第7話
「じゃあ僕たちは今異次元にいるってこと?」
「そうとは・・・限りませんが・・・あくまで可能性の話です」
「とにかくここの店員さん何か知ってるかもしれない・・・やんわりと聞いてみようよ」
「そうですね。わたしはきくことができないので、お願いしますワーリーさん」
「オッケー任せといて」
そう言うとワーリーは店員さんを呼びました。
「すみません。今って何時ですか?」
「ん?何を言ってるんだいお客さん、ここに時間なんて言葉ふさわしくないよ。好きな時間に来て好きな時間に帰ればいいんだから」
「え?ああ・・・そうですか。あの、その、さっきまでここ廃墟でしたよね?」
「ん?ああそうかい。お客さんはその時代から来たんだね。珍しいもんだ。いったい何年からいらしたのかい?」
「え、ああ。今年の事ですか?2020年です」
「へーわざわざ遠くからいらしたんだね~。道中大変だったでしょう」
「ええ、まあ、はい」
「今外は廃墟かい、へ~」
「あの、すみません。話に一向についていけないんですが・・・」
「おおすまなかったね。ここは初めてだったね。ここはいろんな時代のいろんな人が来る町なのさ。ここに時間なんてない。好きな時代からきて、好きな時代に帰れるのさ。今より過去ならね。ここは歴史の蓄積所っていわれてんだ。時間が積もれば積もるほど帰る場所も人も時代も増える。ここはそんな場所さ」
二人はあっけにとられました。自分たちの住む近くにこんな珍妙な場所があるなんて、しかも、ここに住んでいる人々はそれを当たり前に生きている。そんなことがあり得るのか、いやありえない。彼らは頭ではその答え一択でした。しかし彼らはついさっきから彼ら自身でその体験をしてきたのです。初めての人では理解しがたくてもそれが真実であることは明白でした。納得のいかない二人に店主は質問します。
「そういえばさっき何か質問があるといったね。何の質問かい?見たところまだ疑問が晴れてないような顔をしているけど・・・」
「ええ、ああはい。実は僕の弟たちとはぐれてしまって・・・」
「おお、それは大変だね。つまり元の時代に帰りたいってことかい?」
「家そういうわけではなくて、弟の方は落ちた穴のところに、もう末っ子の方はこの先いった道を右に行った洞窟の先に行ってそれ以上追いかけられなくて・・・」
「おお、その落ちた穴ってのがどこかはわからんが、その末っ子君が行ったのは第3鉱区の方だね。無事に帰ってこれるかどうか・・・」
「第3鉱区って、さっきトランシーバーで聞いた・・・ていうか、無事でってどういうことですか?あそこってそんなに危険な場所なんですか?クーリーは、クーリーは大丈夫なんですか?」
「お客さんお客さん。いったん落ち着いてください」
「これが落ち着いて入れますか!あそこは、あそこは何がそんなに危ないんですか!」
「順を追って話します。まず第3鉱区について、あそこはこの街で唯一時間が固定されている場所なんです」
「え、つまりどういうことなんですか?」
「あの場所はある時間で固定されていてそのほかの時間はあの場所を流れることができないんです。つまり、あの場所だけは、時間は進まず戻ることもなく2つか3つの時間が混ざるのみなのです」
「それは何か原因があるんですか?」
「ま、これはここにある都市伝説なんだけどあそこには恐ろしい座敷童がいてそいつが人を食べやすくするために時間の門を絞ってるって・・・まああくまで噂にすぎないけどね。みんながあそこに行かないのにはほかに理由があるんだ」
「その理由って?」
「私たちはいわば魂なんだ」
「え、ちょちょちょちょっと待ってください。あなたたちがた、た、魂ってどういうことですか?」
「私たちはこの時間や場所に付随する存在でしかない。私たちの存在を定義しているのはここにあるものでありそれらがなくなると私たちは存在しないものと一緒です」
「それでその、魂だったらなぜあの場所に行けないんですか?」
「私たちもあの場所に好き好んでいく人はいないでしょう。しかし、あなたたちのような生きた人たちは本当に行ってはいけません。なぜならあそこは魂の密度が濃いからです」
「密度が濃いと、何かいけないんですか?」
「密度が濃いと魂が混ざってしまうんです。つまり、自分と他人の区別がつかなくなります。奥に行けば奥に行くほどその密度は濃くなっていきます。密度が濃ければ濃いほど魂は混ざりやすくなります。なので私たちは誰もあそこに行かないんです」
「そうなんですか・・・えっとそれで、僕たちはなぜ行ったらいけないんですか?」
「私たちはいわば魂といったでしょ?つまり、私たちは入れ物がない飲み物と一緒です。そこに生きている入れ物が来たらどうなると思いますか?」
「それってつまり・・・」
「そうです。入れ物に向かって魂が入っていってしまう。混ざった魂自身は自分たちの事を一つの魂と認識しています。だから無数の魂は無理やりにでもその一つの体に入ろうとするのです」
