第5話 勧誘

「よう、アレク」


 冒険者ギルドの一階にある広い食堂。ようやく飯を食い終わったオレの元にやって来たのは、細い小柄な男だった。弱そうな見た目だが、侮るわけにはいかない。相手は第一級冒険者<閃光>ライル・クレバンス、格上だ。まぁ相手は盗賊だから、直接戦えばオレが勝つだろうがな。


 その一見貧相に見える程細い体は、無駄な肉を絞り落とし研ぎ澄ませた結果だ。ライル・クレバンスという男は、パワーを犠牲に圧倒的なスピードを手に入れた。そのスピードは、瞬き一つしたら目の前から消えるほどだと言う。故に付いた二つ名は<閃光>。閃光の様にパッと現れ、パッと消える。そして、消えた時にはもう勝負はついている。<閃光>に勝ちたかったら瞬きはするなっていうのは有名な話だ。


 噂では、<閃光>の二つ名は、閃光玉を多用するから付いたという説もある。閃光玉は一瞬だけ強い光を放ち、相手の目をくらませる道具だ。これほど<閃光>にお似合いの道具も無いだろう。


 <閃光>は、一瞬でも目を離せば消える。ずっと<閃光>を見続ければ閃光玉の光りに目を潰す事になるし、閃光玉の光から目を庇えば、その隙に<閃光>は姿を消す。正にどうしようもない。一応手があるにはあるが……。


「聞いたぜ、いろいろとよ」


 そう言ってライルはオレの向かいの席に腰を下ろした。いろいろ……ね。ライルは情報通だから本当にいろいろと聞いてそうだ。どんな噂話が飛び交っているのか……聞くのが怖いな。


 今のところ一番驚いたのは、痴情のもつれが原因でパーティを解散したという理由だ。それ自体はよくある話だが、男4人のパーティで痴情のもつれ?

 妙だなと思って問い質したら、オレ達4人がおホモだちになっていた。ゲオルギアとヘンリーがホモカップルで、オレがヘンリーを寝取った事が今回の騒動の原因という噂が流れていたのだ。原因と言うより、ゲイ因だな。誰だよこんな根の葉も無い噂流したの?


「笑える噂話でもあったかよ?<閃光>のおっさん」


「まぁな。今回は災難だったな」


 ライルが半笑いで言う。きっと聞けば笑えるような噂話がたくさん流れているのだろう。噂話ってのは誰かが面白がって話を盛るからな。


「折角50階層突破したってのに、これじゃあな」


 そう言ってライルが首を振る。確かにそうだ。本来なら、オレ達はその成し遂げた偉業を皆に祝福してもらえる立場なのだ。それがなんでこんな事になってしまったのか。ったく、ゲオルギアの野郎め。オレをクビにするにしてもタイミングぐらい考えろよ。


「これで漸くボウズも二つ名貰って一人前だってのにな。晴れの日にケチが付いちまった」


 二つ名は、ダンジョンの50階層を突破した冒険者に、冒険者ギルドが与える称号だ。称号の他にも様々な特典がある。例えば、冒険者ギルドから特別待遇が得られるし、その他にも、望めば国の騎士爵に叙爵されるなんてのもあった気がする。単なる平民が、望めば貴族の仲間入りが叶うのだ。まぁ貴族と言っても一番下っ端だけどな。


 それにしても、二つ名貰って一人前って……相変わらずライルは辛口だな。冒険者の大半は、二つ名を貰う前に辞めていくってのに。それだけダンジョンの50階層突破は偉業なのだ。


「だが、そんなボウズに良い話を持って来てやったぜ」


 オレは話しを聞く前から話の内容が分かった気がした。なんせ、冒険者ギルドに来てから、この手の話は聞き飽きたぐらい聞いたのだ。飯を待ってる間も、飯を食ってる最中も、飯を食い終わった後も。嫌でも察しは付く。けど、まさかな……。


「それで、話ってのは?」


 話は聞いてみるまで分からないか。オレはライルに訊ねる。


「オレ達のパーティ『月影』に入らねぇか?」

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