第2話 僕と先生の地獄





収穫を終えた夜にでた晩御飯は父さんの言った通り

ご馳走だった。不作が続いているけれどたまには贅沢をしなければ生活のモチベーションも上がらないし、何より肉をたべれるのはうれしかった。

村全体もどこか賑やかで今日という日を楽しみにしていたようだった。



「肉だー!久々の肉だー!肉だー!」



「もう、マルスったら嬉しいのはわかったから

大人しく席に着きなさい。早く神様方に祈りを捧げて食べましょう」



マルスは育ち盛りだからよほど肉が嬉しかったのだろう。そんなマルスを母さんが嗜めながら晩御飯の用意を終えた。



「さて、神様への祈りはアルにやってもらいましょうかね? アルは村一番の知恵もので朝も寝坊するほど本を読んで勉強してますから」



「うっ、母さん悪かったよ、、、」



「ハッハッハ!!アル明日もまた忙しくなる

今夜は早めに寝ることにするんだな!」



「そうだぞー 兄貴ー」



「もう分かったから、みんなしてやめてよ」



家族にそろってからかわれながら、僕も目の前のご馳走をはやく食べてしまい気持ちに押され神様への祈りの言葉を紡いだ。



「世界を照らす神々よ。世界に満ちる神々よ。

我ら小さきものにその愛を恵んで下さり感謝します。我ら小さきものこれからも偉大な神々の感謝の祈りを捧げます。」




「「「捧げます」」」



祈りの言葉も終わりさぁご馳走を食べよう。

その瞬間にそれは起こった。



!!!!!!



それは地震か?暴風か?音にもならない破壊の音色

地は揺れ家はぐしゃぐしゃに壊れ飛び、心は恐怖に支配された。 



生き物の雄叫びにしては酷く禍々しく恐ろしげで、

人としての思考は黒く塗りつぶされ何も考えれないほどの爆音が身体を縛り付けた。



目が覚めた時はすでに目の前のご馳走は消え去り

家は壊れていた。まだふらつく頭をおさえながら周りを見回した時この世の地獄を僕は見た。










恐ろしくて大きい狼のような生き物に

父さんが、母さんが、マルスが喰われていた。










広がる血溜まりに頭が真っ白になる。

そして気がつけば周りで悲鳴があがる。

見渡せば熊のような生き物に引き裂かれる老人。

鹿のようなツノを持つ生き物に貫かれる女の子。 



地獄だ。ここは地獄だ。

嫌だ死にたくない。死にたくない。死にたくない。



「うっう"あ"あ"あ"あ"あ"」



冷たくなった家族を見捨て死にたくない一心で

恐怖ですくむ足を叫びで誤魔化し走り出す。



「死にだぐな"い 死にだぐな"い」



おぞましい生き物の達のいない広場の方へ走る 

泣き叫びながら走る。おぞましい化け物達は不思議な事に僕を追ってはこなかった。



そうしてたどり着いた広場に1人の男が立っているのを見つけると僕は藁にもすがる思いで救いを求めた。



「せ"ん"せ"い 助けてぐだざい 狼が、熊が、、、

化け物がいるんです!! 地震がおきて、皆んな、み"ん"なが!!"先生"助けて!!」



広場にいた"先生"に懇願した。先生は武術の心得もある。僕もたまに教えてもらっている。先生がいれば大丈夫。まだ生きている人を救える。救ってくれるはず。



「アルそんなに泣いて。怖いものを見てしまったのですね、ごめんなさい。でも大丈夫ですよ。もうおわりますからね」



"先生"はいつも通り優しく安心する声でそういった。僕はその言葉に落ち着きを少し取り戻しながら強烈な違和感を感じた。



      もうおわる?なにが?



「"先生"助けてほしいんです。村の皆んなが化け物に襲われてる!!先生ならきっと勝てる」



何も根拠のない言葉を必死で繰り返えす。

この地獄を終わらせる為に。感じた違和感を

消し去るように忘れるように。



「アル大丈夫ですよ。私が助けてあげているんです。皆さんを救っているんです。なんのしがらみのない世界へ私が案内しているのです」 



"先生"は淡々と語る



「"先生"?どうしたんですか?」



さっき感じた違和感がじわじわと心に迫る。

先生がまるで先生ではないものに僕の目には映った。



「私のことを慕う君を救わない私を許してください。アル、私は君がいたから生きていけたのです。私は自分が思っているほど強くなかった。臆病者だったのです。少し戦えて知識があるだけの人だったのです。弱かった。私の心はひどく弱かった」



僕の言葉がまるで届いてない様に先生は喋り続ける。淡々とただ淡々と。



「そう。認めてもらえない事にうんざりしていたのです。ここまで尽くしても私は余所者なのです。目を逸らしていました。私はそんな些細な事など気にしないと。いつか村の皆も温かく迎え入れてくれると。 現実は酷く残酷でした。3年5年いつまで経っても私は余所者だ。理不尽に限界がきたのです。

心の故郷はここに据えているのに。私はだれの心にもいない。アル、君の心以外に私は居なかった。それが耐えられなかったのです」



「"先生"どうしちゃったんですか!?何言ってるんですか!?訳がわからないですよ!!化け物が化け物が村で皆んなを殺してるんです!」




"先生"がいつもの"先生"ではない事は直感的に感じた。何がおかしい。何がおきてるんだ?!



「化け物とはこの子達のことですね?」



何も無い空間から化け物が突然現れた。

どうなってるんだ?一体何がどうなってるんだ!?



言葉のではない僕をみて"先生"は見つめるその瞳は酷く冷たく見たことのないものだった。



「加護です。神が私に教えてくれました。素直になれと。心を解き放てと。そして解き放った時この子達が現れ村の皆を救ったのです。殺したのです。神の加護で殺したのです。私を神が認めて下さった。これは素晴らしいことだとおもいませんか?

私は間違ってなかった。私の加護が、心が獣となり間違えを正したのです。間違えていたのは村の皆の方なのです。不作をなんの根拠もなく余所者のせいにした村の皆の方。医療を怪しげな魔術と避難した村の皆の方。アル、貴方だけ間違えいなかった。貴方だけは正しかった。この子達は貴方を殺していない。だから私は貴方だけは殺さない。殺せない。私の灯火」



いつも優しい"先生"が話の中でまるで別物の様に変わっていくように感じた。これは誰なんだ?"先生"じゃない。認められない。"先生"はそんな弱い人じゃない!そんな人じゃないはずなんだ!きっと何かに操られてるだ!!そうじゃなきゃ訳がわからない!!



「"先生"なにいってるんですか!なにをっ、、、」



言葉が出ない僕の肩を掴み、いつもの優しい瞳をした先生が語りかけてくる。



「アル、私はもう壊れている。ダメなんです、もう私でいられない。アル最後のお願いです。私を救いに来てください。私は君に救われたい」



そう言い残し先生は村から化け物達を連れて出て行った。最後の言葉は、最後の瞳は"先生"だった。



収穫後の賑やかだった村は静まり返り

泣きじゃくり理不尽に耐えられない僕の

叫び声だけが響くばかりだった。








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