SS ちょっと怖い話

大文字多軌

 これはまだ、筆者(私)が小学生の頃。

 幼少期から長年過ごしてきた市営住宅から一軒家に引っ越した。

 自宅には8畳程度の和室があり、よく友達と遊んで過ごしていた。部屋にはテレビとこたつ、座布団がデフォルトで置いてある。

 

 家にはテレビゲームがあったが、階段のある通路を挟んで向こう側のリビングでは、遊ぶことが出来なかった。そこで和室を利用したわけだが、おかしな事に誰もいない和室で必ず視線を感じる。


 部屋の出入り口にあたる襖はいつも閉めていた。音が漏れないようにだ。しかしなぜか、いつも決まって出入り口から視線を感じる。それは、昼夜を問わなかった。


 私はいつからそんなことを感じるようになったのか覚えていない。子供の時分、気になったことは何でも両親に聞いていた。


 両親に話すも「何も感じん……」「気のせいやろ」「漫画の見過ぎや」なんて言われる。だが確かに感じるのだ。それは数日、数ヶ月、1年と続いた。


 出入口から気配を感じる度に怖くて振り向けない。

 意を決し、振り返ってもそこには何もない。あるのはただ、閉め切った襖だけだった。


 私はよくゲームをする子供だった。親の目を盗んで夜な夜なテレビをつけることもあった。

 そんなテレビの後ろにも気配を感じる事がある。


 それはいつか?

 和室へと足を踏み入れた時だ。

 テレビは部屋の角に斜めに配置してある。必然的に角とテレビには隙間ができる。そこにいない何かを感じるのだ。


 家では犬を飼っていた。白いトイプードルだ。基本的にリビングから出すことはなかった。今でこそ吠えることもなくなったが、小さい頃はよく誰もいないところに向かって吠えていた。


 躾けが完全ではない時期、吠えることもあるだろう。だが、本当にそんな理由だろうか?

 いつも吠える方向は決まっていた。リビングの出入口、ドアに向かってだ。


 ドアに向かって。ドアの向こう。和室。


 きっと、もしかするとこの子には視えているのかもしれないと思った。家族ではない何かが。

 だから吠えた。私はそう思った。


 両親はよく、吠える犬に「ほら、誰もおらんよ」とドアを開けてみせた。部屋を出ないことの方が多いが、出て吠えるときは大概和室に向かう。


 私はそれでもゲームがしたくて和室を使っていた。

 

 時が経ち、高校を卒業する頃には余り感じないようになっていた。

 

 母とお隣のおばさんは仲が良く、私にもよく挨拶をしてくれていた。そんなおばさんと長話をする機会があり、私が和室で感じた事を話の種にした。


 すると、おばさんからこんなことを言われたのだ。


『前の家の人が居たときは、和室に仏壇があったよ。障子が開いてて内が見えることもあったからねぇ。』


 私は、え? 本当ですか?と何度も問返した。

 おばさんは続ける。


『テレビの置き方も部屋の角に三角ゾーンは作ったら駄目よぉ。そういうところには良くないものが溜まるらしいわよ』


『それと、気配? 視線を感じたときに出入口の方を見たんでしょ? 良かったねぇ、上を向かなくて……』


 私は、おばさんの言っている意味が分からなかった。

 何故? 上を見てはいけないのだ?……と。


『見てるものは上にいるのよ……。視線を感じて上を見ようものなら、視えたかも知れないわねぇ』


 私は、この会話をおばさんが亡くなった今でも、鮮明に覚えている。あの時、上を見ていたらどうなっていたのだろう? 見てはいけないものを目の当たりにしたのだろうか?


 だから私は、今でもあの和室が少し怖い。



子供の頃から今に至るまで、筆者の左肩は人と比べ下がっている。

……単純に筋力がないらしい(医者談)

だが、あるいは……

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