第77話 魔族の尖兵

 キャスト・ハイネの侵入の際、破壊された壁の防衛をしていた星龍の元女王陛下、現女王陛下、グレースとハイネである。


「アルマ様、スィーナ様。

 もう時期、魔族が来ます。」


「エルフのお嬢さん。

 魔力が私と同じくらい高いけど、範囲レベルはあなたの方が上よ。

 だから全体を気にしてほしいの。」


「わっ、わっかりました!

 正面の敵たちはお願いしまっす!」


「緊張しすぎでは?」


 アルマが心配そうに聞いてきた。


「そ、その。いつもよりメンバーが・・」


「お気になさらずとも、私もとても緊張しております。

 今まで女王として内政ばかりで・・・

 初めての戦場で何ができるのか分からず・・

 お母様に任せっきりです。」


「スィーナ様。」


「いつも通りでいいよ。

 戦いなんて慣れるもんじゃないわよ。

 ダーリンも同じことを言うわ。」


「グレースさん。そうですね。

 ご主人様ならきっと。」


「フフ。ハイネさんはキャスト様のことが大好きなんですね。」


 きゅーボン!という顔が赤く沸騰し、頭に煙が上っていた。


「わかりやすいのぉ。」


「本当ね。」


「なななななな。あわわわあわ。」


「より緊張させてしまいました。」


 スィーナが微笑ましく見つめている。


「カッカッカ!

 それよりもだ。お出迎えが先じゃのう。」


「あら?本当ね。」


 正門ほど大群では無いが、軍が押し寄せてくる。


「ここが踏ん張りどころじゃ。若いの衆よ。」


「は、はい!」


「分かりましたわ。お母様!」


 アルマが先陣を仕切り軍を動かす。

 中衛でスィーナとグレースが軍を構え、前衛へ支援を行っていた。


 そして後衛では2つのルートと正門を支援すべく、ハイネが魔法を唱えていた。


「上手く、振り分けられるか分かりませんが!『ウォークライ』、『アーマーシールダー』、『マジックシールド』、『デイメイションムーブ』、『オートヒール』、『マジックエッセンス』、『マルチアーマー』、『リンク』。」


 一気に唱え、3方向に支援魔法を飛ばした。

 最後の『リンク』は各指揮官に通信を繋げる魔法だ。


「『こちら全体を指揮しているミレルミアだ。

 この魔法が届いたということは、何とか凌げているという事だな。』」


「『私たちの・・えーと。

 アルマ様隊は問題ありません。』」


「『こちら正門の勇者隊は問題ない。

 厄介な敵将がいたが問題なく排除した。

 しかし、士気の低下が目立つ。

 今日は保つが、明日から怪しい。』」


 アリシアが次に報告をしていた。


「『うーん。

 こっちは大丈夫とはいかないみたいだ。』」


「『何っ!?どうした?ルシファル。』」


「『うん。僕とブラス、知らない紅龍人ちゃん以外は死んじゃったよ。』」


「『!!戦況の報告を!』」


「『あー、ただ倒せそうだし、今日は大丈夫だよ。気にしないでよ。

 一応報告までって事で上げといたからさ。』」


 ルシファルからサラッと爆弾発言があったが、慌てる様子が見えないため実質は大丈夫そうであった。


「『しかし、ルシファルさんたち以外は全滅って・・・一体』」


「『相手が精神・即死系の使い手だって事だね。』」


「『ほう。珍しい使い手がいる。

 いや、魔族ならいても不思議ではないか。』」


「『それじゃ先に切るよ。』」


「『わかった。無理はするな。』」


 ミレルミアの発言後、ルシファルの『リンク』が切れた。


「『遊撃予定の奴が足止めを喰らったか。

 私がルシファル側に援護しに行く事ができるが・・・』」


「『バカか。頭まで悪精霊に汚染されたか。

 総指揮を任されておいて勝手に動くな。

 こちらの勢いを削ぎ次第、私がすぐに向かう。』」


 アリシアもそう言い、『リンク』を切る。


「『ったく、言うだけ言ってくれるな。

 ・・・少なからずそっちが現実的か。』」


「『そ、そうです。

 私も遠距離ですが、ルシファルさんへ援護します!』」


「『解った。後は頼んだぞ。

 引き続き、軍の編成と出方を随時確認し、作戦を立てておこう。』」


 ミレルミアの『リンク』が切れた事により、通信者は誰もいなくなった。










ハイネが破壊した城壁跡地


「さてと。

 こっちは割とピンチのような演出かな?」


「実際にピンチであろうが。」


「そうだ。」


 魔族軍の前には杖を持ったローブ姿の触覚が2本生えたご老人悪魔、青白い肌に顔色が如何にも悪そうなツノ付きの悪魔がいた。


「ほっほっほっほ。

 天使のなり損ない相手なら大丈夫そうだの。」


「その通りですなぁ。

 堕天しているのが残念ですが。

 それでも楽しめそうだ。」


 青白い悪魔は舐め回すかのようにルシファルを観察している。


「キモいなぁ。

 それに堕天は自分でしたから天罰じゃないんだけどな。」


「ほう。ペナルティ要素は無いと。

 バカな事を自身でしたと。」


「そうだよ。

 愛している人のためだよ。躊躇う理由がないだろう。」


 結果、他の天使たちにグルグル巻きの封印術を施されたのは別の話。


「フハハハ。それでもだ。

 馬鹿であることに変わりは無い。」


 ブラスが横から。


「おい、どうする?

