第6話 僕と先生と歪な世界




"先生"が村にきたのは僕が6歳の頃だったろうか?村の皆んなや父さん母さんも落ち着かない雰囲気があったような気がした。

所謂お医者として村にきた"先生"だったが、そちらの方はあまり活躍はしてなかった。獣もあまり出ないようなこの村では怪我人が出る事が稀であり、年寄りたちにも村一丸でサポートするなど仲間意識がとても高かった。

その仲間意識に"先生"は苦しめられて力に呑まれてしまうわけだが、この時の僕はそんな事気づきもしなかった。



子どもにしては大きな怪我をしてしまい僕は両親に"先生"の所へ連れて行ってもらった事があった。医者としてあまりやる事がなかった先生は気まぐれにこの世界の歴史を教えてくれた。



「知っていますか?この世界には神様がいるのですよ」



「かみさま?」



「そう、神様です」



それが僕と"先生"のはじまりだった。

それから怪我の痛みを忘れて色んなことを質問した。両親はあまり良い顔はしてなかったと思う。"先生"にどうして空は青いのかとか、川の水は何で冷たいのとか色々だ聞いたと思う。そしてそのほとんどに神様という名前が出てきた。



「神様ってどんな人なの?」



「人ではないもっとすごい存在ですよ。私も見たことはありませんがね。この世界は元々神様が暮らしていたのです。」



「神様はどこにいったの??」



「神様は神様同士で喧嘩をしてしまって、みんな色々あってどこか遠くに行ってしまいました。そして私たちが今そこに暮らしているのです」



「ふーん。そうなんだ、、、。」



「けれどね、神様はいつも私たちを見ているんですよ。だから皆祈るのです。遠くにいる神様に私たちは生きています。神様たちのことを忘れていませんとね。だから君も祈る時はきちんと祈るんですよ」



「うん!わかった!!僕アルって言う!!

お兄さんは??」



「私はルーク。いつも暇をしてますから、良かったらまたここにおいで。色んなこと教えてあげますよ」



「わかった!!」



そう約束してから何度も"先生"の所に通った。

両親は苦い顔をしていたけど、世界への興味が何度も僕を"先生"のもとへ運んだ。




「いいですか。この世界には加護というものがあります。それは武器だったり癒しの力だったり、馬が出てきたなんて事もあるようです」



「加護??それも神様なの??」



「うーん、少し違いますね。神様の残滓と言えばいいでしょうか?難しいですね、、、神様は遠くにいると言いましたが、まだこの地にもほんの少し心が残っているのです。遠くて見ている神様が気に入った人にその心の力を貸してあげる。それが加護と言われています。」



「難しくて解らないー」



「ふふふ、そうですね。わかってない事が多いのです。私も実は加護のことはよくわかりませんしね。けれど祈りが強ければ神様に見つけてもらいやすいらしいですよ」



「そっか!ならきちんと祈らないとね!」



「そうですね。ですからきちんと祈りの言葉を覚えましょうね。」



「うげー!!難しいよ!!」



そんなたわいも無い会話が好きで何度も何度も先生の所に通った。その僕の行動かある意味先生の立場を悪くしたのかもしれない。

よそのものが村の子どもをたらし込んで色々吹き込んでいる。そう噂されるのも時間の問題だった。



いくら「僕は自分から"先生"の所に行っている。教えてもらっているのも世界や神様のことで変なことはひとつもない!」と言っても聞いてもらえなかった。責める口実があれば何でも良かったのだろう。



「"先生"ごめんなさい。俺のせいで先生に良くない噂がながれてる、、、。」



「いいのですよアル。噂など長くは続かないでしょう。それにあなたは私の唯一の生徒なのですから、こんな事で居なくなるのは寂しいですよ」



噂はしばらくして消えた。それでも村の皆んなと"先生"の溝は深くなる一方だった。

どうにかしようとしたけれど暖簾に腕押し。

"先生"も気にしない。大丈夫だと言っていたので、次第に僕もそれが普通の状態なのだと思い始めていた。本当に最低だ。



そしてあの日の、地獄の夜がくる。

悪意に心を蝕まれた"先生"の祈りはどんなものだったのだろう。心を獣にする加護。

あれほど恐ろしい姿の獣の心を持っていた"先生"の苦痛はどれほどのものだったのだろう。どれほど耐え抜いていたのだろう。



どれほど強い憎悪で祈ったのだろう。





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