第十二話「正面突破」
「――!――ル!」
砂が舞う暗い場所でマックスの声が響く。
「アル!」
その声で気を失っていたアルヴァルトが目を覚ます。
「……マックス?」
「お、おぅ、無事だったか。死んだかと思ったぜ」
「ここは――」
アルヴァルトが辺りを見回す。
さっきとは打って変わって暗く砂に塗れたそこは洞窟のような場所であった。
「さぁな。地面が割れて砂に流されてあっという間にここにいた」
「他の皆は?」
「それも分からん。ヒイロとは逸れちまった」
「そっか」
「それにしても、どうしちまったんだ?
急に様子がおかしくなってたけどよ」
マックスの言葉にアルヴァルトが記憶を巡らして、何が起こっていたかを思い出す。
「……あ~……良く……分かんない。頭がすごく痛くなって……夢を見ていた……ような……気がする」
「アル?」
「うん大丈夫」
「いや……大丈夫じゃないだろ。お前――」
アルヴァルトの顔を覗くマックスの顔が険しい。
それは、アルヴァルトの頬を流れる一滴が余りにも、悲しいものだったからだ。
「なんで
「え……」
マックスにそう言われて初めて、アルヴァルトが自分の涙に気付く。
「あれ……本当だ。なんでだろう」
アルヴァルトがその涙を拭う。
「お前が泣いたとこ、初めて見たかもしれないな」
「そう?そうかな?」
これまでに見たことの無いほどにマックスが驚いている。
それもその筈だ。アルヴァルトがマックスと出会ってからは感情という物が余り見えなかった。
怒りはあっても、キレるということもしない。
泣くなんてもってのほかだ。
心配そうな顔をマックスがアルヴァルトに見せる。
「まぁ……でも大丈夫だよ。体はちゃんと動く」
そう言って、アルヴァルトが立ち上がって見せる。
「それならいいんだけどよぉ……」
「にしても、本当にここ、何処なんだろう」
「さぁな。ま、ドンドルドの地下なのは間違いないだろ」
「『ソロモンの匣』ってのは何処にあるの?それを探さなきゃなんでしょ?」
「あ、あぁ。そうだな。端末に登録した座標によれば、ここから2時の方向だ。
俺達が来た道は砂で埋もれてるし、ここから行くしかなさそうだ」
「じゃあ、行こう。グズグズはしてられない」
足下にあったスレイメイスを担ぎ、アルヴァルトが歩き出した。
「そうだな。けど、そう簡単にはいかなさそうだ」
マックスの持つタブレット端末に表示されているマップには赤い点がいくつも示されている。
それは今アルヴァルトが見ている道に。
「こんなところにもいんのかよ……」
ガシャリと、金属の歩く音が聞こえる。
「12時の方向、複数のエーテルウェイブだ。
小さいが数が多い。行けるか?アル」
「勿論」
アルヴァルトがスレイメイスを構え、エクソのエーテルを回す。
暗闇の中で赤い一つ目がギラリと光っているのが見えた。
およそ、人と同じ体躯。2足歩行のレギオン。しかし、その両腕には赤熱に塗れたブレードが装備されている。
赤い一つ目に高周波ブレードを両腕に装着させたレギオン。種族名アンツ。
素早い動きで獲物を屠るそのレギオンは群れで行動する。
獲物を見つけたアンツがその両足でアルヴァルトに向けてその刃を振るう。
アルヴァルトがスレイメイスを振り上げ、投擲する。
それは先頭のアンツの頭蓋をぶち抜いた次に群れの真ん中に飛び跳ねる。
スレイメイスを追うかのように、そこにアルヴァルトが跳び込む。
空中で掴んだスレイメイスをそのまま、真下のアンツに向けて振り下げる。
見事。一撃で屠る。
アンツの装甲はレギオンの中で最弱。
頭部と胸部にある弱点の爛脳と爛核が剥き出しになっているほどである。
しかし、数の暴力。
絶え間ないアンツの刃がアルヴァルトに襲い来る。
だが、それら全てをアルヴァルトのスレイメイスの一振りが薙ぎ払う。
「ki――――!?」
攻撃を弾かれたアンツの一匹が驚愕を模した音を鳴らす。
アルヴァルトが間髪入れずにその頭部を突きで破壊した。
それを見たアンツの群れが少しだけ、後ろに退く。
見ただけで5匹はいる。
その後ろにも多くの気配を感じたアルヴァルトが愚痴をこぼす。
