第117話 お家騒動 鎮火編

 こうして、少年との戦いを終えた俺たちは、無事に実家に辿り着いた。


「キャスト〜〜!!無事であったかーー!」


 うぁ!抱きつくな!汗くさ!

 ぐぉぉぉぉお!!


 無事に戻った事を安堵したのか、怪我人の父上が抱きついてきた。


「キャスト・・・立派になったのね。」


 母上も優しく抱きしめてくれていた。


『良い家族ですね。』


 そうだな。

 これを守れたのはデカいな。


「キャスト!セイランは!?」


「アーシャ義母上。無事ではあります。

 ですが・・・。」


 家族に事の一連を話した。


「っ!くっ!!」


 アーシャ義母上から、とんでもない殺気と魔力波を感知した。


 やばいな。この人は予想以上に化け物だ。


「今ソイツらは生きているのか?」


「分かりませんが。

 ファイスト家の奴らを詰めれば解るかと。」


「そうか。行ってこよう。」


「馬鹿者が。」


 別方向から声がした。

 妙に聞きなれた声であった。


「さ、サルベリア!!今まで何処に!」


「全く。キャストもドルガルの子であったのね。」


 何その単細胞なのね的な発言は。


「サルベリア様。一体何処へ?」


「返答次第では貴様を拷問にかけるぞ。」


 アーシャ義母上が怖すぎです。


『流石、エラルド様が苦戦されたお相手ですね。

 今のマスターなら、モノの見事にミンチにされますね。』


 わーってる!てか!いちいち俺で例えんな!


「落ち着かんか!脳筋共が。

 これでもこの家のために裏で動いていましたのよ。」


「それは・・一体?」


 母上の疑問は最もだ。


「セイランとハルバンの件は完全に盲点だったわ。特にセイランは。

 ファイスト家の奴らに政治的に潜り込み、国へと情報を流していましたが。」


 サルベリア義母上が俺を睨みつけた。


 あ、余計な事を的なサムシングかな?

 でも!姉さんがもっと酷い目にあったかもしれないから、後悔はしてないぞ!


『そうではありません。話をしっかりと聞いて下さい。

 サルベリア様はセイラン様とハルバン様は想定外であったと言っていました。

 つまりはマスターが辿り着き、暴れたのも、たまたまにしか過ぎません。


 着くまでは、何処に囚われていたのか。何をされていたのか。

 なんて事は分からなかった筈です。』


 いや。それは。そうだけども・・。

 けど、本能では・・・。


『それで良いです。

 ただ、話が拗れてしまうため心内にしまって下さい。

 幸いにも、マスターより怒りを感じているお方がいるので。』


 アーシャ義母上か。そうだな。娘だもんな。


「それは結果論だ。

 キャストが助けてくれたのはあくまでも結果だ。

 お前がコソコソとしていた事などどうでもいい。

 私は娘を汚されたのだ!

 その間にお前は、我々の目の前から消え!ファイスト家にいただと?

 いいや!いなくても繋がっていたのなら、何かしらの情報があっても良かった筈だ!」


「アーシャ・・・。」


「黙っていろ。怪我人。」


「うっ・・・はい。」


 父上・・・女に弱すぎだよ。


『ブーメランです。』


「そうね。それに関して・・・いいえ。

 あなたの気が済むようにしたら良いわ。」


 家族全員に衝撃が走った。

 あのサルベリアが、自らを犠牲にするような発言していたからだ。


「何の冗談だ?」


「冗談では無くてよ。

 これでも、ここの人たちを守るために動いていたのだから。

 けど、結果的には遅かった。

 それは私のミスです。咎められて当然です。」


「さ、サルベリア!」


「ドルガル。私は貴方に惹かれたのです。

 であれば、守る事ができなかった私は恥となるわ。

 だから、アーシャ。気が済むようにして頂戴な。」


「・・・・。」


 アーシャ義母上は何も言わずに、そのまま立ち去ってしまった。


「アーシャ・・。

 あなた様。行ってきてあげて。」


「分かった。メイリーン。後は頼む。」


「かしこまりました。」


 父上はアーシャ義母上を追って行った。


「さて。俺からなんだが。ファイスト家の処遇は?」


「あら。えらく変わったのね。貴方。

 昔は何を考えているのか分からない、気味の悪い子であったのに。」


 アーシャ義母上の代わりに、俺が介錯してやろうか?


