第2話 幽霊なんて信じない

 悠斗が作った新しい部活は、零華にとっては混乱でしかなかったーー。

「なっーー。ど、どういうこと?ゆ、幽霊?」

 零華は耳を疑った。幽霊?何を言っているの?このときの零華にとって、悠斗はどこか別世界の人間に感じられた。

「ねぇ、悠斗。悠斗は何を言っているの?幽霊って...それ本気?冗談だよね?」

 あまりに信じられなくて、思わず聞いてしまった。幽霊なんているわけない。よく幽霊はいるって言う人がいるけど、あれは嘘に決まってる。いないったらいないのだ。でも、悠斗は冗談のつもりで言っている訳ではないらしい。だってーー。

「冗談なんかじゃないって。文字通り、幽霊を研究・調査する部で幽霊研究部。」

 悠斗はあっけらかんと言ってのけた。零華は呆然とした。そうこうしているうちに、悠斗は、

「じゃあ、放課後の部活で。あ、谷本先生いなくなってるや。零華、早く準備しないと授業に遅れるからな。」

 悠斗は、次の授業に向けて行ってしまった。その様子をボーッと見ていた零華はハッとした。

「幽霊...幽霊...あっ、ボーッとしている場合じゃないや。...悠斗は本気で幽霊のこと信じているのかなぁ...次の授業に行かないと...」

 零華は釈然としないまま次の授業に行くために歩き出した。


 放課後一一。

先生に部室の場所を聞いた零華は部活に参加一一するわけでは無く、悠斗に聞きたい事があるから向かっている。そして部室についた零華は、一応ノックをした。すると、

「はい?何ですかー?」

あぁ、聞き覚えのある間の抜けた声だ、と零華は安心する。って、安心している場合じゃないんだった。零華は深呼吸して部室のドアを開けた。入ってきた人が零華と分かると、悠斗は笑顔で手を振ってきた。

「あ、零華。来た来た。早速幽霊の情報仕入れて来たんだけどさー。」

幽霊の事を話す時の悠斗は、何故かいきいきとしている。ただ、零華にとっては違う。零華にとって幽霊は信じられないものだ。だから、悠斗が幽霊を信じている理由はよく分からない。でも、悠斗を傷つけるのは嫌だった。傷つけたく無いのに言ってしまった。

「あのさ。」

そう言った零華の声は、自分でも分かる程冷たかった。悠斗も驚いた顔をしている。でも、言ってしまうと、このときの零華にはブレーキが効かなかった。言ったら最後、どんどん言葉が溢れてくる。

「何なの?さっきから幽霊、幽霊って。幽霊信じてるとか馬鹿じゃないの?そんなオカルト信じるぐらいなら一一」

 その時、零華に残っていた最後の理性がこの先の言葉を言うのを必死で止めた。

駄目だ、この先の言葉を言ってはいけない。言ったら本当に悠斗を傷つけてしまう。今だって傷ついてるんだ。 零華は悠斗の顔を見て一一ハッとした。悠斗は傷ついた様子でうつむいている。零華はバツが悪そうな顔をして、

「ごめん。言い過ぎた。」

と言った。悠斗は、笑いながら、

「ううん。気にしては無いから。よく友達にも『お前馬鹿じゃねーの?』とか言われるし。まぁ、幽霊を信じられないって気持ちもわかるし。でも俺は本当に見たんだ。だからずっと信じてるんだ。」

悠斗はそう言って笑うけど、その笑顔は少し引きつっていた。零華は改めて申し訳無い気持ちになった。ただ、これだけは言っておきたいなと思った。

「本当にごめんね。悠斗が幽霊を信じてるのはわかったし、私も言い方が悪かったなって思うけど、やっぱり私は幽霊なんて信じない。信じられないの。ごめん。」

申し訳無いと思いつつも、やっぱり幽霊は信じられない。 沈黙が流れる。空気がとても重かった。その時、ノックの音が響いた。

「何だろう?ちょっと行って来るね。」

零華は気まずさもあってか、足早にドアの方へ向かった。その様子を見送っていた悠斗は、独り言のように呟いた。

「幽霊は絶対にいるはずなんだ。今はそれを証明できないし、零華もいないって言ってるけど、俺は見たんだ。いつか絶対に零華にも一一。」

悠斗の言葉は最後まで続かなかったけど、その言葉と表情は真剣だった。



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