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ご飯の後のキャンプファイア。

咲真が忙しそうに動き回っている。


「あれ、俺、テントに忘れ物した!」


堺君が突然そう言った。


「何、忘れたの?」


「キャンプのしおり。

歌の歌詞が書いてあるだろう?」


「え、わざわざ取りに行く?」


「歌ってるか見られてるだろう?」


「見てないでしょ?」


「見てるって言われたんだよ。

生徒指導のオッサンに。」


「先生って言わないからでしょ。」


「だって、オッサンだろう?」


確かに生徒指導の先生はオッサンだけど……。


「あぁ、あのオッサン、遠い親戚だから、オッサンって呼んでも怒らねぇけどな。」


「学校では先生って呼べって言うでしょ?」


「まぁな。

それより、沙希ちゃん、手が痒いの?」


「あぁ、何か刺された。

痒いわ。」


「俺、痒み止め持ってるよ。」


「え、本当?

塗りたい!」


「じゃあ、一緒にテントに行くか。」


「うん。」


私は堺君とテントに行く事にした。

一応、担任の先生には断ってから行ったけど、


「絶対にすぐ戻って来なさい。」


なんて言われて、アヤシイと思われていそう。

堺君と歩き出すと、


「沙希!」


私を呼ぶ声がする。


「弓弦?」


「どこ行くんだよ?」


「テントに痒み止めを塗りに行くの。」


「二人きりで?」


「まぁ、そうだけど……。」


弓弦の表情が険しい。


「お前、俺が怪しいと思ってるの?」


堺君がそう言うと、


「……。」


弓弦は何も答えない。


「高橋君、ちょっと来て!」


弓弦を誰かが呼ぶ。


「あぁ、すぐ行くから先に行ってて!」


弓弦がそう言った。


「ほら、早く行けよ。」


堺君が弓弦に言うと、


「……。」


弓弦は何か言いたそうで言わないまま去った。


「沙希ちゃんも大変だね。」


堺君が笑い出す。


「え?」


「アイツ、嫉妬深そうじゃん?」


「……。」


「アイツの強さ知ってたら、アイツの狙ってる女に手を出すなんて出来ないのにな。」


「そんなに強いの?」


「うん、勝てるヤツは、この辺りではいないな。

だから気を付けて。」


「え?」


「アイツの弱味は沙希ちゃんや友達だ。

タチの悪いのに狙われないようにね。」


「……。」


「クラスでは、俺がいるからいいけど。

通学とか本当に気を付けて。

まかり間違って、アイツ具合悪いとかなら、俺を呼んでいいから。」


「何でそこまでしてくれるの?」


「俺、アイツに助けられたから。」


「だから強いの知ってるって事?」


「そうだな。」


ちょっとだけ、堺君が悲しそうに見える。

深く聞いてはいけない話だと思う。


「さーて、早くテント行かないと、先生に怒られるよ?」


「あっ、そうだった!」


私と堺君は急いでテントに行って、戻ってきた。








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