第8話
ボクタチヲオイテイクノ
「やっぱりきこえるよ。だれか呼んでる」
「んん。わしにも聞こえてしまったぞ。おいていくなとな」
「ちょっと振り向いてみない?」
「何を馬鹿な。なにもおらんわ、おったらもっとやばいわ」
「大丈夫だよ。僕たちはコリル車に乗ってるんだよ?お化けも直接は手が出せないでしょう」
「そういうもんかの?まあこのまま正体がわからんのも気持ちが悪い。振り向いてみるか・・・」
ウォーリーはコリル車の向きを反転させました。コリル車の反転速度は遅いので少しずつ少しずつ見えてきました。目の前には手をつないだ男の子と女の子がうつむいて立っていました。服はボロボロで体はやせ細っていました。こちらを見るわけでもなくじっとしている二人を見て、ウォーリーと宇宙人さんはこの状況に絶句してしまいました。
「あ・・・あ・・・あ・・・なんだあれ・・・」
「・・・・・・・・わしにも・・・わからん」
「これって・・・・逃げたほうが」
「いいに決まっとるじゃろう!はやく、早く逃げるぞ」
焦った二人は急いでこの場から逃げようと躍起になりました。しかし、このコリル車はバックすることができません。この洞窟を出るためには再びコリル車を反転させる必要があります。
「はやく、早くしろ・・・早く出るんじゃこんな場所から」
「無理だよバックできないんだから。僕も早く出たいよ」
「どうするんじゃ、わしは早くこの場から消えたいんじゃ!はやく」
「そんなせかさないでよ。ほらもうすぐいけるよ」
コリル車が再反転を終えた直後、コリル車の上方から無数の人が降ってきました。顔は黒く曇っていて見えない人々がコリル車の視界を奪い、キャタピラを止め、コリル車は動きを封じられました。
「うわ、なんだなんだ。何なのこの人たちどっからわいてきたの?」
「わらわらわいてくるぞ、いそげ。動けんくなるぞ!蹴散らせ」
「だめだ。もう動かない。キャタピラが止まったみたい」
「わしにかせ。このコリル車はわしがつけた電源につないでおるんじゃ。そいつをオーバークロックさせる」
「ダメだよそんなことしたら!たとえできてもこのコリル車のモーターが持たないよ」
「うるさい。このままではこいつらにつかまっちまうぞ。早くかせ」
ウォーリーから無理やり操縦桿をとった宇宙人さんは出力を300パーセントに設定し前進しようとしました。モーター室からは今まで聞いたことのないようなけたたましい音が鳴りやっとキャタピラが動き出し、しがみついた人々を引きずりながら進み始めました。
「やったぞ。ほれ見い、進んだぞ。わしの言ったとうりじゃ、わしをあがめろ、たたえろ、頭をたれろ」
「でもやばいんじゃない?後ろからヤバイ音してきてるし、なんか熱くなってきてない?」
「大丈夫じゃ、そんなの後の祭りじゃろう。どうにかなるわい」
そう思ったのももつかの間、モーター室からの音は異音から破裂音に代わっていき、オーバークロックした反動で計器類もショートしてしまいました。
「ほら、宇宙人さん止まっちゃったじゃないか、これじゃもう動かせないよ!」
「なんとかなる。まずいかもな・・・いや何とかなる。いやどうにもならんかもな・・・いや大丈夫じゃ」
「どうしようって、ほんとにどうするの!これじゃあもう脱出できないよ!」
「おちつけ、落ち着くんじゃフクロウ!今は冷静になるときじゃ!」
「だれのせいでこうなったと思ってるの?どうにかしてよ。これじゃつかまっちゃうよ。なにされるかわからないよ。食べられるかも・・・地獄へ連れていかれるかも・・・うわーーーーーー」
「おい、おい見ろ。やつらわしらの動きは止めたがガラスは割ってこないぞ。大丈夫だ。安心できるんじゃないか?」
「え、あ、ほんとだ。よかった~。ならしばらくこの中で様子を見ようか・・・」
「そうじゃろそうじゃろ?このままこの中にいてほとぼりが冷めたら逃げればいい。こんな車わしがすぐ治せるわい」
二人はほっと一息をつきましたが現実はそんなにうまくいかないものです。たしかに彼らは車を止めるだけで襲ってはきません。ですが、こちらの車が動けないと分かった彼らは少しずつはけていき、奥からさっきの子供たちが歩いてきます。何かを交互にぶつぶつ言いながら近づいてくる様子はまさに幽霊番組などで出てくくるそれでした。そして子供たちはついに車の真ん前までやってきました。
