零なんて信じない

水無瀬洙凜

第1話 新しい部活

 給食の時間が終わり、昼休みに入った教室はいつも通りガヤガヤしている。零華の場合、いつもなら読書をするところなのだけど、今日は、否一一。今日こそはそういう訳にはいかない。零華は悠斗を捜...すまでもなかった。教室から脱走しようとしていたのだ。当然、零華がそれを見逃すはずがない。刹那、零華はまるで鬼のような形相で悠斗を追い始めた。

「こらー!待てー!」

それからわずか二分も立たないうちに、悠斗は捕まってしまった。

「佐藤君?君は一体どこに行こうとしていたのかなぁ?」

「れ、零華、ま、待って、待」

「昨日もそんなこと言って結局はぐらかしたよね。それで今日、歴史の勉強やるって言ったよね?」

「そ、それは...」

「あのねぇ...この前の歴史のテスト忘れたの?『1192つくろう室町幕府』って答えたりして12点取ってたでしょう?まぁ、そのレベルで12点取れるならすごいけど。」

零華は呆れたように肩をすくめた。

「もう中ニなんだから、その成績じゃあ高校行けないよ?」

零華はこれでも心配している。悠斗がこのままの成績だと、どの高校にも行けなくなってしまうから。だからあえて自分では厳しめにしているつもりなんだけどー一。だめだ。つい甘くなってしまう。それに、厳しく言っても悠斗は一一。

「えー?だって、中二で高校に使われる成績って三学期のやつだけじゃないの?」

まるで堪えてない。零華はため息をついた。

「あのね、悠斗?三学期の成績っていうのはね、一、二学期の成績を合わせた成績なんだよ?」

本来は当たり前の事なんだけど...零華は喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。それに気づかない悠斗は今になって危機感を覚えたらしい。

「えぇ!?ちょっと待ってくれよ!それって勉強しないとやばいってことか!?」

「だからそう言っているじゃん。」

その時だった。

「そうね。このままの成績だと本当に大変よ?」

突然現れたその人は一一。

「谷本先生!?」

思わず同時に言ってしまった。その様子を見て先生は微笑んだ。

「息ピッタリね。まぁそれはともかくとして、佐藤君?」

「あ、俺っすか?」

「むしろ悠斗以外にいないでしょ。」

「そうよ。鈴原さんの言うように、佐藤君の社会、特に歴史の成績は本当に壊滅的って言って良い位酷いからね。」

面談でもないのに酷い言われようだなぁと、零華は思った。それは悠斗も同じだったみたいで一一。

「えっ酷くないすか!?」

予想通りの悠斗の反応に、零華は苦笑した。

「酷いも何も、事実なんだからしょうがないじゃない。鈴原さんも言ってたけど、このままだと高校に行けないわよ?それに、佐藤君の成績がこのままだと、私が怒られるのよ。」

先生の容赦ない言葉に、悠斗は傷つくというよりは、驚いた顔をする。

「何で谷本先生が怒られるんですか?」

「指導力が無いって校長先生とかに怒られるの。だからこないだ私と話したじゃない。」

零華は予想外の言葉に目を丸くした。先生と悠斗が何を話したんだろう?そんな零華の様子に気づいた先生が、説明する。

「こないだね、佐藤君が私の所に来て、『新学期に入ったので新しく部活を作りたい』って相談しに来たの。ただ、新しく部活を作る場合、手続きがその...ちょっと面倒で...それで、良いって言う代わりに、一つ条件をつける事にしたの。」

先生が言うと、悠斗は気まずそうに頭をポリポリかいている。そして、おもむろに口を開くと、

「その...先生が言うには、『部活の時間で、週に一回は歴史の勉強時間にしなさい。』って。それでどちらか選べって言われたんだよ。」

と言い、悠斗はため息をついている。この時点で零華は嫌な予感を覚えた。悠斗はそんな零華の様子にも気づかずに続ける。

「歴史の勉強をするときに、一人だとだめらしくて、先生に教わるか、誰か友達を部活に引き入れて、教えてもらうかのどちらかにしろって。それで、ちょっと、零華に頼みたくて...」

あぁ、嫌な予感が当たったなと、零華は心の中でため息をついた。そして、そんな零華の様子に気づいたのか、先生まで頼みだした。

「鈴原さん、お願い。こんなことを言うのはどうかと思うけど、鈴原さんは大体の教科で首席だし、佐藤君とも仲が良いでしょ。それで、無理にとは言わないけど頼みたくて...それに、もし入ってみてだめなら廃部にすれば良いから。ね?」

そう言われて零華は少し考えた。今は吹奏楽部に入っているが、今の部活も正直楽しいから、辞めるのは惜しい。でも、お試しで入ってみて部の内容があまりにも酷かったら廃部にすれば良いのか。だって零華は風紀委員なのだから。部を廃部にする権限はある。そう決意して、零華は言った。

「分かりました。一応お試しということで入ってみます。悠斗、その部は一体なんて言うの?」

零華の答いに、悠斗が待ってましたと言わんばかりに答える。

「よくぞ聞いてくれた!それは.........」

長々と溜めてくる様子の悠斗に対して、零華は苛立ちを覚えた。

「早く言ってよ!いつまで溜める気なの!?」

「ごめんごめん。」

そして一拍置いてから話し始めた。

「それは...幽霊研究部!略して幽霊部だ!」

零華は固まった。幽霊?幽霊部?何それ?

悠斗の作った新しい部活は、零華にとっては混乱でしかなかった。

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