第21話

 話はアディエル達がロゼッタの元に訪れた日に戻るーー。


「…それで、失礼ですが、『断罪令嬢』と呼ばれるノクタール家のアディエル様が、何故当家にお越しなのでしょうか?」


 ピンと背筋を伸ばして問いかけるロゼッタに、アディエルは満足気に微笑むと、背後に控えていた侍女から受け取った数枚の手紙をテーブルの上に並べた。


「……こちらは?」


 不思議そうな顔のロゼッタに、シルフィアが彼女を見つめて口を開いた。


だとアタクシに送られた手紙なのだけど、本当に貴女が書いたものか尋ねたいの…」


「わたくしから…ですか?」


 首を傾げながらも一通を手にし、ロゼッタは眉を顰めると、残りの手紙も確認していた。


「……これはわたくしの書いたモノでもなければ、代理に書かせたモノでもございません……」


 指先を震わせながら、手紙をテーブルへと戻すロゼッタ。


を確認したかったのですわ」


 にっこり微笑んだアディエルは、ロゼッタに人払いを求めた。


「…使用人は全て下がらせましたが、いったい…?」


 不安気なロゼッタの隣へとシルフィアが移動し、そっとロゼッタの両手を握りしめた。


「…シルフィア様?」


「こんな事、聞かれたくないって分かっているの。でも、知らなければ正しく動けないから…。だから、教えてロゼッタ!貴女、グリオール伯爵以外に想う方がいるの?」


「………は?」


 真剣な顔のシルフィアに、ロゼッタは質問の意味が分からずに固まってしまった。


「…貴女が社交に出られていない間に、世間では貴女に想う人がいて、望まぬ婚姻に寝込んでいる…という噂が流れているのですわ」


 取り出した扇を口元に寄せ、にっこりと笑ったアディエルに、ロゼッタはギョッとした。


「なぜ、そんな噂が…?わたくしは初めてお会いした時から、ランディ様しか想っておりません!想う人がいらっしゃるのはランディ様の方です…」


 話し出した途端、我慢の限界がきたのか、ロゼッタは涙を流し始めた。


「なあんですってえぇぇっ!!」


 この発言にシルフィアが怒髪天を衝いた。


「…シルフィア様。落ち着いてお話が出来ませんのなら、退出を…」


 にっこり微笑むアディエルの瞳は笑ってはいない。


「……ごめんなさい……」


 勢いよく立ち上がっていたシルフィアは、大人しく腰を下ろした。


「ロゼッタ様。なぜ、伯爵に想い人がいると想われたのですか?」


 シルフィアに涙を拭われながら、ロゼッタはアディエルに顔を向けた。


「…使用人から聞いたのです…。ランディ様には想う方がいて、その方と沿うためには、わたくしとの間に子を作らねばならないのだと……」


「~~~っ!!」


 ロゼッタは、叫びそうになるのを、ドレスを握りしめて耐えた。


「……使用人から…ですか…。その使用人は、古参の方ですか?」


「…いいえ?わたくしが嫁ぐために増やした使用人だと聞いております…」


「…なるほど。そうですか…」


 扇を開き、にっこりと微笑んだアディエルに、ロゼッタは不思議な安心感を感じたのだったーーーー。

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