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入学式が終わった後、一人で帰っていいか分からずに教室で少し待ってみた。


「いるじゃん。」


咲真が教室に入って来た。


「一緒に帰る?」


「うん。

弓弦はどうするんだろうな?」


「え?」


「クラスで沢山の人に囲まれていた。」


「じゃあ、誰かと一緒に帰るんじゃない?」


「少し待とうよ。」


「分かった。」


少し待つことにした。


「沙希、どうするんだ?」


「え?」


「弓弦の事。」


「どうするって?」


「ハッキリ言っていい?」


「うん。」


「これは美月とも話したんだけど。」


「うん。」


「弓弦が沙希をあんなに大切にしてるのに気付いてない?って。」


「え?」


「あいつ、微妙に嫉妬するしなぁ。」


「え?」


「弓弦はめっちゃ嫉妬するタイプだよ。

独占欲強い。」


「そうなんだ……。」


「でもさ、今は大人気だもんな。

高校デビューって言うのか?」


「そうね。」


「誰かに取られてもいいならいいけど。」


「取るも何も弓弦の意志なら仕方ないよ。」


「一緒にいたいなら考えた方がいいよ。

周磨しゅうまの時みたいになりそう。」


百目木周磨どめきしゅうまという凄くモテている友達がいる。

県内トップクラスの私立の男子校に入学。

周磨と仲が良いからって色々言われた事がある。


「ファンの女子がうるさいって事。」


「それは面倒だね。」


面倒な事は嫌だな……。


「それにしても驚いたな。」


「え?」


「弓弦、熱出してたのに、何でトップで合格したんだろうな。」


「分からない。」


「不思議だな。」


「そうだね。」


一緒の学校に行けないよりは良いけどね……。


「あっ、まだいたんだ?」


弓弦が教室に来た。


「帰ろうかと思っていたよ。」


「帰っていて良かったのに。」


「じゃあ、帰るね。」


「え?」


せっかく待っていたのに、帰っていて良かった……だなんて。

ちょっとイラッとした。

上手く説明出来ないけどイラッとした。


「弓弦、そういう言い方……。

ちょっと俺、苦手だな。」


「……。」


「まぁいいや。

帰るの?

帰らないの?」


「教室に来てくれたら良かったのに。」


「行ったよ。」


「呼んでくれたらいいじゃん。」


「いや、皆と話してたから。」


「呼んで欲しかった。」


「え?」


「慣れてない人に囲まれて疲れた……。」


「あぁ……。

何か気付かずにゴメン。」


「いや、俺こそゴメン。」


弓弦は帰っていて欲しかったわけじゃないんだね。

迎えに来て欲しかったんだね。


「沙希!」


「ん?」


「ごめんなさい。」


「うん、帰るよ。」


「うん!」


弓弦が見た事無いような眩しい笑顔で私を見るから、ドキドキしたよ。

咲真のおかげだね。

ハッキリ言ってくれてありがとう。

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