第164話 分かれ道

「ふう、いよいよか。」


 身体がホクホクします。

 お風呂上がってからの食事やしね。


『要するに、食事前に風呂に入っただけでしょうが。』


「しかしねー。ここのお風呂も進化したよね。」


 なんと言っても露天風呂や。俺専用の。

 ちゃんとご要望通り、岩で囲いを作ってくれていた。

 草木を生やし、自然を演出してくれていた。


「はい。ドワーフの腕も凄いものですね。」


「それね。極上の酒でも振る舞ってやるか。」


「それがいいかと。皆さんもキャスト様と一杯お飲みになりたいそうです。」


 一杯ってアレだよね。一杯だよね?


『いっぱいの方では?』


 沢山の方なら死ぬよ?ワシ?

 ドワーフの酒力は半端ない。リタなんか化け物よ。

 あの小柄なお姉さん、樽ごと飲みますがな。しかも一つじゃ足りないとか。


「失礼致します。お食事をお持ち致しました。」


 久々のメレナさんや。


 今回も美味しそうなお食事を持ってきてくれている。

 これで私を召し上がって下さいとかでも食べれるな。


『言えばやってくれますよ。』


 やっぱ、ノーセンキューで。


『チキンですね。』


 食事だけにね。ってアホか。


 ステーキでも食べて、ゆっくりしますかな。


 俺は食事を楽しむ事に。1人だけど。


 食べながら思う事だが、俺しか食ってないし、周りの世話係さんとセレストは見ているだけ。

 何か気まづい。1人は興奮してるし。


『お仕事ですから。それに、マスターが幸せそうに食事をしている表情が見たいのでしょう。』


 お母さんとお父さんか。

 ただやっぱり、一緒に食べてーな。

 前みたいに。


『出世は時に孤独を生みますから。』


 よく分かってんじゃん。その通りだよ。

 しかし、それでもこれは変えるべきだな。

 他の奴らにも同じ現象が起きているだろうに。


『重要と言えば重要ですが。』


 とりあえず、黙々とした食事をし終えた。




 次の日


「はあ〜〜〜。」


「まだお休みなられては?」


「そういう訳にもいかんだろ。」


 寝るのもいいが、皆が頑張っている手前、自分だけがダラける訳にはいかん。


『意識高い系。』


 うーん。間違ってないような。

 確かに、これといって仕事らしい仕事をまだしていない。


『会議か大きな案件をこなす要員ですから。』


 大き過ぎだけどね。

 もう少し、コンパクトにならんのかね。


「って言っても、セレストの言う通りなんだよね。今は何もする事ないし。」


「いいではありませんか。

 それだけ平和であるという事です。」


「俺が動くと危険なの?」


「さて、どうでしょう。」


 流石はイケメンや。会話の避け方も上手い。


『イケメン関係な。』


「失礼します。ご主人様。エラルド様からメッセージをいただきました。」


 おっと、メイドさんの1人から伝言がきたぞ。


「どうしたの?」


「はい。何でもアリシア様が聖王国に向かわれるそうです。」


 へ?何?とうとう国家でも征服しに行くつもりなの?


「はあ、今度はシアね。

 分かったよ。行ってくる。」


「心中お察し致します。」


「気にするな。

 これぐらいある方が退屈しなくて済む。」


『本音は?』


 理由が無いので、正直行きたくない。

 嫌な予感がする。


『考え過ぎでは?』


 だといいがね。


 俺は部屋を出て、テレポート装置でシアのところへと向かった。


 そういえば、シアの部屋に来るのは初かもしれない。


『来ても碌な事にはなりませんよ。』


 だろうね。見なくても予想が付きやすい。


 コンコンとノックをする。


 アポ無しだからな。


「シアいるか?」


「あ、主様!!ど、どうぞお入り下さい!」


 ガチャリと開けた。

 部屋の中に入ると、もう何も見たくなくなった。


 普通、女の子の部屋はドキドキとハラハラがして興奮するものだ。

 しかし、ここまで酷過ぎると何も感じなくなる。


『予想ぐらいはできたでしょう。』


 部屋は綺麗だ。掃除も行き届いている。

 そして、仕事場も綺麗に整理整頓されている。

 装飾や部屋の内装に家具も適切だ。


 ただ、俺グッズはどうにかならんのか?

