第5話
衰弱魔法を食らったハウンドドッグ四体は完全に息絶えており、DPにすると一体あたり約800――ダンジョン外で吸収したので半分の400ほど加算された。ヘルハウンドの生成コストが2000DPで、野生のやつを吸収すると800DPか。
ゴブリンの生成コストが100DPで、たしか以前吸収した野生のゴブリンが200DPほどだったので、法則性がいまいち分からない。もしかすると、野生のモンスターはダンジョンのモンスターとは完全な別枠になってるってことなのかもしれない。
ハウンドドッグ程度でこんなにDPが入るとなると、探索者の死体を吸収した時に獲得できるDPは凄そうだな。絶対にやる気はないが。
「お、人類の敵になりたくなってきました?」
「んなわけあるか」
「あいたっ」
俺の考えていることを読んだのか、軽口を叩いてくるディアの頭を軽く叩いておいた。
さて、再び出発しようとすると、馬が動揺から覚めておらず……それどころか明らかにディアにビビっていたので、手綱を引いて徒歩で移動した。
「こんなに可愛い猫ちゃんに対して失礼ですね。この馬」
と、ディアはご立腹な様子だったが、あんなもんを見せられたら逃げないだけ偉いだろう。こいつはいい馬だ。
まあ大した距離でもなかったため、一時間もしないうちに王都の正門に着いた。門番にディアのことを訊かれたら、『モンスターテイム』のスキルを覚えてテイマーになったと答えるつもりだ。
というか、そもそもテイムってどんな仕組みなんだという話だが、ディア曰く『ダンジョンマスターがモンスターに対して持つ命令権を委譲するもの』とのことで、スキル持ちがモンスターに対してテイムを使うと、ダンジョンマスターが命令権を委譲するか否か選択できるらしい。
つまり、渡してもいいモンスターだけを引き渡し、渡したくない場合は断固拒否すればいいと。……なんという茶番だ。
というわけで、数人ほどの入門待ちの列に並び、自分の番が来たら門番にF級の探索者タグを見せる。
「よし、通っていいぞ。……お前も通って……待て、なんだそいつは?」
……流石にディアを素通りさせることは出来ずに呼び止められる。
まあ、そりゃそうだよな。
「こいつは旅先で見つけたモンスターで、俺がテイムした従魔だ」
「……テイムスキル持ちなのか?」
「ああ、つい最近目覚めた」
ディアの見た目からそこまで警戒はしていないが、怪訝な顔で見てくる門番。
「……少し待て。上の判断を仰ぐ」
と言われて待たされることになった。上の判断を仰ぐ、といっても難しいだろう。
俺のステータスは『隠蔽』で書き換えたので別に見られてもいいが、そもそも『鑑定』持ちは希少で中々捉まらない。
というかこの『隠蔽』というスキル、メニューで見て存在を知ったんだが、ステータスを見れることが前提になってるから、普通は『鑑定』とセットじゃないと使えない。それが分かっているからダンジョンマスターも報酬に設定していないのだろう。通りで、スキルの名前自体聞いたことがなかったわけだ。
そうして待っていると、ややあって門番と一緒に俺たちの前に現れたのは、見知った二人の人物だった。
一人は探索者ギルド職員のエミリさん。なんかディアを見て固まってるが、こっちは一旦スルーだ。気になるのはもう一人の方で……。
「君は……」
「お前は……グレンか」
それは数日前、俺がレア個体のオークと戦う原因となった探索者――D級探索者のグレンだった。
ギルドは国が支持母体となっているため、職員であるエミリさんが呼ばれるのはまあ分かる。しかし、一介の探索者でしかないグレンが呼ばれる意味が分からない。
と、そこまで考えて、ある可能性が頭を過った。
「まさか……」
「えーと、実は、僕は『鑑定』スキルを持ってるんだ」
そのまさかだった。希少な鑑定スキル持ちが普通に探索者をやっていて、しかも俺にとって数少ない知り合いだったとは。国に召し抱えられたら一生食いっぱぐれないだろうに。
しかし、となると非常にマズい。
鑑定は、生き物に使用すると相手の名前・種族・所持スキルが分かる。以前グレンと会った時はまだ俺の種族は『人間(ダンジョンマスター)』だったはずだ。
「なあ、この前病室で話した時とか、まさか俺に鑑定スキルを使ったり……」
「えっ? ……いやいや、してないしてない! 人に対して、断りなくスキルを使ったりはしないさ」
恐る恐る尋ねると、慌てて首を横に振るグレン。爽やかさの化身みたいなやつだから、嘘は言っていないように思えるが……とにかく、信じるしかないな。あんまりしつこく疑うのも不自然だ。
「……わかった。それで、俺を鑑定するために呼ばれたってことだよな」
探索者はギルドに協力する義務がある。この様子だと、鑑定スキル要員として度々依頼されてるんだろうな。
「そうだね。鑑定させてもらうよ。……もちろん、君の許可がもらえれば、だけど」
ここで拒否したら入国できないし、断る理由はない。
一つ頷くと、グレンは一歩前に出てきた。鑑定は手が届くような距離じゃないと発動できないからだ。
ディアにも鑑定をかけるらしく、「失礼するよ」とディアにも一言告げる。相変わらず律儀なやつだ。
グレンは「鑑定」と呟くと、何もない空間をじっと見つめた。もしかしたら、ダンジョンマスターのメニュー画面に近いものが見えているのかもしれない。
グレンはわずかに目を見開き、静かに息を吐いて、門番とエミリさんに向き直った。
「……たしかに、『モンスターテイム』のスキルを確認しました。こちらのモンスター――ケットシーは従魔で間違いないと思います」
どうやら鑑定は問題なく済んだようだ。よかった。
しかし、グレンは眉を寄せて何か考えている様子で……ああ、そうか。俺のスキルが『モンスターテイム』だとすると、あのオークを退けた説明が難しい。流石に俺が嗾けたとは考えていないと思いたいが……。
何はともあれ、門番は納得したように頷いている。あとはギルドの未届け人のエミリさんが……エミリさん?
「……あの、どうかしましたか?」
さっきからずっと固まっているエミリさんに声をかけると、エミリさんはゆっくりとこっちを向いた。
「の、ノイドさん……」
「はい?」
「そ、その子は……」
その子、というとディアのことだろう。
「ええと……グレンが言った通りですけど、俺の従魔のケットシーですよ」
「さ……」
「さ?」
「触ってもいいですか!?」
うわ、びっくりした。
ディアの方も、突然大声を上げたエミリさんに驚いて俺の背後に隠れてしまった。
「ああああ、そんな逃げないで……。ね? ちょっとだけ、耳と背中とお尻と尻尾をなでなでさせてくれるだけでいいですからぁ~」
だらしなく頬を緩ませるエミリさんに、ディアは「やべーですよこの人……」とでも言いたげな表情でこちらを見ている。
さて、どうしたものか。
困惑する門番とグレン。暴走しているエミリさん。ついでに生まれて初めての恐怖に慄くディアを見ながら、どうやったら事態を収拾できるか考えるのだった。
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