第210話 襲撃吸収装置

「ふぅ。それにしても殺伐としているというか、殺気だらけじゃん。」


「仕方がありません。ここは戦いの国です。

 戦争とは別で、個人による戦闘が主な日課です。」


 ヴェルディは一流の元軍人さんだ。

 忠実なメイドソルジャーが欲しいなとか、奴隷館を歩き回っていたら見つけた。


 当初はこの世の全てを殺し尽くす思いが前面に出ていた。

 ヴェルディもこの世界の被害者みたいなものだ。


 何処かの戦争孤児として日々戦いに明け暮れ、得るものは何も無い。

 ただ、生きるために戦っただけ。


 そんな空虚な思いのままいるくらいなら、と思って拾ってみた。


『余計な思惑の方が強いようですが?』


『良いじゃねえか。

 欲深い方が、俺の使い手には相応しいぜ。』


「??ご主人様?

 何かお顔に付いておりましたか?」


「いや、そうじゃない。この国を見てな。

 ヴェルディも変わったなと。良い方向に。」


「ありがとうございます。

 そのお言葉だけで今までの人生が救われます。

 今の私が在るのはご主人様のお陰です。

 例え、この身が朽ち果てようとも一生お供させていただきます。」


 立派だ。

 こちとら戦争やら闘いやらの日々を終わらせて、とっとと隠居したい気分だ。


 そんな俺なんかに仕えてくれている。

 皆んなもか。

 仲間に恵まれたな。


『俺たちは?』


 お前らもだ。

 何やかんやと救われた場面は数知れずだ。


 チートがある訳ではない分、こういった所で補わないと。


『そういった考えは好感が持てます。

 かつての英雄や勇者に比べれば、マスターの方が数百倍マシです。

 バカだけど。』


 最後の一言要らなくない?


『バカだが、短い日数でも解るぜ。

 お前さんは信用のおける男だ。

 そして、バカ女神共をぶち殺して、世界に平和をもたらすんじゃねえかってな。』


 壮大だな。

 俺にできるかは解らんが、気任せで行きますよ。


「悟りを開いている場合でもないな。」


「!!」


 実はさっきから、コチラへ攻撃を仕掛ける光景が『気来視』で予測できていた。

 ヴェルディは攻撃が来る瞬間に反応した。


 俺は反応できても身体が思うように動かない。


 よって


 キィン!と短剣と短剣が打つかり合う音が鳴り響いた。

 こんな大通りで。


「チッ!護衛かっ!だがっ!お覚悟!」


 忍者だな。

『コロッセウム』では中々見ない存在だ。


「キサマ!このお方に刃を向けるとは!

 殺す殺す!」


 ヴェルディの場合、戦闘モードになるとソルジャー面の性格が出てくる。


『ソルジャーというより、殺し屋ですけどね。』


『言ってやんな。』


 言ってるやん。


 黒ずくめの忍者が1人、何故かこんな大通りで暗殺を仕掛けたのか。

 向こうのギルドとは思えない。


 つまり、別の脅威が俺の背後にいたようだ。

 そして、沈黙を破って再び戦闘が開始された。


 ヴェルディは身体のあらゆる場所に兵器を隠している。

 正にソルジャーメイドさんだ。あ、冥土さんだ。


『言い直した。』


「何者だ!こんな情報は聞いてない!」


「どうだっていい!

