、この鈍感め!」


「どうせ、鈍感ですよ!」


弓弦に口を尖らせて見せたけど、何かおかしくて笑った。


「じゃあ、またね。」


「うん。」


私はクラスの人達がいる方に向かって走った。

さっきまでフラフラしてたのが嘘みたいに走れた。











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