異世界頂上決戦〜生意気メスガキ VS わからせオークさん〜

ぴとん

第1話 生意気メスガキ VS わからせオーク

 朝日マナ。


 見晴小学校5年生。


 彼女はある朝目を覚ますと、広大な野原のど真ん中にいた。


「ふーん♡異世界てんせーってやつじゃん♡ウケる♡」


 マナは、足元に置かれた赤いランドセルを漁る。この世界に持ってこれた荷物はそれだけだった。


「リコーダーと教科書、防犯ブザー、あとは体操着……。ちょっとー神様〜こんな装備でJS5を異世界に放り出すとかどういうわけー♡」


 マナは空に向かって語りかけた。


「あ、もしかして神さまなのに女子小学生に異世界無双されるのが怖いの?だっさー♡」


 マナは挑発的な笑みを浮かべる。


 すると、突然空が曇り始めた。


『このメスガキが……!神を挑発するなどいい度胸だ!ならば貴様にチート並みのステータスを授けよう!これでその過酷な世界を生き残ってみせよ!』


 空から降ってくる憤怒の声。マナはにやりと笑った。


「JS5に詰められてチート能力渡してくるなんて神様ちょっろ♡!でーも、」


 マナは小声で天に囁いた。


「あ・り・が・と♡」


 曇天がブワァァ!と晴れて一瞬で快晴になる。


『この!メスガキがぁぁぁぁ!せいぜい異世界でわからせられるがいい!』


 エコーのやつにこだまする天の声。


「ふふふ、異世界ちょろーい♡」


 マナはランドセルを背負うと、街を目指して歩き出した。



 街へたどり着くと冒険者ギルドがあったので、マナはそこへ登録して冒険者として生活資金を稼ぐことに決めた。


 ギルドの中へ入ると、モヒカンの中堅冒険者に絡まれてしまった。


「おい!お嬢ちゃん!ここはおめーみてーなションベンくさいメスガキがくるところじゃねーんだ!帰ってミルクでも飲んでな!」


「…………くすっ♡」


 マナはモヒカンを嘲笑う。


「もしかしておじさんわたしに冒険者として負けるのがこわいから出てけっていってるの〜♡」


「な、なんだと!ふざけるな!そんなわけあるか!」


「え〜ほんとかなぁ〜♡。ていうかこんなちっさい女の子に負けちゃったらおじさん情けなくておねしょしちゃうかもね♡」


「なっ!このメスガキが大人をからかうんじゃねえ!」


「なんか言いたいことあるならさぁ〜♡」


 マナがランドセルからリコーダーを抜いて、その先をモヒカンに向ける。


「ここで私と戦ってもしおじさんが負けたら雑魚ってことだよね♡」


 モヒカンに向けられた、リコーダーの口をつける部分は唾液で濡れていて、そこに光が反射して妖しくきらりと光る。


 モヒカンは興奮して声を荒げた。


「こ、このメスガキがぁー!わからせてやるッ!」


 モヒカンは背中から剣を抜く。


 しかしその瞬間、耳元からマナの囁きが聞こえた。


「おじさんおっそーい♡ざーこ♡」


 後ろに回り込まれたと気づいたのも束の間、モヒカンは、コツンと軽く頭をリコーダーで殴られる。


「あ、あああまさかこの俺が……」


「ざーこ♡小学生に負けてくやしくないのぉー♡」


 モヒカンは膝から崩れ落ちた。もはや立ち上がることすらできない。


「もし背後から襲ってくるようなら防犯ブザー鳴らしちゃうから♡。じゃあね、雑魚のおじさん♡」


 この騒動のおかげで、マナはギルドから認められ、最初からAランク冒険者に認定された。


「さーてどのクエストやろうかなぁ♡」


 マナは掲示板に貼られていたクエスト一覧を眺める。


 そのなかにひとつ気になったものがあった。


「わからせオーク討伐依頼……?」


 ギルドの受付に尋ねると、近くの村に、女子供ばかりを狙うオークが出現しているのだと言う。


 オークは攫った女の子にかわいい服を着せて家へ帰すので、気味がわるいと村人たちはギルドに討伐を依頼したのだった。


 これまで女騎士などがクエストに挑戦したが、オークたちに片手で洞窟の外に放り出され、相手にもされなかったという。


「ふーんオークってただの豚じゃーん♡よわそー♡」


 マナはこのクエストを引き受けることにした。


 村人に連れられて、マナはオークが巣食う洞窟の前に案内される。


「ふーんここにオークがいるんだぁ♡」


「ええ、すみませんが私はここで……恐ろしくて洞窟の前にいるだけで足がすくんでしまいます」


 村人はオークを怖がっているようだった。


「ちょっとお兄さん♡。こんな小学生に村を託して情けなーい♡。でも安心して♡。必ず解決するから♡」


