第10話

「え?まだ何も聞いてないんですが、本当にクーリーは大丈夫なんですか?」

 「弟さんは第3鉱区に入っていったんじゃろ?」

 「え、ええ。それで追いかけようとしたら、霧が出て来て・・・」

 「見えなくなって引き返してきたと・・・」

 「はい、それでそのことを中華料理屋の店長に話したら、あの洞窟が危険なものだと知ってそれで・・・」

 「わかっとる、わかっとる。それでわしを頼れと言われたんじゃろ」

 「そのとうりです。ここがどんな場所かもわからない私たちでは力及ばずで、」

 「わかっとる。それ以上奥へ行かなくて本当に正解じゃ」

 「はい、でもあそこに入るとクーリーが、あそこに入ってしまったクーリーが無事となぜわかるんですか?」

 「あそこはそもそも普通の人間が入れる場所ではない、それはお前らフクロウも一緒じゃ。普通なら途中で帰ってくる、もし進もうとすると頭がぼんやりしてきてどっちにしろ前には進めなくなる。心に害をきたすのは理論上の話じゃ。実際はその前に信仰不能になるんじゃ。それでも奥に進んでいったというお前の弟さんは何か特殊な状況にあったということじゃ。そんな特例中の特例の存在が無事じゃないはずがないだろう?」

 「そうですか・・・それで、どうしたらクーリーに会えるんですか?僕たちはあの霧の先には行けませんよ?」

 「まああわてるな、順を追って説明する。そもそもお前たちの目指す第3鉱区はこの洞窟街{もぐら街}にある12の鉱区のうちの一つだ。その中の第2鉱区から第5鉱区までは粘土質が多い鉱区だ。つまり土室が柔らかく比較的崩れやすい。つまり落盤しやすいってことだ。そのおかげであそこの道には抜け穴がいろんな場所にある。もしも落盤で道がふさがれても避難できるようにな。今回わしらが目指すのは第3鉱区のおくじゃ。そのために第5鉱区の抜け穴を使っていく、そこを使えば第3鉱区の奥に霧の場所を通過することなくいけるじゃろう」

 「では急いでその第5鉱区に行きましょう」

 「焦るな焦るな。そこに行くにはこの街の奥から回らなければいくことができん。今から出発すると大体2,3時間はある館といかん。それに、第3鉱区の奥は少し特殊な場所じゃ。時間が止まっとる。準備が必要じゃ」

 「どういうことですか?それに必要な準備って・・・」

 「まあその理由は置いておいて、とにかくあそこに行くのにピッケルと少しの食糧それにこれを・・・」

 「これは?腕輪ですか?なぜこれが」

 「まあとにかくこれが必要なんじゃ。あとのものはわしがすぐに用意できる。おまえらにはそれを運んでほしい、わしはこの老体じゃ。たのんでもいいか」

 「もちろん!クーリーを助けられるなら何でもやります!」

 「よし、ならいくぞ。時間が惜しいだろ」

 「はい、わかりました」

ワーリーたちは治郎吉さんの小屋の裏にある倉庫からピッケルを用意しました。治郎吉さんはその間おにぎりと水筒を用意していました。

 「じゃあ用意はできたか?できたなら出発するぞ?」

 「はいお願いします!」

3人は街の反対側にある第5鉱区の入口へと向かいました。向かう道中ワーリーは心配でした。治郎吉さんの背中が少し震えているように見えたからです。ワーリーたちの話を聞いてくれた時も家に入れたときも治郎吉さんの背中は震えていました。ワーリーはその背中から何か不吉なものを感じ取っていました。

 「部下さん部下さん、治郎吉さん何かあったのかな?」

 「どうしたんですか?何か不審な点でも?」

 「何かよくわからないけどなんか訳ありそうじゃない?」

 「私はそんな気はしませんでしたけど・・・心配ですか?」

 「いや、そんなわけではないけど・・・だって家に入れてくれた時も最初はかたくなに嫌がってたじゃん。でもすぐに入れてくれた・・・普通に考えたらこんなに態度を変えることってある?」

 「確かに違和感は多少ありましたがまあ行ってみたはいいけど気が変わったのかと思ってました」

 「ん~そうなのかな~。そう言われたらそんな気もするけど・・・・」

ワーリーの中には納得いかずに渋滞している疑問が残りましたがそうこう考えているうちに町の中心にやってきました。町の中心を通るたびにこの街の大きさを実感します。

 「そういえばさっき店の人はあの先に人はいないって言ってましたが、僕たちはその第3鉱区からの救助信号らしいものを知ってそこに行ったんです。第3鉱区には本当に誰もいないんですか?」

治郎吉さんの背中がわかりやすくびくっと震えました。

 「救難信号?第3鉱区からか?そんなことがあるはずない、あの鉱区は100年も前に使われなくなったんじゃ。人なんているはずがない。それに抜け道を知ってるのはもうわしだけなんじゃ。誰かいるはなんて、無い」

 「まあそうでしょうけど、救難信号というか助けを求める声がトランシーバーから聞こえたのは事実なんです。何かっころ当たり無いですか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・無いな。この話は終わりじゃ」

治郎吉さんはボソッとそう言って黙り込んでしまいました。

 「何か聞いちゃいけないことでも聞いたかな?やっぱり何かありそうだね」

 「私も今そう思いました。絶対何か知っていますね」

黙っってしまった治郎吉さんは足を速めながら第5鉱区へと続く道へ進んでいきました。街の端から端へ向かっているので治郎吉さんの言う通りかなり時間がかかります。その間何一言話さない治郎吉さん、不審に思いながらも街の景色に圧倒されるワーリーたちという構図が二時間ほど続きました。そして街の家々もまばらになっていき目も前の看板に第5鉱区の文字が見えてきました。

 「ほれ、目的地の第5鉱区じゃ。この奥に分岐道がある。その先に第3鉱区に続く道がある。いったんここで荷解きをするぞ」

 「あ~やっと着いた~。ここで荷ほどきですか?ここからだと少し遠いですけど大丈夫ですか?」

 「大丈夫じゃ。それにここが最後の安全な場所じゃ」

 「この先そんなに危険なんですか?」

 「まあそうじゃな。どちらかというとこの先の道は狭い。この先で荷ほどきしてからじゃ間に合わない」

ワーリーたちはその場に背負っていた荷物をその場に置き、荷解きを始めました。中からピッケルとライト付きヘルメット、食料を詰めたバックを取り出しました。それぞれみんなに渡し、鉱区の入口まで向かいました。第3鉱区とは違い立ち入り禁止の看板もなく整備されていました。人の往来もちょくちょくあり、逆に違和感を感じるような雰囲気でした。


~~第十一話に続く~~

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