 いつのまにか販売されてんだよ!

 1番苦しいわ!誰得だよっ!


『さあ?皆さん的には喉から手が出るほど欲しい品らしいですよ。』


 何ぞそれ?


「も、申し訳ありません。

 来るとは知らず。片付けや掃除の支度が間に合っておりませんでした。」


 まず、部屋は問題無い。

 グッズに問題があるだけでな・・もういい。


「いや、大丈夫だ。俺的にシアが気になってね。

 護衛の任務から帰ってきて間も無いだろう。」


「護衛の任務はそうですが、アレは私にとってはご褒美なので、任務とは。

 あ、いえ。必要な事であり、決して気を緩めている訳ではありません。」


 さっきから謝るべき所とツッコミを入れるべき所が違う気がする。


「んん。そ、そうなのね。

 じゃあ、さて置き。

 本題だが、どうして聖王国に?」


「その件は私のケジメです。」


「ミアと同じ感じか。」


「そうですね。最悪な話、あの呪物によって教えられました。

 過去は振り切ろうにも、自身で精算できない以上は付き纏うものだと。


 私が醜態を晒す訳にはいきません。

 部下もでき、主様の1番にも成れました。

 その席を譲るつもりは毛頭ありません。」


 いつのまに1番になった。

 確かに、そのギャルスタイルなら1番だけど。


『下心出てんぞ。』


 あ、そうだ。すまない。

 えーと、アレだよね。『シュバリエ』?だったか。

 アレで1番=俺の1番って事ね。


『解っていますか?』


 うんうん。大丈夫よ。

 カレーにチョコレートは入れない派って事だよね。


『ダメだこりゃ。』


「主様。かつての私は愚かで無様な道化でした。

 主という神に出会わなければ、いつまでも道化のままでした。

 このような穢れた身でも、主様の力によって浄化されました。お陰で目が覚め、自身の使命にも気づく事が叶いました。」


 抱いただけだよ?浄化って何よ?

 ナニソレ?オイシイノ?


「ですので主様。私も変わって参ります。

 この立ち位置と力を更に力強いものにするために、私は行って参ります。」


 今まで変な事言っていたが、ここにきて英雄の視線を感じ取った。


「なるほどな。本気で過去と向き合うつもりだな。」


「はい。お許し下さい。」


「許すも何も。変わる必要があるなら全力投球しなさいな。

 変われるチャンスなんて、早々無いよ。」


「ありがとうございます!

 お戻りになりましたら、是非可愛がっていただけると幸いです。」


 可愛がろう。全く。


『満更でもねえな。』


 今のシアには俺の理性が働き難い。


「絶対に帰ってきてよね。」


「勿論です。全てを綺麗にして参ります。」


 国は残しておけよ。

 国家破壊費用とか持ち合わせていないからな。


『心配するとこ、そこなんですね。』




 アリシア


「主様が私を心配して下さっていた・・・」


「失礼します。アリシア様。

 ?やけに、嬉しそうですね。」


「ん?ああ。主様が来てな。」


「何ですと!!」


 事の経緯を部下に話した。


「それは素晴らしい日ですね。」


「ああ全くだ。今日も主様に感謝だ。

 いかんいかん。これから任務だというのに。」


 しまった、興奮してしまった。下着を変えなくては。


「アリシア様。その件ですが。

 アリシア様のご実家には訪れるご予定は?」


「ある。妹も見ておきたいしな。」


「かしこまりました。

 計画に手配しておきましょう。」


 私はこれから聖王国で全てを洗い流してくる。

 例え、勇者を殺そうとも。

 私は彼のため、彼の思い、彼の利益だけを考えればいい。


 それと、私の過去のケジメもつけなくては。

 王太子などという世迷言を言った過去を始末せねば。


 アリシアは強く決断した。

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