{おにいさんたちはだれ?}
{おにいさんたちだれ?}
二人はまた絶句してしまいました。これまで起こったありえない状況と合わさって彼らの常識は花火のようにはじけ飛びました。
「ぼ・・・ぼくはウォーリーっていうんだ」
「おい、どうした?急に自己紹介なんかして」
常識が外れに外れたこの状況になってウォーリーはかえって冷静になってしまいました。ウォーリーは彼らから敵意を感じ取ることができなかったので今は彼らを刺激せずに話を合わせようと判断しました。
「ごめんねさっきは。少し驚いちゃったんだ。僕たちは怪しいものなんかじゃないんだよ、ただ少し探している人がいてね」
{そうなの?} {そうなの?}
「うんそうなんだ。君たち、ここにフクロウ二人と小さい宇宙人が来なかったかな?」
{お兄さんたちはあそんでくれる?} {あそんでくれる?}
「え、あ今は忙しいかな~」
{そうなんだ。でもあそぼう} {あそぼう} {あそんでよ} {あそんでよ}
ウォーリーは困ってしまいました。ここで彼らと遊んで時間をつぶすわけにも、そもそも彼らの遊びに乗ることが危険でないとも限らないし、彼らと遊ばず彼らの逆鱗に触れることも避けなくてはいけません。悩んでいるウォーリーの横で宇宙人さんもまた悩んでいました。ウォーリーの恐ろしすぎる冷静さが宇宙人さんからはよけいに不気味に見えたのです。宇宙人さんは、ウォーリーはすでに相手の手に落ちたのではないかとまで考え始めました。軽くウォーリーの事をあきらめ始めた宇宙人さんにウォーリーは小声で
「宇宙人さん、修理ってどれくらいかかりそう?」 と聞きました。
「あ? 修理なら3分あればできる、わしをなめるでない」
「わかった、だったら僕が彼らの気を引いておくから修理をお願い。もし僕がやばい状況に陥ったら・・・僕を置いて兄さんたちを探して・・・兄さんならこの状況をどうにかできるはずだ」
「な!・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」
静かにうなずいた宇宙人さんはその小さな体をフルで生かし修理をするために機械の陰へと消えていきました。ウォーリーはその様子を確認すると
「わかった。遊ぼう、何をして遊ぶ?」 時間稼ぎが始まりました。
モーター室では宇宙人さんが文句を言いながら修理を始めたところでした。
「いったい誰じゃこんなにこのモーターに負荷をかけたのは、ひどい破損じゃ」
「これじゃどこから直していいやら・・・」
ぶつぶつ言いながら宇宙人さんはまず制御基板があるブラックボックスへと向かいました。
「なんじゃこりゃ。ほとんどすべての基盤が焼けてるじゃないか。これは時間がかかるぞ!急がんと・・・」
時間がかかると悟った宇宙人さんは一旦ウォーリーの元に戻ることにしました。
「ウォーリー、ウォーリー。おい、聞いてるか?」
「なに?宇宙人さん。今ちょっとだめだよ。どうしたの?」
「すまんが、破損が酷すぎてこれじゃ3分どころか30分はかかるじゃろう。いけそうか?」
「そんなの無理だよ。向こうと話が噛み合わないし、それに周りに立ってる人たちが今にも襲いかかってきそうなんだよ?どうにかできない?」
「この車を動かすにはモーターと制御基盤、それにオイルダンパーもなおさな行かんだろうな・・・」
「電源は無事なの?」
「電源?ああ、わしが積んだやつじゃぞ。壊れるわけゃない」
「そうか、ならライトってすぐに直せそう?」
「ライト?ああ、フラッシュライトのことか?それならすぐ直せそうだが・・・どうするんじゃ?」
「いいからお願い。この子たちと話を合わせるのもあと2、3分しか持たないよ」
「わ、わかった。やってみる」
宇宙人さんは急いでコリル車の前方に移動しフラッシュライトの蓋を開けました。
「ここか、なんとか故障は避けられたみたいじゃな。これを・・・電源につなげて・・・」
ライトと制御回路の線を切って、電源とライトを直接繋ぎました。ライトは制御基盤を返さず電源に繋いだので、繋いだ瞬間フラッシュライトは眩しく光出しました。
「いいぞ、宇宙人さん!説明しないで僕の意図通りにライトをつけてくれるなんてさすが!さあ、急いで逃げるよ!」
