第165話 お出発

 いよいよ旅立ちだ。

 何度目だろうか。このセリフも。


『後、何千回か呟かれるのでは?』


 Tw◯tter並みの速度で旅立ってるやん。


「おはようございます。キャスト様。

 ご準備の方はよろしいでしょうか?」


 今回はセレストではなく、ディアが迎えに来てくれた。

 綺麗な純白の鎧に、赤々しい剣を腰に携えている。


 剣はシアをイメージしているようだ。


「おはよう。じゃあ、行こうか。」


 俺とディアは揃って部屋を出て、外へと向かった。

 外へと辿り着くと、今回の選抜されたメンバーと何故かバーディスと黒髪少女がいる。


「何でいんの?」


「社会科見学よ。」


「違う。本当は気になって付いてきた。」


 黒髪ちゃんの方が正直でよろしい。


「別に遊びに行く訳じゃないぞ。」


「解ってるわよ!法国の危機を聞いて、黙って何かいられないの!」


「ふーーん。」


「何よ?・・・・解ってるわよ!騒ぎは起こさないから!」


 もう騒いでいる件について。


『恐らく、ご家族に帰ってくるなとか言われたのでしょう。

 そこから推察するに、この予言は明らかになってない様子です。』


 でしょうな。

 炎の精霊王の娘だからな。大事よ。娘は。


 俺個人としても、父親の気持ちは凄く分かる。娘は大事だ。


「解ってんなら良いけどね。

 なるべく、コイツらから離れるなよ。」


「ちょっ!キャスト様!良いんですか!!」


 ハイネも耳元で叫んできた。


「うるさい。ヒステリック。

 良いって言ったら良いの!」


「な!何ですって!!

 聞きましたか!?ナタリアさん!」


「はいはい。解ったから静かにしましょう。

 そりゃ、誰だって耳元で叫ばれればうるさくもなるわよ。」


 ナタリア姉さんはこちらの味方だ。

 マナ姉さんもいるし、今回は姉属性が高いぞ。


「旦那様。量産型ボードの準備は整っております。

 それと、龍国と法国の勇者はダークエルフの里の近郊で合流する予定になっております。」


 ミア姉さんは手配や計画を立てるのが上手い。

 流石は嫁さんだ。


『姉なのか嫁なのか忙しいですね。』


「よし。行こうか。

 んで、先んじて合流すっか。」


「お、おおーー!」


 ハイネさんはノリノリだった。

 なお、ハイネさんだけしか返事をしてくれなかった。


『天然は破壊力満点ですから。』


 実際の魔力量も破壊力満点だけどね。


 ハイネは過去、龍国で外壁や建物の数々を破壊していた。

 ただ、意図してやっていた訳ではない。


「割と多くね?」


「お選びしたメンバーは精鋭であり、その部下も付いております。」


「旦那様の護衛も含めですが、今回は法国の一件を適切に処置するためでもあります。」


 適切ね。


『何か腑に落ちませんか?』


 予言で聞いたのは、王の誕生と厄災を迎え撃つ事だ。

 つまり、過程の内容が無い事と迎え撃つ際、または迎え撃った後の内容が無い。


『そこから察するに、何が起こるかのウィークポイントの説明がありますが、現場の内容が開示されていない。

 このメンバーで適切な処置ができる保証もなければ、龍国以上の激戦になる可能性もあるということですね。』


 その通りよ。

 しかも、確実に龍国よりは荒れる。

 計算とか予言とかは無いが、龍国と情勢が違すぎる。

 それに、エルフ・ダークエルフ・謎の機械スーツ国と3国が入り乱れるだろう。


『油断はしないのは勿論ですが、全てが本当だとして、それは対処可能なのでしょうか?』


 解ってるなら聞くな。


『申し訳ありません。

 珍しく、まともな事を言っていたので。』


 一言要らんし。


「キャスト様。私たちもお乗りしましょう。」


「ん?ああ。」


 つい考え込んでいた。

 ぼっーとしていたら、ディアが教えてくれた。


「主様!」


 後ろから呼び止められた。


「シア。」


「主様。ご武運をお祈りしております。」


「ありがとう。行ってくる。」


「はい。」


 短いやり取りだが、シアはいつも見守ろうと目を光らせてくれている。

 だから、この短いやり取りでもシアの意図は解る。


 シアは何かを決意した目をしている。


 なら、俺からは何も言うまい。

 それを報告しに来たのもあるのだろう。


『子供が成長した感覚ですかね?』


 間違ってはないな。ん?ないよな?