「それじゃあ。体が破裂しちゃうんじゃ・・・」
「それはないでしょう。魂は実際の気体や液体とは違います。だが、入られたものは心が維持できずに壊れてしまうんです、そうなってしまったらもうどうしようもありません」
「そ、それならクーリーはもう・・・」
「あなたたちはどこまで入ったんですかその洞窟に」
「自分の足が見えなくなったところで危険を感じて戻りました・・・」
「それで正解です。それ以上進んでいたら少しずつ魂が入ってきてあなたたちの心はまるで深海に投げ込まれた空のペットボトルのようにつぶされてたでしょう・・・」
「でも、でも弟は、クーリーはその先に行ってしまったんです。僕たちには目もくれず、奥へ歩いて行って閉まったんです」
「んんんん・・・・それならもう・・・あきらめるほかないかもしれません。あの霧の近くは虫すら無事では帰ってこれない・・・それもそんなに奥へはいってしまっては・・・」
「何とかする方法はないんですか?何としてもクーリーを…クーリーを助けないと」
「んんん、あの霧さえ抜けてしまえば、第3鉱区自体は無事だと聞いたことがあります。第3鉱区の事なら治郎吉さんに聞いてみるといいでしょう、彼は元第3鉱区区間長だったですから。抜け道くらい知っているだろう」
「え、本当ですか?で、その治郎吉さんというのはどこにいらっしゃるんですか?」
「治郎吉さんなら第3鉱区のすぐ近くにある小屋に住んでるよ。だけど、気難しい人だからね、そう簡単に会えるかどうか・・・」
「そのへんは私たちで何とかします。ありがとうございました」
目的ができたワーリーはすぐに立ち上がり急いで店を出ようとしましたが
「少し待ってください。あなたたちは生きている存在だ。今出たらまた現代に戻ってしまうかもしれないですよ。このお守りを持っておいてください」
そういって店長さんは小さい瓶のようなものがぶら下がったお守りをくれました。
「これは?」
「そのお守りに私の魂の印をつけておきました。それを身に着けている限りはあなた達がこの今の街から出ることはないでしょう」
「ありがとうございます」
お守りをもらったワーリーは早速第3鉱区へと続く分かれ道の前まで戻ってきました。周りは初めてここに来た時とは違い団地のような景色が広がっていました。その中に一軒だけ古風なよく言ってボロボロな小屋が一軒だけありました。
「ここ、だろうね」
「でしょうね。周りを見てもこの小屋以外はまるで新品かのような建物ばかりですし・・・」
二人は家の前へ行き玄関に横についていたひもを引っ張りました。すると カーンカーン という音がしてしばらくするとドアが開きそこからは傘寿は超えているであろう貴腐老人がでてきました。
「だれだ・・・」
「すみません治郎吉さんですか?」
「いかにもわしは治郎吉じゃが、貴様ら何の用じゃ」
「いきなりお尋ねしてしまってすみません・・・でも、実は今僕の弟が第3鉱区に入ってしまって・・・」
「第3鉱区・・・・帰ってくれ。わしじゃ何もできん。・・・・かえってくれ!」
震えるような声で老人はそういい放ちドアを バシン と閉めてしまった。
「そんな・・・そんなこと言わずにお願いします。今はあなたしか頼れないんです。弟が、弟があの中に入って帰ってこないんです。どうか力を貸してください!」
家の奥からかすかに(わしでは力になれないんじゃ・・・わしでは・・・)という声が聞こえ何か事情があるとワーリーたちは悟りました。
「あのおじさん、ただ頑固なわけではなさそうだね」
「はい、私もそう思いました。怒っているという感じは全く感じませんでしたし・・・」
「でもどうしよう。今はあの治郎吉さんだけが頼りなのに・・・」
「そうですね、困りましたね。唯一の当てがあんな感じじゃ・・・」
家の前でぼそぼそとそんな会話をしていると、中から聞こえたのかまたドアが バシン と開き、
「わしは・・・わしはもう・・・頼りにならない男なんかではない!」
とまるで自分に言い聞かせるように怒鳴りました。
「さあ早く上がれ、話を聞こう」
「え?ほんとですか?ありがとうございます」
(どうしたんだろう急に) (わかりませんよ。老人の気まぐれってやつじゃないですか?)
二人は老人に案内されるがままに座敷の部屋へと案内されました。部屋は広くもなく狭くもなく老人一人住むには十分すぎる大きさでした。老人は奥から机を取り出し、壁にかかっている何十年も前の習字の掛け軸しかない部屋の真ん中に置いきました。机を置いたと同時におじいさんもどしんと座り数秒考えた後、口を開いた。
「お前さんの弟は・・・・生きておる」
~~第8話に続く~~
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