「な、なんだかわからんが当たり前じゃ・・・しかし、この車は置いていくのか?」
「しょうがないよ、とにかくあの霧の中に逃げ込めば逃げ切れるかもしれない」
「そうじゃな、急ぐか」
2人はコリル車を捨て、霧の方向へと一直線で走りました。後ろでは子供たちが眩しがっているのが音でわかりました。もうすぐで霧の洞窟へ着きそうになった時、
「マッテ、ソッチニイッチャダメ」
後ろからさっきの子の声が聞こえました。あまりの必死さからは悪意を一切感じれませんでした。
「宇宙人さん、ちょっと待って、何か言ってるよ?」
「なんや、何をしとるんじゃ、止まるなフクロウ。捕まるぞ」
「でも・・・なにか、何か言ってるよ」
「ソッチニイッタラ、カエッテコレナイヨ・・・」
「何か、何か言いたいみたい」
「そいつらに構ってる暇ないぞ。いいから行くぞ!」
「ちょっと待ってよ。聞いてみようよ」
「はあ?なんじゃどうしたんじゃ。・・・もうええはどうにでもなれ」
何をいっても聞かないウォーリーを見て宇宙人さんは諦めがついたのか、その場に座り込みました。
「なんて言ったの?行っちゃダメってどういうこと?」
「ソッチニイッタラ、『オトナ』ニナッチャウヨ・・・」
「大人?大人になっちゃだめなの?」
「『オトナ』ニナッタラ・・・モウ、個ドモニモドレナイヨ」
彼らの言ってることに一向に要領を得ないウォーリーたちはできるだけわかりやすく質問することにしました。
「あの霧は危ないの?」
「キリ?『オトナ』ダヨ。オトナハアブナイヨ」
オトナが何かわかりませんでしたが、とにかくあの霧が危ないことはわかりました。
「あの霧が危ないのはわかったけど、僕たちはある人を探してるんだ、どうにかして向こうに行きたいんだけど・・・そもそも君たちはなんなの?」
「ボクタチハ『φΠμEμ』ダヨ。ボクタチハアソビタイダケダヨ。クライノモサミシイノモウイヤダ」
「な、なんて?君たちは、お化けか何かなの?」
「オバケ?オバケジャナイヨ。ボクタチ、マイゴナノ。オトウサントオカアサンヲサガシテタノ・・」
「なんだ、迷子なのか、じゃあ一緒にお父さんとお母さんを探そうか・・・」
「イイノ、モウイイノ。モウオトウサンモオカアサンモイイノ」
「いいってどういうこと?君たちはどこからきたの?」
「オボエテナイノ、カエロウトオモッタケドミチガワカラナカッタノ・・・キガツイタラミンナガイタノ・・・」
「みんなって誰、君たちの周りにいる・・・あれ?」
さっきまで子供たちの周りにいた大人たちはいつのまにか全員いなくなっていました。さっきまで子供たちの周りにいた大人たちはいつのまにか全員消えていなくなっていました。
「さっきまでここにいた人たちは?どこにいっちゃったの?」
「カエッタヨ・・・モドッタヨ・・・モドッテイッタ」
「戻った?どういうこと?一体君たちは何者なの?なんでこんな洞窟の中にいるの?」
ウォーリーが立て続けて質問していると、宇宙人さんが怪訝そうな顔をして質問してきました。
「さっきから何を話しておるんじゃ?」
「何って、この子達どこから来たかもなぜこの洞窟にいるかも、両親の場所も知らないんだよ?おかしいとは思はないの?」
「おまえ・・・・・あのワッパ等と何か話しているのか?奴らの言ってることがわかるのか?」
「どういうこと?さっきからずっと話してたじゃん。ていうか宇宙人さんもずっと真剣に聞いてたじゃん」
「ああ・・・・聞いてたぞ・・・だが・・・まったくわからんかった。聞こえとるが頭に入ったらそこで言葉がバラバラになるような感じがして全く理解できん・・・」
「どういうことなのよ本当に。みんな何を言ってるの」
「キミニシカキコエナイヨ。ボクタチノコトバハ」
「なんで?僕だけ君たちの言葉が理解できるの?」
「キミハカゾクヲサガシテイルカラ・・・・ボクタチトチカインダヨ」
「家族を探してる?確かに僕は兄弟たちを探しているけど・・・・それが原因で君たちと話せるの?」
「ソウダヨ。・・・・キミタチニオネガイガアルノ・・・・」
「お願い?なんだい、僕たちでできることなら何でもお手伝いするよ」
「ボクタチヲココカラダシテホシイノ・・・」
~~第九話に続く~~
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