 実際にアイツらの攻撃は厄介だ。

 それに守備兵なのか、武装したオークやオーガが守っている現状、割と厳しい。」


「あの辺の豚なら問題ないけど、厄介な攻撃をアイツらはしてくるからね。」


「なら我が射抜こうぞ。」


「ふーん。今なら不動の効果も作動してるか。

 いいんじゃないかな。」


 負けたスカーレットはアルマ軍指揮の下で参加している。

 打ち負かされた後、アルマの契約術によって生かされている。


 スカーレットはスッと弓を構えた。

 神級装備の弓を相手へ向け、発射体制に入った。


「では、行くぞ!

 『血雨矢ブラッドレイン』」


 放たれた矢から大量の赤き閃光の矢へと分裂し、敵陣に向かった。


「ほう。来るぞ、お前さんら。」


 ガシャガシャと盾を構える魔族軍の守備兵、後ろで待機していた魔法兵による支援魔法で防御を固めていた。


 そして衝突する。


 大量の赤い矢が盾や鎧を貫通している。

 しかし、守備兵や支援魔法を前に2人の魔族を射抜く事ができなかった。


「だが、これで守備兵は減らせたな。」


「うむ。ならば後ろの敵陣は私が始末してこよう。」


 ブラスはドロンっと消えていった。


「そしたら充電ができ次第、君は打ち続けな。

 僕があの2人を引き受けるからさ。」


「了解。」


 スカーレットは再び矢を構え、大群へ照射している。


「これで守り手は減ったけど、大丈夫?」


「舐めるなよ。天界の若造が。」


「守備兵などいなくとも我らなら問題などありはしない。」


「そう。なら死ね。」


 上に手を掲げると、巨大な光の魔法陣が展開される。


「『メテオラ』」


 巨大な隕石が彼ら2人の上に発生する。

 かなりのスピードで落下する。


「なっ!なんじゃと!

 いきなり天界の第10魔法位だと!」


「化け物がっ!」


「化け物に化け物呼ばわりされたくないね。」


「くっ!『シャッフル』!」


 2人の悪魔と後ろの兵が入れ替わった。


 魔力レベルが同等でなければ発動できないため、相当数の魔族兵と入れ替わる。


 結果、多くの魔族が身代わりとなった。


 隕石がそのまま落ち、目の前にいた魔族兵を焼き払い、塵に変わった。


「ふーん。逃走系魔法ね。

 割と用意周到だね。」


 翼を広げ、上へ飛行した。

 周囲を見渡して彼らの位置を特定する。


「あそこか。」


 天界の超位魔法を発動する。


「『アルテミス』発射。」


 大量の魔法矢を放つだけではなく、必ず命中・貫通させて相手を絶命させる魔法だ。


 空中から2人の悪魔を目掛け、周りの魔族を巻き添えに光が降り注ぐ。


「ぐぇぁぁああ!」


「ぎゃぁぁああ!」


「うぐっっぅあああ!」


 さまざまな阿鼻叫喚な声が聞こえてきた。

 何百と殺し尽くす。


「ふう。まだ生きてる?

 厄介だな。老人の方が死にかけか。

 『タイムストップ』」


 周辺の時が止まる。


 空中から一気に2人に詰め寄った所で攻撃を放とうとしたが、横から鋭い一撃が飛んでくる。

 直前で避けるが、頬にかすり傷ができる。


「へぇ。この空間を動けるという事は上位の騎士さんかな?」


「初めましてレディ。

 私はヴァルツーと申します。

 大魔王陛下に魔王騎士の称号をいただいた者です。」


「(チッ。面倒だ。

 魔王級なら確かに動ける。

 それぐらいの対策は練ってる訳か。)」


 全身禍々しい黒鎧に身を纏い、禍々しい魔剣を持った男がそこにいた。


「『解除』」


 再び時は動き出した。


「!!なっ!あなた様は!」


「お、お、あ・・なたさ・ま」


「遅れてしまい申し訳ない。

 怪我は老公の方が酷いようだ。

 すぐ後ろへ下がり、回復へと努めなさい。

 龍人共を駆逐した功績は値します。」


「大変勿体なきお言葉。かしこまりました。」


 青白い悪魔は老人悪魔を引き連れて下がる。


「せいぜい死ぬなよ。

 俺がお前を可愛がるまではな。

 まぁ、無理だろうがな。」


 捨て台詞を吐いた後、魔法で立ち去る。


「下品な仲間だね。」


「これは申し訳ない。

 私としては規律を正す側ですが、悪魔は欲望に忠実なんだ。」


「そう。僕らと変わらないから、気にしなくていいんじゃない。」


「ハハ。そうなんですね。

 ただお互いここで足止めです。

 あなたには捕虜になってもらいます。」


「強気だね。勝てるとでも?」


「でなければ、ここには来ませんよ。

 『残虐王』の指示がなければね。」


 ルシファルがピクっと反応する。


「(『残虐王』だと?面倒な奴が指揮官か。

 確かにこの配置や敵の弱い部分を突いている戦法は奴しかない。)

 となると、他にも仕掛けがありそうだ。」


「私は指示されただけで、恐らくはそうなんでしょう。

 全く、いつもこれくらいしっかりとしてくれれば良いのですが。」


 ため息混じりにヴァルツーは呟く。


 そんなルシファルはヴァルツーを見ておらず、奥の空を見ていた。

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