第20話

「………ラ、ランディ……」


 現れたランディは、何の感情も映さない瞳でマキシオを見下ろした。


「…噂に対処出来なかったのは我が不得。貴様の謝罪も不要だ……。そもそも貴族とはそう言ったやり取りもしてこそ、だ……。貴様の所業に気づけなかったのは、わたしがまだまだ当主として未熟であったということだ……」


 そう言い捨てて、ランディはカイエンに頭を下げて、背後に控えた。


「???」


 マキシオは混乱した。では自分の何が問題であったのだろうか?


「…分からないかい?君はいったい、協力していた?」


 淡々としたカイエンの声が、体中に染み込んでいくような気がした。


「り、隣国ターラッセンのファム侯爵令嬢に……、その……」


 隣国の高位貴族に手を貸したことが問題だったのだ…。マキシオはそう思った。


「そう。侯爵令嬢がお前に協力していた。の人間を雇って、だ…」


「……は?闇ギルド?」


 自分の手の者だと紹介されていたのが、闇ギルドの者だったと知り、マキシオは段々と血の気が引いていく。


 噂を広めるために雇った男達や使用人の女を紹介したのは、侯爵令嬢の手の者だと、侯爵家の封蝋付きの手紙を持ってきた男だった。

 彼らは自分と情報の擦り合わせをするため、時折、城内の詰所にも顔を出していたはずだ。


 彼等が闇ギルドの者達だと言うのならば、騎士団の情報が盗まれているかもしれないし、最悪、警備体制まで調べられているかもしれない。


 それが原因で王族に何かあった場合、責任は誰が負うのか…。


 ………自分マキシオだ。


 彼等の身元を確認もせず、ただ自分の欲望を叶えるためだけに招き入れてしまった自分ではないかっ!!


「あ……、わた、私は……」


 あまりの恐怖に呼吸もまともに出来なくなってきた。


「幸いなことに我が婚約者の、優秀な影達が早々に気づいたおかげで、事なきを得たが…。公に出来ずとも、無罪放免とはいかぬ……」


 カタンと音を立て、カイエンは立ち上がって、マキシオを見下ろした。


「マキシオ・マイデール。本日中この時を持って近衛騎士の資格を剥奪。今後はトワイデン侯爵家にて、騎士見習いとして、その性根を叩き直してもらうといいっ!!」


 カイエンの言葉に、を着た騎士達が、と共に現れた。


「……『断罪令嬢』…」


「ご機嫌よう、マイデール卿。貴方の根性をしっかり改善すべく、特別メニューを用意してくださった皆様ですわ♪どうぞ、頑張ってくださいまし」


 扇で口元を隠し、コロコロと笑うアディエルに、マキシオはガクリと項垂れた。

 そんなマキシオは、トワイデンの騎士達に両脇から腕を取られて、引き上げられた。


「それでは、王太子殿下!アディエル嬢!確かに我等トワイデン家騎馬隊が、マイデール卿をお預かり致す!!」


 ビシッと敬礼をして、マキシオは連れ去られていった。


「……あのぅ、殿下?騎馬隊とは?」


 一人の騎士が、恐る恐る口を開いた。


「ん?ああ、迅速に逃亡出来ないように運んでもらおうと思ってね」


「我が国が誇るの騎馬での移動ですわ。………着くまでに振り落とされなければよいですけど…」


 にこやかに答えた二人に、近衛騎士達は次代に自分達の出番はないのでは?と、心の中で呟くのだったーーーー。


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