 キサマを八つ裂きにしてやる!」


 どっちが敵だか、わかんねー。


 ヴェルディは狂気に忍者を責め立てる。

 銃、投擲ナイフ、短剣、爆弾とバリエーションが多い。

 一方、忍者は短剣と身のこなしが素晴らしい。

 鍛錬の賜物だ。


 しかし、ウチのヴェルディは身体能力や戦争で鍛えた戦闘力がある。


「ぐはっ!」


 下手に訓練された攻撃法より、現場で叩き上げた戦いの方が実用性レベルは段違いだ。


 ヴェルディの回し蹴りが敵の溝に命中する。


「ぐっ!いっ!」


 狼狽えた忍者へ追撃を放つ。

 ハンドガン系の銃で敵のこめかみを狙うが、外した。

 しかし、それはブラフで本命は足であった。


「あがっ!っっっっっ!!」


 何発か片足に命中したな。

 ま、それでも1人な訳ないか。


「動くな!!」


「お、遅え・・・ぞ!」


 車椅子から動く事ができない俺は人質になってしまった。

 1番なってはいけないパターンだ。


「・・・・・・」


「正解だ。大人しくしていろ。」


 ま、それで大人しくなんてしないけどね。


 ヴェルディは銃を投棄した。

 上に太陽に目掛けて。


 相手はその行動に不自然さを抱いたのか、上の太陽を見上げた。

 何故なら、俺が誘導する様に上に向いたからだ。


「うっ!まぶっ!!!」


 ヴェルディは高速で動き、敵へタックルした。


「がっぁ!」


 下手に攻撃するより、俺から突き離したようだ。

 そして、銃が下へ落ちた。


「ばっか!引っ掛かんなよ!」


「うるさい!元はと言えば、アンタが間抜けだからでしょ!!」


「おい。何をしている。」


 俺のお姉さんレーダーが作動した。

 黒髪の短髪ヘアーのナイスバディだ。

 美人な目元は見えるが、後は隠されている。


『そういう時だけ観察スピードが速いですね。』


 バカにするな。これはこれで役に立つ。


「3人ですか。厳しい。

 しかし、私自身を囮に使います。」


「アホか。そんな事すんな。

 いざとなれば、無理矢理に武器を起動させる。

 それに、こっちも援軍が来たしな。」


 俺は前を向くと。


 そこには龍国の勇者と法国の勇者がいる。


「よう。おもろい事してんな?

 アタシも混ぜろよ?

 こういうとこでの喧嘩は大好きだぜ。」


「け、喧嘩は良くないぞ。良くないぞ。

 大人しく引いてくれ。

 そこの男は始末しても問題ないぞ。」


「貴方たちうるさいから黙って。

 ねえ?お三方さん。その人に手を出されたら困るの。

 ウチの妹のお気に入りでもあるから。」


 コクコクと隣でメイが頷く。


「ご主人様。流石です。

 これを予期していたので?」


「予期じゃない。ただ、俺の察知範囲内に引っ掛かったからだ。

 どちらかというと、メイの魔法で発見されたもんだ。」


「凄い。」


 パチパチと小さな拍手をくれた。


『惨めですね。』


 うるさい。


「撤退だ・・・・・目的は果たせなかった。」


 足を撃たれた忍者も背後を取った忍者も居なくなった。


「よかった。ありがとうな。」


「よかったじゃねえ!・・・・心配したぞ。」


 マナミが駆け寄り、俺の手を握ってくれる。

 姉御肌が凄い出てる。


「ちゃっかりしない。」


 メイも手を握る。


「チッ。やられてろよ。」


「ヴェルディ。始末しろ。」


「かしこまりました。」


 ポキポキと手を鳴らしながらバーナードのアホに近づく。


「オッケ!分かった!分かった!冗談だ!」


 ヴェルディさんにしばかれるバカは置いといてだ。


「久しぶり?なのか?」


「そうでもないわね。と言っても、貴方は貴方で、また怪我をしたのね。」


「お前らほどではないよ。」


「国の事を言ってるならそうかもね。

 けど、貴方が関わっているからでもあるのよ?」


 マイの人聞きが悪い話はスルーしてだ。


「今回は何故いんだ?」


「ああ。それはだな。」


「今回のレギオンは各国の注目の的なの。」


 メイが代わりに答えてくれる。


「注目の的ね。

 だから、暗殺されかけたとか?」


「その件は解らねえ。ただ、スィーナ様からはキャストの危機が迫ってるって言われてな。

 つい、飛び出してきちまった。」


「ありがとう。マナミ。助かった。」


 ボンっと赤くなるマナミだ。

 これぞ炎の勇者だな。


「分かりやす。」


「うっせ!」


「だから、そこのバカもいんのか。」


 ボコボコにされ、顔が膨れ上がりタンコブができたバーナード君だ。


「そうだよ。別にお前を見たくて来たんじゃねえ!

 王だからな。仕方なくだ!」


「お前のツンデレはキモいぞ。」


「うっせ!あっ!すいませんした!」


 いいですねぇ。ヴェルディさん。

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