第118話 新しい一歩

「セイラン姉さんじゃないとダメなんだ。」


「な・・んで?」


「姉さんがあの時、捕まったって聞いてから速攻で動いた。

 一日だけ日が経ってしまったが、それでも可能な限り動いた。

 だから、その日のうちに救えたのは良かった。

 けど、それよりも思ったのが。


 姉さんへの想いが、俺にはしっかりあった事だ。

 それに、酷い目にあった話を聞いた時、今まで殺人に抵抗があったけど、すんなりと相手を殺しちゃったよ。」


「・・・・。」


「姉さんが悪いんじゃない。

 要は、それだけ俺は怒れたって事だ。

 考えとか躊躇いなしに、自分がそれだけセイラン姉さんという存在が大切な人だった。


 あれだけ、戦って傷つけておいてなんだけど、好きだからこその想いだった。」


「キャスト・・・でも私・・私はもう・・・。」


「それは!・・・・ええい!らしくない!」


 俺は姉さんを押し倒した。


「きゃ!キャスト!こ、これは・・。」


「姉さんは綺麗過ぎなの!

 だから、俺がまた汚してやる。

 誰も受け入れられないぐらいに汚すよ。

 拭いても洗っても取れないよ。」


 俺は人生で初めてやらかしてしまった。

 異世界だからだろうな。

 前世なら・・・考えたくもない。



 朝


 やってしまった事に、隣に姉さんがいた。

 ちゃんと俺の腕に引っ付いている。


『やりましたね。マスター(スケコマシ)。』


 おい。二重音声で俺をディスるな。

 けど、これしか無かったんだよ。

 それとも、婚約者呼ぶか?

 それまでに保つか?それに、ソイツがどう対応するか、分からんだろうに。


『シスコン。』


 いや!それは・・・そうだな。

 とは言えど、肉親に手を出してしまった。

 どう説明すればいいんだ・・・。


 特に、アーシャ義母上だ。


『殺される覚悟はしておいて下さいね。』


 ですよね〜。


「んっーんん。おはよう。キャスト。」


「おはよう。姉さん。」


「フフ。かわいいね。」


 ほっぺにキスしてくれた。


「あ、あの!そのー、すいません。」


「いいよ。それに、私は実姉じゃないから。」


「ああ。そうなのか。ん?今なんて?」


「だから、実姉じゃないの。」


 おいお前、気づいていただろう。


『黙っていた方が、面白いリアクションが取れるかと。』


 テメェは俺を怒らせた。後で覚えてろ。


「そうなの・・って安心しちゃダメだね。」


「なんで?」


「婚約者だよ。いるだろうに。」


「どうでもいいよ♪

 キャストと一つになれたし。

 昔から好きだったから良いの。」


 なんだろうか。急な告白に動揺する自分がいない。

 最初の件が衝撃的過ぎて、最早状態だった。


「なんか悩んだのがバカバカしい。」


「そうそう。だから気にしない気にしない。」


 元気でたかな?なら、良いんだけど。


「これで、自信が持てたのかは分からないけど、1人で立てそう?」


「うん。大丈夫。それに、もう決めたからさ。」


「そうか。なら応援するよ。」


「うん。ありがとう!

 じゃあ、着替えたら先に出るね。

 義父様たちに会ってくる!」


「分かった。」


 こうして、姉さんは先に出て行った。


 さてと、俺も着替え・・・

 何かドアの隙間から視線を感じるぞ。


「入っていいよ・・・。」


 憂鬱ながらにそう言うと、ミアとマルグリットが入ってきた。


「昨日はお楽しみでしたね?」


 マルグリットさん。その問いかけはどうなのよ。


「旦那様。確かに、慰めるようにお願い致しました。

 ただ、そんな手法をお取りになられるとは・・ううっ。」


 おいやめろ!

 何か浮気現場みたいで良くないから!


「んん!それは置いといてだ。

 結局、ギルドには連絡をしたのか?」


「あ!申し訳ありません!

 連絡の前に・・・いえ、言い訳です。

 何なりと私をお裁き下さい。」


「いや、いいよ別に。結果オーライだよ。

 それに、連絡していたら余計にややこしくなるし。」


「そ、そんな!」


 残念そうにするなし!

 何のお仕置きを期待してんだよ!