「キャスト。顔に出てるわよ。絶対にお辞めなさい。」


 は、母上。


『母は強し。』


 だな。切り替えてと。


「改めて聞かせてほしい。」


「いいでしょう。では・・・。」


 簡単に話すと


 ファイスト家はテロリストと繋がりがあったこと。

 皇国の直属の騎士でもある父上たちに危害を加えたため、お家を取り潰しにしたとか。

 ただ、結婚しているファイスト家の女性たちは問題ないが、兄のタージュと当主のルーヴェンは拘束された。

 だが、護送途中に消息不明になったとか。


 そして、特に関係者たちは全員裁かれる事に。

 ここは、ほぼ全員斬首だろうな。


 ただ、メイドさんや執事さんは別の家へと流されたとか。罪のない人だけ。


 皇国では『光明の旅立ち』は世界規模での指名手配と公認された。


 これで一先ずはなのか?

 接触機会を減らせれば、まだマシか?


『いえ。難しいかと。

 ただ、あの少年の話を精査するに、皇国と聖王国は後の方らしいですね。』


 けど、種は植え付けられたって事か。


『左様かと。

 いつ芽吹くか解らないものを、じっと待つつもりはありません。

 各国を周り、対応していく方が良いかと。』


 確かにな。敵を倒すのには順序があるわな。

 フムフム。ん?あれ?なんかおかしくね?

 何で俺が解決しに行く事が前提なの?


『自動的にそうなるので、お気になさらずとも良いかと。』


 ナニソレ。


 新たな苦労を発掘してしまった。



 夜


 俺がこの家を出る前にやる事がある。


「ミア。すまないが、ここから先は誰も入れないでくれ。マルグリットも頼むよ。」


「かしこまりました。」


「かしこまりました。旦那様。

 セイラン様をよろしくお願い致します。」


「任せとけって言えたら心強いが。善処するよ。」


 俺は扉をノックしてから入った。


 ベッドには無事完治している、姉さんがいた。

 上半身を起こして窓の外を眺めていた。


「姉さん。」


「キャスト・・・。」


 嫌な沈黙だ。

 いつもは、おふざけ沈黙だとか言ってたのに。

 これは辛いな。


「あ、あの。」


「私ね。汚れちゃった。


 あーあ。結婚も控えていたのに。

 騎士として、戦う以上は何かはあると思ってたの。

 けど、今なんだかなぁーって。」


「・・・・。」


「ねえ。私はこの世界に必要なのかな?

 何度も何度も、嬲られている間にふと思ったの。

 私が一体、どんな悪い事をしたんだって。

 私がどうしてって。

 私こんなにも頑張って戦ってきたのにって。

 分かってる。戦う以上は分かってる。

 でも、受け入れられない自分もいたの。」


 セイランは涙を少しずつボロボロと流しながら語っている。


「大切な人も傷ついて。

 それにキャスト。貴方も傷ついた。ハルバンも。父様も。マーシャもクロークも。みんなみんな。」


「姉さん。俺は!」


「だからね。もう良いかなって。

 こんな汚れた私は要らないって。

 こんな私を誰も見てくれないって。

 だから、最後に・・。」


 あかん奴やこれ。


『珍しく弱々しくしていないで、いつものように突っ込んで下さい。』


 !!


 剣に諭されるとはな。焼きが回ったな。


 家族があんな目に遭っていて、冷静にいつも通りになれる奴なんていない。

 俺も例外ではなかったらしい。


「姉さん!」


 ビクッとしたセイランだ。

 そんなセイランの手を握っていた。


「いい?この世の中で自分のスペアなんて、その辺にゴロゴロといる。

 俺もそうだ。

 ただ、スキルや魔力が無いだけで、言い方を変えると一般市民と何ら変わりのない少年だ。」


 そりゃそうだ。

 気の力に目覚めても、俺以外の誰かはチートを持っている。

 今の仲間たちを作り上げるのは、何も俺で無くてもいい。


 くどくなるが、もしかしたらは常に存在する。

  誰でもできる可能性を秘めているからだ。


 それに伯爵家に生まれてなければ、ぼっーと余生を過ごしたかもしれない。


「姉さんの代わりなんて沢山いる。

 確かに、ここで死んだら家族が悲しむ。

 けど、今度はその穴を埋める何かができる。」


「キャスト・・・なら!もう!」


「でもね。俺はどうやら違うらしいよ。」


「!!」


「俺はセイラン姉さんが、お姉ちゃんじゃないとダメらしい。」

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