 俺より大人のお姉さんな気がするが。


 普段の素行から感覚がおかしくなっていた。

 そんな事を考えながらもボード内に足を踏み入れた。




 アリシア


「行ってしまわれたか。」


「何をする気だい?」


「ロキリア。」


 背後にロキリアがいた。


「・・・・・お前には関係の無い事だ。」


「そう。・・・・あまり言いたくは無いけど。

 下手して怪我しないようにね。」


「珍しいな。キサマが私のような他人を心配するとは。」


「これでも同じギルドの仲間だからね。

 私なりにキャスト様を悲しませない最善の判断をしているよ。」


「そうか。その判断は正しい。否定はしない。

 だから素直に言っておこう。気をつけると。」


 ロキリアは言いたい事を言い終えたのか、その場を立ち去って行った。


 近くのフェリシアが。


「アリシア様。」


「フェリシア。何、大丈夫だ。

 ロキリアにも言われたが、私は主様と共にある。

 ならば、このような些末な事で倒れる訳にはいかない。」


「ですが、アリシア様。

 相手は勇者だぜ?いけますかい?」


 キャリーサも心配していた。


「たかだか勇者とは言うが、されど勇者だ。

 それに厄介なのが、カナエの方だ。」


「お話通りなら相当厄介なお相手ですね。」


「サクヤの言う通りかと。力だけでは厳しいですし。」


 アリシアはキャストたちが飛び立った先を眺めていた。


「保険は掛けておくべきか。」


「失礼ながら、それが1番の手立てかと。」


「だが、サクヤ。誰を頼るつもりだ?」


 サクヤはトスカーネの質問に答えようとしたが、誰かを少し悩んでいた。


「ここは、あの黒トカゲがベストだ。」


 普段から歪みあっているアリシアから発せられた。


「!!よ、よろしいので?」


「サクヤも気づいてはいるのだろう?」


 サクヤは無言で頷いた。


「サクヤ・・・・そうですね。脳筋のアタシでも分かります。」


「キャリーサほどでは無いが、頭の固い私でも解りやすいです。」


「満場一致ですね。アリシア様。

 私がお願いして参りましょう。」


「いや、私が行く。」


「「「「!!!」」」」


 アリシア以外に衝撃が走った。


「私個人の問題でもある。私が頭を下げて済むならそれでいい。

 主様を引き合いにしないのなら、これくらい安いものだ。」


「・・・・神兵長の判断に従います。」


 フェリシアを筆頭に他のメンバーも跪いて、頭を下げた。




 キャスト


「いつ見ても爽快だな。」


「ええ。とても綺麗な景色です。」


「キャスト様にとって満足のいく景色で何よりです。」


 満足のいく景色が何かが解らんが、それでも見ていて悪くないし。ま、いいか。


『この光景が最後になったのであった。』


 不穏なナレーションすな。


 この『フライングボード』1号機(呼称)には、ハイネ、ナタリア、ディア、ミア、マナ、リリーア、バーディスが乗っている。


 何と、全員女の子だ。ハーレム万歳だな。


『1人違う気がしますよ。』


 それな。というか、理由は解るだろうが。

 バーディスを他のボードに乗せると、絶対に問題を起こすからだ。


『早速、お悩みの種を抱えていますね。』


「長旅にはなるか。」


「そうですね。」


「ですが今回は休まず、交代で魔力パスを繋いで動かし続けていきます。

 幸い、魔力が高めのメンバーです。」


 この編成は俺以外、魔力が高い。

 何の理由かは知らないが、そのお陰で、交代で魔力供給していけばいいから、誰かに負担をかける事が少なくなる。


「そういう意味では魔力あんの羨ましいな。」


 ボソッと愚痴ってしまった。

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