限りなく白に近いグレー

水依レイ

プロローグ

『もし今、私たちの知らない遠く離れた地の誰も居ない森で、一本の木が倒れたとします。その際に、その木は〝音を出して〟倒れたのでしょうか』


 これはアイルランドの哲学者、ジョージ・バークリーが投げかけた言葉だ。バークリーはこの問いに対し「木は〝音を出していない〟」と答えた。


 そんなはずはない、そう誰もが思うはずだ。


 ここで重要なのは、「認知」、つまり誰も居ない森の中で倒れた木の音は、誰にも認知されていないということだ。


 バーグリーは「(それが)存在するということは、(誰かがそれを)認知をすることである」つまりは、「存在は、認知があって初めて成り立つ」というのだ。


 だから結論として、「誰も居ない森で、木が音を出して倒れたところを、認知できないため、木は音を出していない」と言えるのだ。


 しかし、これは僕たちが生きる現代社会において全く意味を持たないだろう。人間は一人では生きていけない、社会的存在なのだから、互いにだれかを観測し、だれかに観測されているはずだ。


 


 つまり認知されない人間なんて、存在しない。


 


────────ただ、僕を除いて、


 

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