「お優しいのですね。あなた様は。」


「優しいのか?俺?」


 こんな調子では、自信を失いそうです。


「そろそろ、お着替えをされた方が良いかと。

 出る前にご家族様がお話をしたいと。」


「了解。

 ミアも出る前に、騎士団の皆んなとお別れしてきな。」


「かしこまりました。

 ご配慮、ありがとうございます。」


 気が再び使えるようになったのか、少し身体が軽い。

 前は重いだなんだのよく言っていたが、慣れるとこんなもんなんだな。


『剣とかと同じです。

 重量は使っていけば、やがては慣れるものです。』


 なるほど。確かに。

 だから、騎士の人たちはあんな重そうな鎧と剣を常に携帯しておけるんだな。


 着替え終えた俺は応接室へと辿り着いた。


「失礼致します。」


 ノックをした後に、一声扉越しに声を掛けた。

 そして、ドアが内側から空いた。

 久々のマティウスであった。


「お待ちしておりました。キャスト坊ちゃん。」


「割と年数経ってるけど、見た目変わらないね。マティウスは。」


「ホッホッホ。あまりご老人を揶揄うものではありませんよ。

 ささ、こちらへどうぞ。」


 マティウスがソファーまで案内してくれた。

 一応お付きで、マルグリットが付いてきている。


「しっかりと休めたか。キャストよ。」


 俺の目の前には父上、母上、アーシャ義母上、セイラン姉さん、ハルバン義兄上がいた。


「そちらこそ傷は?」


「フッ。舐めるなよ。これでもまだ現役だ。

 リックスの野郎に、いつまで寝てんだって笑われちまうぜ。」


「あいつは永遠に寝ていた方がいいがな。」


「ハハハハハハハッ!

 言うではないか!キャストよ!」


「フフフ。変わったのね。」


「ほぅ。以前の甘さが抜けてきたか。」


 母上とアーシャ義母上も続いていた。


「では本題だな。

 まずは、我が家の危機とセイランを救っていただいた事を誠に感謝する。

 報酬は望むのもを用意しよう。」


 では、綺麗なお姉さんを


『そんな事に報酬使ったら後悔しますよ。

 それに、綺麗所なら『ファミリア』にいるでしょうに。』


 綺麗所はね。綺麗所はいるよ。

 普通という概念が無いだけ。


「そして、セイランの件だ。」


「・・・・・。」


「セイランはここの騎士を辞めた。」


「そうか。

 ま、でも結婚先もあるしな。安泰じゃね?」


「それがな。キャストよ。

 セイランがお前に付いて行く事にしたそうだ。

 何でも、私たち以外にセイランの秘密を知ったとかな。」


 アーシャ義母上。不可抗力です。

 そんな威圧しないで下さい。

 おしっこチビります。


「アーシャ様。良いではありませんか。

 キャストが女にダラシなくなってしまったのはこちらの教育不足ですが。

 セイランを確実に託せるのは、キャストが1番なのも事実です。」


「メイリーンよ。分かっている。

 我が旦那とも話し合い、決めた事だ。

 試しに脅してみただけだ。仮にも、義娘であるのだ。

 どんな男かをしっかりと見極めねばなぁ。」


 後半怖いんですけど。


『迫力がある義母親ですね。』


「でだ。キャストが良ければなんだが。」


「俺は構わんよ。

 人手はいてくれればいてくれるほど、助かるのが現状だからな。」


「キャスト!ありがとう!」


 セイラン姉さんが抱きついてきた。


 うむ。悪くにゃいな。(胸の感触)


『死にますよ。』


 うん。分かってる。

 後ろから殺気がビンビンに伝わっている。


「良かった良かった。

 最後に一つあるんだがいいか?」


「うん?」


「それは・・・。」


「おう。マジか?」


 俺はかなり驚きの招待状をいただいた。



 門前


「お待ちしておりました。

 馬車の準備は既に整っております。」


 ミアが待っていてくれていた。


「ありがとう。ミア。

 大丈夫だったか?しっかりと仲間たちと話してきたか?」


「はい。問題なく。

 マーシャ隊長とクローク隊長が結ばれていたので、お祝いもしておきました。」


「そうか。

 暫くは帰ることも無さそうだしな。」


「そうですね。

 ですが、皇国の件もあります。

 その時は・・」


「分かってる。そん時は必ず行く。」


 アイツらがいつ攻勢を仕掛けてくるかは分からない。

 ただ、油断せずに情報収集を行っておこう。


「大将〜!待たせた!すまん!」


「おせーよ!斬り殺すぞ!」


 マルグリットさんが痺れを切らしたのか、威嚇していた。


「何を!お前!グラディエさんは僕が守る!」


 エミール姉妹がマルグリットの前に立ち塞がった。


「仲良いなお前ら。」


「あまり刺激せん方がええでありんすよ。」


 マートンとキュルキもきた。


「どうだった?」


「バッチリだ。マスター。」


「結構な値段でせしめたでありんしてよ。」


 キュルキとマートンの顔が黒い。

 商人はこういうのが1番怖い。


「お、お待たせ致しましたわ!」


「お嬢様。本日もお美しいです。」


 カーチャ様は赤い服に軽装していた。

 バカイケメン騎士は変わらず。


「キャスト!お待たせ!」


 セイラン姉さんが最後にやってきた。


「いいのか?本当に。」


「うん。・・・ちゃんと決めたよ。

 もうキャスト以外お嫁に行けないからさ・・」


 ッポってすな!

 昼間にする話題ではないぞ!

 ほらもう!後ろの女騎士2人がうるさいし!


 本当にコイツらは。

 最後の最後まで、面白い奴らだよ。



あとがき


ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。

フォロー・応援・レビューもありがとうございます。


引っ越し完了したので、明日以降から新居へ移動です。

ですが、変わらず投稿していきますので、今後も何卒よろしくお願い致します。

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