「よ、よろしくお願いします!」


 マナは何度も頭を下げる村人を背に、洞窟の中へどんどん進んでいった。



 しばらく進むと、闇の中に複数の巨体が見えた。


「もしかしてあなたたちが豚さんですかー♡群れてないと生活できないなんてださーい♡女の子だけを誘拐するなんて、もしかしてオークさんたちってロリコンなのぉ???♡」


 出会い頭に挑発するマナ。


 すると、オークたちはゆっくりと振り返り、豚鼻をフヒフヒと動かしながら片言で喋りだした。


「メス……ガキ!オデ……メスガキ、ワカラセルッッッ!」


「オトナヲ…ナメルナヨッッッ!」


「ゼッタイニ……メスガキナンカニハ……マケナイッッッ!」

 

 通称わからせオークと呼ばれるこの種のオークたちは、小さな女の子を目の前にすると闘争心をあらわにする。


 しかし、この瞬間オークたちのステータスは女子小学生以下に下がるという特性を持つ。


 マナは余裕そうな表情で、ランドセルを下ろして、リコーダーを抜き、構える。


「ブタさんたちよわそーだからぁ……みんなまとめて相手してあげる♡」


 マナの挑発に、オークたちは興奮して我よ我よと一斉に突進してくる。


「フオオオオ!ムッグッ!?」


 狭い洞窟でそんなことをすれば、つっかえるのは当然なことだった。


 オークたちは、マナに触れるか触れないかのところで、互いのからだと洞窟の壁に阻まれて、身動きが取れなくなってしまった。


「えぇ〜♡。豚さんたちすっごいおバカなんだね♡ざーこ♡ざーこ♡ざーこ♡」


 動けないオークたちの頭を、マナはリコーダーでペシペシとたたいていく。


「コノメスガキガァァァ!」

「ワカラセックッワカラセラレルッッッ!」「モウユルシテクダサイッッッ!」


 オークたちは悔しさとも歓喜ともとれる叫び声をあげた。


 マナはクスクスと笑った。


「こんな大人数で女子小学生に勝てないなんて情けな〜い♡私のことわからせるんじゃなかったのぉ〜♡」


 オークたちは頭を地面について倒れた。


 オークたちのその視線はマナのスカートに向いているが、ぎりぎりのところで中は見えない。


「ふふっ♡私に勝ったら見せてあげたのになぁ♡」


 少しだけスカートの裾を持ち上げるマナ。


 その瞬間オークたちは憤死した。


「ホゥ……ソヤツラヲ倒ストハナカナカヤルメスガキデハナイカ……」


 洞窟の奥からそんな言葉と共に現れたのは、わからせオークたちの長であった。


「みんな雑魚すぎて死んじゃったよ♡おじさんも相手してあげよっか♡」


 調子に乗ったマナは、リコーダーを手の中でくるくる回し始めた。


 しかし、わからせオークの長は、臨戦態勢のマナに目をくれず、そのかたわらに置いてあったランドセルを持ち上げた。


「フム……」


 長はランドセルのなかを探り、一枚のプリントを出す。


「40点カ……」


「!!!」


 マナは青ざめる。それはマナが苦手な算数の小テストだった。


「コレデハ、ママニ怒ラレテシマウナ……オヤツヤ抜キカ……オ小遣イゲンガクカ……」


「ちょ、ちょっと!返して!」


 マナはこれまでになく焦りはじめた。ピョンピョンと跳ねて、長からプリントを取り返そうとする。


 長は、プリントを掲げて、にんまりと笑った。


「コレヲ、ママニ、ミセラレタク、ナカッタラ……」


「見せられたくなかったら……!?」


 マナはごくんと唾を飲み込む。脇は汗でびっしょりだった。


「ココデ、オ勉強シテイキナサイ!」


「!!!」


 マナは、目に涙を浮かべて泣き叫んだ。絶望の表情である。


「いやぁっ!いやだっ!やめて!そんなお勉強押し付けないで!」


 オークの長は、泣くマナにお構いなしに、教科書を開いて、できない子にもわかりやすく、丁寧な授業を始めた。


「コノメスガキッ!理解(ワカラ)セテヤルッッッ!」


「いやああああ!わからせられるぅぅぅ!」


 洞窟に小学5年生朝日マナちゃんの悲痛な叫びが響いた。





 マナは暗くなる前に、洞窟から帰された。


 しかし、オークの丁寧な教え方の虜になった彼女は、翌朝もその次の日も、ずっと洞窟に通うようになったのだった。



「もう♡私をこんなにした責任♡とってよね♡」


 生意気なメスガキは、すっかり従順な生徒になったのでした、



 とさ。




 完。

 

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