第五章 ヘタレな僕
11(※1)月13日(木)
今日は森川(※2)が8時半ごろ来て10時まで勉強した。
ぼくは生徒会の議長をしている。今日も生徒会があって義会(※3)に出席した。
今日は本山さんといっしょに帰ろうと思ったのに。明日こそは帰るつもりだが、不安だ。何か帰れないようでさ。アチコン前だし、冬休みの前にたしかに僕(ら)はずっと・・・・と言ったし、これからもいっしょにかえろうと言ったんだけど、何か不安だ。(※4)それはふだん僕らは何も話さない。これはいろいろな人がいたり、僕は少しはずかしがりやだ。何というかそういう面に対して極度に意識してしまい、どうしてもぎこちなくなってしまう。だから話したいんだけど話さない。他のできてる(へんな表現だが)やつらは人なんか気にせずべたべたと話しているのにどうも無理だ。今度だってこんなふうにあらかじめ計画すると言いだしにくなる。あと三日。昨日は勉強しなかったからがんばらねばだめだ。 では、さようなら。
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※1: 同じく修正。
※2: 森川は近所に住んでいる。
※3: 珍しく誤字。
※4: やっと、核心の話になってきました。
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幸せの時間はもの凄く、短かったです。
数回、一緒に帰り、今度は映画にさそおうと僕は思っていました。
「ラストコンサート」という映画です。
挫折した有名作曲家が旅の途中で出会った少女と恋に落ち、結婚します。
陽気な妻のおかげで復活した彼は「ステラ」という彼女の名前で新曲を作り、オーケストラで演奏できるようになりました。
だけど、彼女は不治の病にかかってしまい、発表するオーケストラを舞台脇のベッドの上でウエディングドレス姿で見つめながら彼女は旅立って行きます。
ロマンチックなエンディングを僕は男の友達と観ました。
そうです、彼女に振られたからです。
正確に言うと、日記にもあるように「気まずく」なったからです。
彼女から「親から会うなと言われた」と聞かされ、僕は愕然となりました。
心当たりはありました。
多分、そうだと思います。
彼女と付き合う様になって有頂天になった僕は。
一緒に帰るだけではなく、夜も電話したのです。
スマホでラインを送る若い方々には想像もできないでしょうけど。
あの頃は「黒電話」で。
どの家庭も玄関先に置いてあるのです。
二人は電話をかける時間を決めておいて、何とか親が出る前に受話器をとるようにしてました。
一度だけ。
彼女の方からかける番で。
僕は約束の夜8時を前に電話機(お店にあったので、誰も出ません)の前に、一時間前から待ちました。
ベルが鳴った途端、僕の第一声。
「はい、1係(いちがかり)」
当時の人気番組。
「太陽にほえろ」でのお馴染みの場面。
ボスの石原裕次郎が電話をとる時のセリフです。
彼女、本山さんはクスっと笑ってくれました。
それだけで、もう。
進少年の胸はズキュンの風穴が開いていたのでした。
何回か天国のような会話ができたのですが。
ある時、彼女のお父さんが先に受話器をとりました。
どんな声だったのかは覚えていません。
きっと、不機嫌だったのだと思います。
夢中になって長電話になったこともあったかもしれません。
兎に角、それ以来、彼女は僕と一緒に帰ってはくれませんでした。
教室でも会話できず、近寄りがたいオーラにヘタレな僕は毎日、ウジウジと過ごしました。
そんな日がお正月がすぎても続いたのです。
日記にも書いてある「僕らはずっと・・・」は最初の告白のことだと思います。
そうです。
僕は二回目の告白をすることになるのです。
今日はここまで・・・。
続きは次回で。
ではでは。
お休みなさい。
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