「こいつら、雑魚の癖に数だけは多いんだよなぁ」
「どうする?このままじゃ埒が明かねぇぞ」
「決まってるでしょ」
そういったアルヴァルトが改装された背部のバックパックを見やって、前を見る。
それと同時にエクソがけたたましい音を鳴らした。
「正面突破一択だよ」
◆
一方その頃――。
「なんか、大人しくなっちゃったね。あのドラコー」
眼下で轟くリントブルムのアーツによる惨状を見てそうぼやくドロシーが、少し短めのスカートを潜らせた箒状のデバイス『箒星』が空に浮いている。
幾つかの冒険者が未だに生きて戦っている。
しかし、それでもレギオンとまともに戦える者はそう多くない。
ジャックの姿も見えなくなっている。
地面は幾つかが割れて最早元の形を保っていない。
「これ。どうすんの?このまま逃げちゃわない?あんなの勝てっこないよ。
ねぇ聞いてる?アピス」
ドロシーが箒星の先端で襟首を捕まえて、ぶら下げていたアピスにそう質問する。
「んなことより、もっとマシな扱いは出来ないのかよお前は」
「無理だよ。これ一人用だから」
「あぁそうですか。まぁいい。
……逃げるかって?論外だ馬鹿野郎。もう少しで手に入るんだよ。楽園への切符が」
「マジで~?そんなに大事な物?」
「ああ、アタシの命よりも大切な物だ。生きがいと言ってもいい」
「あぁ、そう。じゃあ取りに行かないとね」
被っていた三角帽子をドロシーがしっかりと被り込み、その眼前に小型のナノドローンを幾つか展開させる。
展開したドローンがもう一つのドローンと結びつき、陣を形成していく。
それはまるで、魔法陣のように。
「ドロシー?」
「生憎だけど、私、頭脳派なんだよね」
その陣は、空に映像を映し出す。
「おい、それって……」
「私がただ、ジャックの後ろでサボってるだけだと思った?」
その映像は三次元の地形を示している様だった。
「私のドローンは私の通信範囲内ならレーダーの役割を果たせる。
ドローンはごく微細の大きさだから、レギオンには感知されない。
それをいくつかの場所にばら撒けば、即席の3Dマッピングの完成って訳」
「それで何しようって?」
「ふっふん。私のマップによれば、ここらへんの地下には空洞がある。
まるで遺跡のような空洞が、ね。
そこを辿っていって一番深い所、一番大きなエーテル反応がある。つまり、そこにお宝があるに違いない」
「空洞が?」
「うん。でもなんか、変なんだよね」
「何がだ?」
「この空洞。まるで、何かが……そのまま埋まっているような構造をしてるんだよね」
「へぇ……」
その言葉を聞いて、アピスがニヤリと笑う。
「灯台下暗しって訳か」
「何か分かったの?」
「いや、だが、ナイスだドロシー。つまりは宝は下にって訳か。
なら、アイツらを相手している暇はねぇな、ドロシー。
行けるか?」
「勿論」
アピスの笑みにドロシーがニヤリと返す。
ドロシーが手を天に掲げると、展開したドローンの数々が空へと飛んでいく。
「”星の光を今此処に 私はお前の
ドローンはドロシーの背で光る太陽を囲うように展開され、より大きな陣を作り出す。
「”集え 集え 集え
エーテルを以て形成されるその陣は、太陽の光を凝縮、屈折、集約の後に輝きを放つ。
「”その煌めきを 私が伝え 照らそう”」
ドロシーが手を下ろすと、輝きを放つ陣がより一層輝き、周囲が一瞬暗くなる。
そして、輝かしい光と共に、そこに光の柱が発現した。
数秒後に光は消え、空気を焼く音と共に眼下にあったレギオン達が消滅していくのが見えた。
地面には大きな穴が赤熱した大地と共にぽっかりと空いていた。
「よし、じゃあ行こうか?アピス」
「なぁ、ドロシー。その意味不明な言葉……昨日も思ったが、必要か?」
「え、要るに決まってんじゃん。ああしないと気分が上がんないんだよ」
「あそう。意味は無ぇのな。ま、別にいいんだけどよ、何か、納得いかねぇな」
「納得なんて、全てが終わった後にするもんだよ」
そう言い残して、アピスを連れたドロシーが大穴へと飛んでいった。
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