名前

YouGo!

ゆうご

 名前を間違われたことはあるだろうか。

 本当は「ゆうじ」なのに、「りゅうじ」と呼ばれたり。本当は「まこと」なのに「まこと」と書かれたり。そういった、些細なことで構わない。

 名前を間違われたことはあるだろうか。


 私はある。

 私の名前は悠悟ゆうご。「ゆう」と読む漢字も、「ご」と読む漢字も多く、間違って名前を書かれることがとても多い。そして今日も、手紙の宛名あてなを間違われた。

「誰だよ、優吾ゆうごって」

そうぼやきながら、私は手紙の封を切る。


『優吾さま、当選おめでとうございます。あなたは選ばれました』


「何だ、これ」

書かれた住所は間違いなく私の住所だ。しかし、手紙の内容に全く覚えがない。

「イタズラ、だな」

私はそう思い、手紙を捨てた。



 次の日、また手紙が届いた。

 今回は「祐悟ゆうご」宛てだった。昨日と同じ封筒、同じ切手、同じ筆跡で書かれた手紙だった。

 私は中身を読んだ。


『祐悟さま、当選おめでとうございます。あなたは選ばれました。たくさんの友達に出会えるといいですね』


「何なんだよこれ……」

 私は怖くなって、手紙をぐしゃぐしゃに丸めて捨てた。

 私は悠悟ゆうご優吾ゆうごでも、祐悟ゆうごでもないんだ。


 その次の日

 ピーンポーン

 インターフォンのベルが鳴る。出ると、知らない男が立っていた。

「よぉ雄吾ゆうご。久しぶり。元気だったか」

「どちら様ですか? 私はあなたなんか知りません」

「何言ってんだ雄吾? 友達の顔も忘れたのか?」

「私に友達なんていません」

「さては本気で忘れてるな? ほら、高校で同じ部活だった、安田やすだだよ」

そう言われて、私は安田と名乗る男の顔をよく見た。確かに、高校でこんな顔の友人がいた気がする。

「安田……吉貴よしきか?」

「そうそう、吉樹よしきだ。やっと思い出したか」

「何年振りだと思ってるんだ。それも急に来て。詐欺だと疑われても知らないぞ」


 吉貴はそのまま私と話をして、しばらくしてから帰って行った。

 その後、ふと思った。


 本当に、私にあんな友達はいただろうか、と。


 私は急いで自室に戻り、高校時代の卒業アルバムを引っ張り出す。

「どこだ……安田、安田吉貴……あった」

 三年三組に、彼の名前を見つけた。

 よかった、吉貴は実在する。正直安心した。私の名前を呼ぶ彼の声に違和感を覚えたからだ。最近よく名前を間違われ、疑心暗鬼になっていた。

 ホッとした私は、そのままアルバムを読み返す。


 しかし、どのクラスの写真を見ても、自分がいない。

「おかしい、おかしい」

クラスの集合写真にも、部活の集合写真にも、どこにも自分がいない。

「いない……いない……ここにもいない」

最初から最後までくまなく見て、それでも自分の姿を見つけられなかった私は、耐えられなくなってアルバムを投げつけた。

 壁に当たり、無造作に開かれるアルバム。

 そして、そこにある文字列を見つけてハッとする。

雄吾ゆうご……」

三年三組に、雄吾という男を見つけた。そのクラスは、吉貴がいたクラスだ。

「……まさか」

一組には優吾ゆうご、二組には祐悟ゆうごがいる。

「知らない、誰だこいつ」

写真に写る人物を、私は見たことがない。

「何だ……何なんだ!」


 しばらくアルバムを見て、気分が悪くなった私は、洗面台で顔を洗う。

 悪い冗談だ。きっと、疲れているんだろう。最近仕事が忙しかったからな……。

 そう思い、鏡を見る。しかし、鏡に写る自分に違和感を覚える。


 私は、こんな顔だっただろうか。

 私は、こんな体型だっただろうか。

 私は……私の名前は……。


 ピーンポーン

 インターフォンのベルが鳴る。

『よお裕吾ゆうご、久しぶり。高校で一緒だった良樹よしきだよ。元気だったか』

それは、知らない男の声だった。

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